第57話ドワーフ族の集落

俺達はようやく、エデンに入ることが出来た。


「では、皆さん。まずは、ドワーフ族の里に参りましょう」


「はい、ゴランさん。よろしくお願いします」


そうして、馬車二台と馬二頭で進み出す。


1つの馬車には、俺とホムラ。

御者が、公爵家執事でもある、ノインさん。


もう1つの馬車に、アテナとイージス。

2人とも御者席に座って、仲良く喋っている。

何故なら、馬車の中は荷物で一杯だからだ。


そして、ゼノスとルイベ男爵が馬に乗っている。

ゼノスは肩身が狭そうにしていたので、ルイベ男爵が来てくれて良かった。

2人で、なにやら話している。


何故、わざわざ説明しているのかというと、ゴランさんは歩きだからだ。


俺は馬車の中に誘ったのだが、護衛も兼ねているそうなので断わられた。


だが、とても有り難いことだ。


俺は馬車の扉を開け、話しかける。


「あの、ゴラン殿?馬とかは乗らないのですか?」


「ええ。私に耐えられる馬は、中々いませんから」


確かに、体重100㎏はありそうだからな。


「それでは、移動は全て歩きですか?」


「ええ、そうです。ですが、問題はありません。我等は、馬より速く走れますから」


そういや、シノブもそうだった。

改めて、亜人の身体能力の高さがわかるな。


「なるほど……それは凄い。便利で良いですね」


「はは、面白い方だ。大抵の人間は、我等を見ると怯えて、話しかけてもこないのに」


「ああ、その点に関しては問題はありません。身内にもっと恐いのが居ますので」


「ああ、噂の剣聖シグルド殿ですね。我が王グラントが、勝てるかわからないという程の」


流石に、色々調べているな。

俺の身内だと知っているか。


「グラント王は、叔父上を見たことが?」


「ええ。まだ、王位を継ぐ前に。お忍びで王都に行き、剣聖を決める大会を見たそうです」


「なるほど……グラント王は、どの位の強さなのですか?」


「我が王は、特級冒険者でもあられます」


「……それは、強いですね。流石は、鬼人族というところですか」


「ありがとうございます。ただ、我が王が特別なだけですよ。他の者は、1級とか2級止まりです」


いや、十分おっかないんですけど!?

うーん、彼等が穏やかな種族で良かった。


「いや、十分じゃないですか。俺らの中にはいませんよ」


「いや、貴方は恐らく……2級の実力は確実にありますね。1級には、ギリギリ届いている感じに見受けられます」


「それは、嬉しいですね。そういう強さがわかるのですか?」


「ええ、我等は強い者が好きですから。貴方なら、我が王も気にいるでしょう」



そうして2、3時間歩いたところ、集落が見えてきた。


「あれが、ドワーフ族の住処です。彼等は陽気な種族なので、身長のことさえ言わなければ、平気です」


「はい、キチンと学んできました」


すると、ずっと黙っていたホムラが話しかけてくる。


「ユウマ。ワタクシは、ど、どうしたら?」


どうやら、緊張していたようだ。


「ホムラはコミュ障だからなぁ。とりあえず、堂々としててくれ。後は、俺とルイベさんでどうにかする」


「……悔しいですが、否定出来ませんわ。すみませんが、お願いしますわ」


「ああ、任せておけ」


「はは、ホムラ様は良い男を捕まえましたね」


「……ええ、ゴラン殿。ユウマは頼りになる殿方ですわ」


どうやら、ようやくゴラン殿の見た目に慣れてきたようだ。

ずっと、怖がっていたからな。

ゴラン殿も心なしか、嬉しそうだ。


そして集落に到着すると、ドワーフ族の達が出迎えてくれた。


「おい!見えないぞ!?」「あれが、人間か!」「今日は宴だ!」


「皆さん!お客様が戸惑ってます!静粛に!」


「なんじゃ、ゴランもいるのか」「相変わらず、デカイのう」「宴だ!宴だ!」


俺達は、歓迎されているようだ。

だが、挨拶する暇もない……。

どうするんだ?これ?


すると、少女のような可愛らしい子達が、ドワーフ族の男性に近づいていく。

お、あれが女性のドワーフ族かと思った瞬間に、信じられない光景を見る。

なんと、ドワーフ族の男性に拳骨を叩き込み、引きずっていく。

あの可愛らしい容姿からは、想像がつかない行動だな……。

仲間達も、呆気にとられている。



「はぁ、毎回こうですね。お客様がいるというのに」


「え?毎回こんな感じですか?」


「ええ……ドワーフの男は学習をしません。好奇心に任せて行動します。その反対で、女性はしっかりした方が多いですね」


「なるほど。ある意味、上手くできていますね」


「悪意はないので、大目に見てくれると助かります」


「いえ、歓迎されて嬉しいです。問題はありません」


「そう言って頂けると、こちらも助かります。おや、長がきましたね」


俺達がそちらを見ると、頭を押さえながら、ドワーフ族の男性が歩いてくる。

いや、しかし……見た目じゃ区別がつかないぞ?

