第79話公爵閣下になるかもしれない

 さて、次の日になり、公爵家に行くことになった。


「よし!行くか!」


「随分、気合い入ってますねー」


「当たり前だろ!只でさえ、緊張するっていうのに……」


「そ、そうですわよね!?ど、どうしましょう!?」


「はいはい、行きますよー」


「ユウマ様、ホムラ様。お迎えが参りました。行きましょう」


「わかった、ノイン。ホムラ!行くぞ!」


「……ええ!行きますわよ!」


「……団長はともかく、なぜホムラは緊張しているのでしょうねー?」


「だ、だって、もしかしたら結婚ということに……」


「まだ、わからないですよー。ほら、行きましょー」


 そして馬車に乗り、公爵家に着く。

 そのまま、以前の部屋に案内される。


「ほほ、よくきたのう。挨拶はよい。まずは、座るといい」


「は、失礼します」

 

「さて……まずは、王家の血を引く者として礼を言わねばならぬな。感謝する」


「いえ、当然のことかと。礼を言うなら、シノブに。彼女は俺のために、無茶をしてまでカロン様を守ってくれました」


「報告は聞いておる。シノブさん。他国の貴方が、王子を救ってくれて感謝する」


「お礼は受け取ります。……ですが私は、私の欲の為に助けました。団長に褒められたいですから。なので、過度な感謝は結構です」


「ほほ、見事な主従関係じゃな……。ホムラ、大丈夫かのう?」


「お爺様、大丈夫ですわ!そ、その!キスもしましたし!」


 おい!それ今言うの!?


「ほほ!そうか!なら、よい」


 え!?いいの!?……俺がおかしいのか?


「えーと、それでですね……」


「おっと、すまんかったのう。実はな、隠居することになったのじゃよ」


 やはり、そういうことだったか……。


「お爺様!?どこがお身体の具合が悪いのですか!?」


「ほほ、心配するでない。そういうことではない。もちろん、体力的に厳しいのは確かじゃがな……」


「……理由は、俺が伺ってもよろしいものですか?」


「ふむ……いい聞き方だ。どうやら、領主になったことで一皮むけたか。では、ここからはバルムンクーオーレンとして話そう」


 どうやら、合格点のようだ。

 ふぅ、心臓に悪い……。

 よし!覚悟を決めるか。


「はい、お願いします」


「まずは、ワシの職業についてじゃ。国王の後見人だった話はしたかな?」


「はい。宰相様も元部下だと」


「うむ。一線を退いた後は、国王の相談役という立場であった。今回はそれも辞め、完全に隠居をしようと思っておる。その理由は、ティルフォング家の小僧にある」


 ティルフォング家の小僧……サユリさんの父親のことか。

 まあ、この方から見れば小僧か……。


「何かを仕掛けてきたのですか?」


「……なるほど、それなりに知っているようじゃな。手間が省けて、助かるわい。いや、そうとも言えるし、そうとも言えん」


 公爵閣下は、俺をじっと見つめてくる……。

 これは、何かを試されているな。

 考えろ……そうとも言えるということは、何かをしようとしたということ。

 考えろ……そうとも言えないということは、何も起こらなかったと……そういうことか?


「………つまり、ティルフォング家当主が何かをしようとした。それを公爵閣下が、何かを代償にして防いだということですか?」


「………これで、肩の荷が下りたわい。ほぼ正解じゃ。………ホムラ、よくこの男を捕まえた。ワシは嬉しいぞ」


「お祖父様……泣いているのですか……?」


「いかんな、ワシも歳をとったのう。後継者が出来て、安心したのか……」


「……詳しく、お聞かせください」


「もちろんじゃ。まず、あの小僧は自分の娘をカロン様の正妻にし、自分が宰相の座につこうとした。さらには、次世代の国王の祖父になろうとした」


「……なるほど。典型的な、浅い考えですね。宰相とは、そんな簡単なものではないのに」

 

 何故なら、いざとなれば、国王様を身をもって守らなければならない。

 権力に執着するような輩が、ついていい立場ではない。


「その通りだ。ワシも、彼奴が純粋な気持ちでやろうとしたなら、見過ごしていたのだがな……。残念ながら、そうはいかなかった。なので、ワシは隠居を条件に侯爵供を動かした」


「……すみません。それが、どうして条件になるのですか?」


「まあ、仕方あるまい。侯爵共は、ワシに頭が上がらん。いわゆる、目の上のたんこぶというやつじゃ。なので、隠居を条件に、ティルフォング家を抑え込むことに協力させたのだ」


「なるほど、そういうことですか。では……?」


「うむ。あの小僧の企みは、とりあえず防げた。六大侯爵の助力なしでは、公爵といえどうにもならんからのう」


「つまり、俺の方が与し易いということですね……」


 まあ、それはそうだな。

 老獪なこの方と、比べてはな……。

 

「……まあ、侯爵共からしたらそうじゃな。お主の方が扱いやすいと見て、協力したのだろう。それに関しては、気にすることはない。何故なら、ワシはお主の相談役になるのじゃ」


 はい?今この人なんて言った?

 ……なるほど、そういうことか?


「つまり国王様の相談役は引退しますが、公爵家の相談役はやるということですか……」


「ほほ、その通りじゃ!良いのう……これは仕込み甲斐があるのう」


 なんて老獪というか、屁理屈というか。

 これが、オーレンーバルムンクか……。


「……お手柔らかに。でも、隠居はするということは……俺が公爵に?」


 俺は、自分の身体が強張るのを感じつつ、聞いてみた。

 声が震えなかった自分を、褒めたいくらいだ。


「今すぐではないが、そういうことになる。だが、今は状況が色々と変化している。また、予期せぬことも起こり得る。だから、確定事項ではない。もし何事もなくことが済んだら、受けてくれるかの?」


 ……俺が公爵に……?

 この男爵家に生まれた俺が?

 一度は、国をでることを考えた俺が?

 そんな大役を、務められるのか?


「ユウマ……」


「団長!」


 やれやれ……ここでひいては、愛想をつかされてしまうな。


「わかりました。その話、受けさせて頂きます。この一連の騒動が終わり次第、そちらの家に入ることを約束いたします」


「……そうか、やってくれるか。感謝する。ワシが言うのもなんだが、伯爵家はどうするのじゃ?」


「それは……まあ、シノブとの子に継がせれば良いかなと。もしくは、エリカの子でも良いですし。叔父上は……どうですかね」


「団長!今日から頑張りましょうね!」


「ちょっと黙ってろ!今大事なとこ!」


「ほほ、よい案だな。ならば、問題はない」


「ワ、ワタクシも、頑張りますわ!」


「お前……キスだけで、真っ赤になるのに?」


「で、出来ますわよ!今日からでも!」


「……すまぬな、ユウマ殿。少し、教育を間違えたようじゃ」



 こうして、公爵家訪問を、無事に終えた。


 もし何事もなく終われば、俺は公爵閣下になるようだ。


 だが、この時の俺は知らない……まさか、あんなことになるとは。


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