女性は、まだ髪型だったり、髪色が違うからわかる。

だが男性の方は、ずんぐりむっくりの身体。

人間が、土木作業などで使うような格好。

顔が厳つく、鼻はデカイ。

立派な髭を生やしている。

そして、やはり小さい。


「イテテ、女房のやつ……加減をしらんとか」


「ドルバ殿が悪いのでは?私は、通達しましたよ?大人しく家にいてくれと」


「相変わらず、お堅いのう。仕方あるまい。奴らは、ワシの言うことなんざ聞かん!」


「いや、貴方は長でしょうに……はぁ」


どうやら、苦労しているようだ。


「ゴラン殿、紹介してもらっても良いですか?」


「ああ、そうですね。この方が、長であるドルバ殿です」


「ガハハ!よろしくな!人族よ!」


「ユウマと言います。よろしくお願いします」


「なんじゃ!堅いのう。もっと砕けてこんかい!」


うお、凄いな。

えーと、切り替えろ。

ルイベ男爵やノインさんですら、戸惑っている。

俺がやらねば、誰がやる!


「ああ、わかったよ。これでいいか?ドルバ殿」


「お!良いな!よし、行くぞ!」


すると、確認もせずに行ってしまう。


「ほう、ユウマ殿は器用ですね。臨機応変な対応、見事です」


「まあ一応、貴族であり、冒険者でもありますから」


「なるほど……ふむ、これは中々。いや、しかし……」


「どうかしましたか?」


「いえ。では、行きましょう」


皆でついて行く。


「ユウマがいて良かったですわ。ワタクシ達は驚いてしまって………」


「ええ。恥ずかしながら、私も驚いてしまいました。流石は、お嬢様が惚れたお方です。当主様にも、良い報告が出来そうです」


やっぱり、ノインさんがついてきたのは、それも理由だろうな……。

オーレン様に、俺の仕事ぶりを報告するためだろう。



俺達は、集落を眺めながら進む。

どうやら、木造の家が多いようだ。

そして、平屋建てだ。


そして、広場の真ん中でドルバ殿が待っていた。




「よし!では、何しにきた?」


「まずは、こちらを」


俺は、封筒を手渡す。


「うん?デュラン国王からか。ちょっとまっておれ」


どうやら、その場で読むようだ。


「ユウマ殿」


「ルイベ男爵?どうしました?」


「いや、お役に立てるのか不安になりまして……」


「ああ、さっきのは仕方ないですよ。それに、ルイベ男爵がいるから、俺は安心して行動できるのです。フォローを頼みますよ?」


「ユウマ殿……ええ!お任せください!」


「それと、ゼノスの相手をしてくれて助かります」


「おいおい、ユウマ殿。確かに助かったが、その言い方は酷いくないか?」


「いや、だってゼノスずっと気まずそうにしてたろ?」


「そりゃそうさ。ユウマ殿とホムラ様はイチャついてるし。イージス殿とアテナ嬢もイチャついてるし。独り身には辛いぜ?」


「だ、誰がイチャついてますって!?」「テメー!ふざけんなよ!?どこ見てんだ!?」


「おいおい、あまり刺激するなよ。耐性ないんだから」


「おうよ。まあ、そもそも俺はオマケだからな。邪魔をしないように静かにしてるさ」


すると、ドルバ殿が声をかけてくる。


「おい、読み終わったぞ」


「ああ、ありがとな。で、どうだ?」


「ふむ……まあ、良いだろう。ドワーフ族は同盟に賛成だ。うちの者も、被害を受けているしな」


「そいつは助かるな。感謝する。そうなのか……今もいるのか?」


「ん?ああ、いるな。死にそうな奴はいないが、動けない怪我を負った奴らが」


嫌な言い方だが、チャンスだな。

俺の力を見せることができる。


「よければ、治そう。俺は、回復魔法の使い手だ。報酬は要らない。何故なら、友になるからだ」


「なに!?……その言い方は教会派ではないな。すまん、よろしく頼む!」


「ああ、問題ない。案内してくれ」


俺は皆から離れ、ドルバ殿についていく。

そして、ある木造の家に着いた。


「ここだ。皆の者!ここにいる奴が回復魔法をかけてくれるそうだ!」


すると、看病をしていた女性達が出てくる。


「ホントですか!?」「うちの旦那が!!」「お願いいたします!」


「ええ、御安心を。では、離れてください。怪我をしていない人には毒ですから」


皆が、家から離れるのを確認した。

中に入り、中央に立つ。


「範囲は……半径4メートルってそうだところか。問題ないな。ふぅ…………ここにいる全ての者の傷を癒せ!エリアヒーリング!」


部屋いた10何人かの傷が癒えていく。


「ふぅ、これで良いはず。皆さん!終わりました!確認してください!」


すると、女性陣がドドドドと入ってきて確かめている。


「あんた!傷は!?治ってる!」「こっちもよ!」「こんなの見たことないわ!」


どうやら、成功したようだ。

振り返ると、ドルバ殿が俺の手を引き、広場の真ん中に向かって行く。


「ちょ!?ドルバ殿!?」


「とりあえず、くるのじゃ!」


そして、中央で止まる。


「皆の者!!ここいる我が友ユウマ殿が、怪我人を無償で治してくれた!宴を開こうかと思う!どうだ!?」


「「「「「ウオオオオオオ!!!!」」」」


「よし!では準備をせい!」


ドワーフ達が、慌ただしく動き出した。


「ユウマ殿!感謝する!これで、ユウマ殿は友だ!何か困ったことがあれば、言ってくれ!ドワーフ族は受けた恩を忘れない!」


「こちらこそ、友と言ってくれて感謝する。では、困ったら頼らせてもらおう」


「おう!任せておけ!」


ふぅ……どうやら、ドワーフ族とは上手くやれそうだな。


俺は、一先ずは安心した。

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