第44話オーガとの一対一の戦い

さて、まだ魔物が来るまで少しは時間はありそうだ。


「スレイさん。こちらには、回復魔法の使い手はどのくらいいますか?」


「ええと……有り難いことに、シスターや司祭様が残ってくださいましたので、それなりには」


俺は、朗報だと思った。これで、俺は攻撃に魔力を回せる。


しかし、よく逃げ出さなかったものだ。


やはり、教会からデュランに派遣されるような人は良い人が多い。


いや、良い人だからこそ本国ではやっていけないのだろうな。


まあ、俺らは有り難いけど。


「そうですか。なら、回復は任せて平気そうですね。では、スレイさんは慣れているでしょうから、門の守備の指揮をお願いします。俺達は門を出て、数を減らします。良いですか?」


「はい!任せてください!」


「お願いします。オーガさえ倒せれば、瓦解するはずです。なので状況にもよりますが、こちらから仕掛けるつもりです。なので、5級相当の人を集めてください」


「わかりました!では、皆に伝えてきます!」


そう言って、スレイさんは走っていった。


俺は、思い出していた。先程のバラルさんと、カナエさんとの話し合いを。


この街の住人は、およそ2万人。これは、街としては平均だ。


そして兵士約2000人。冒険者が約500人。


だが、その中で5級相当の実力者は300人程度しかいない。


こっちには、5級相当が150人。あとは、それ以外が1100人。


つまりほとんどの兵士は、6級相当のオークと互角程度、もしくは勝てないということだ。


この辺は、本来なら強い魔物はいないはずだから問題はなかったのだがな。


はたして、どの程度持たせられるか。やはり、短期決戦の方がいいかも知れん。


すると、俺の前にぞろぞろと、予定通り150人ほどの人数が集まってきた。


俺はお立ち台の上に立ち、集まった奴に大声で告げた。


「先程も言ったが、指揮官であるユウマだ!ここにいる人数で、門を討って出る!理由は諸君もご存知の通りだ!おそらく、相当の数が予想される!その場合、門の強度的に持たない!なのである程度引きつける必要と、数を減らすために俺に協力してくれ!頼む!」


「き、貴族様が頭を下げたぞ!」「平民の俺らに?」「この街の人間じゃないのに」


「今は、貴族かどうかなど関係ない!ただの、この街を守りたいと思う1人の男だ!で、どうだ!?協力してくれる奴らは、声を上げろ!!」


すると、ポツポツと声が上がり始めた。


「お、俺はやるぞ!」「俺もだ!嫁と子供がいるんだ!」「そうだ!母さんと父さんがいるんだ!」


そして次第に1つに纏まり、1つの大きな声になった。


ウオオオオオオ!!!!


すると声が収まったタイミングで、見張り台の上にいる兵士が叫んだ。


「き、きたぞー!ゴブリンとオークがいる!オーガはまだ見えない!ゴブリンとオークの数は軽く1000は超えていると思う!ゴブリンジェネラルやオークジェネラルは見当たらない!」


辺りに、緊張が走る。


そして、俺は安心した。


ゴブリンジェネラルやオークジェネラルがもしいたら、作戦を変更しなくてはならなかったからだ。


まあこの辺にはいないはずだが、万が一ということもあるしな。


「団長、いよいよですぜ?俺はどうします?」


「俺が最初にデカイのかますから、その後を任せたぞ!」


「へへ、久々ですな。腕がなるぜ!」


「団長、わたしはー?」


「シノブはすまないが、遊撃しながら危なそうなところがあれば助けてやってくれ」


「了解です。まあ、アロイスさんなら団長を任せても平気ですねー」


「よし!ではいくぞ!皆の者!我に続けー!!」


俺は先頭に立ち、門を飛び出していく。


その後ろを、150人が続く。


俺はゴブリンとオークに近づきながら、魔力を剣に纏わせる。


今なら、前方に味方がいない。使うならここだ!


「ハァァァァ!全てを斬り裂け!魔斬剣!」


俺は魔力を込めた剣を、水平になぎ払った。


すると魔力の斬撃が飛んでいき、前方のゴブリンやオークを真っ二つにしていく。


おそらく50~70程度はいったはずだ。


俺は呼吸を整えるために、一度立ち止まる。


「野郎ども!団長がやってくれたぞ!続け!!目に物見せてやれ!!」


「「「「「ウオオオオオオ!!」」」」


その俺が開けた穴に、後ろからアロイスと兵士達が雪崩れ込んでいく。


「団長!いきなりで大丈夫ですかー?」


「ああ!大丈夫だ!大分、完成に近づいてきた!魔力も、思ったより減っていない!」


「なら、大丈夫そうですね!では、わたしも行ってきまーす!」


シノブは、別方向からオークとゴブリンの群れに飛び込んでいった。


まあ、あいつなら問題ないだろう。


そして俺は、振り返って確認する。


俺達を無視して200ほどの魔物が門に向かっているが、外壁からの弓や、魔法で撃退している。


門の前でも数名で一箇所に固まって、各個撃破している。


「よし、大丈夫そうだな。さて、俺も数を減らしつつ、オーガを探さなくてはな」


俺は走り出し、アロイス達が撃ち漏らした魔物を一太刀で斬っていく。


俺のこの剣は業物ではあるが、さすがにこの数は斬ったことがないので少々不安だった。


俺はそのまま斬っていくが、オーガは見当たらない。


そしてその合間合間に俺は怪我をしたりした奴に、回復魔法をかけて一度下がらせる。


これはイージスとアテナと方にいるかもと思った時、前方から声がした。


「団長!いましたぜ!」


「お!いたか!俺もすぐ行く!」


俺は、オークとゴブリンを斬り伏せながら前進していく。


正直、今の俺なら何百匹でも問題ないかもしれない。


なんというか間合いが完全に把握できつつ、周りの状況を見ずとも気配でわかる。


もしかしたら、戦争でのオーガ戦が効いたのかもな。


「団長!来やしたか!」


「何処にいる!?」


「ここを抜ければいるはず!」


「わかった!俺が突っ込む!後に続け!」


「へい!合点承知!」


俺は剣を振るいながら、前だけを見て走る抜ける。


そして道が開けた!


そこには、まさしく鬼の形相をしたオーガがいた。


ガアアアアア!!!!


3メートルほどのオーガは、俺目掛けて鉄棍棒を叩きつける!


俺はそれを、余裕をもって避ける。


そしてそのまま、何度も叩きつけてくる。


そして、俺は気づいた。自分が強くなっていることに。


もちろん大変だが、前回程じゃない。


これなら油断さえしなければ、ソロでも行けそうだ。


「アロイス!此奴は俺がやる!お前は俺の邪魔する奴を頼む!」


「な!?いや、団長がそう言うなら大丈夫か!わかりやした!任せてくだせえ!」


俺は剣の剣先を水平より少し下げ、下段の構えをとる。


そして棍棒が振り下ろさる度に、俺はそれを半身だけずらして躱し、逆袈裟でオーガの足にダメージを与えていく。


オーガはそのダメージを無視できないと思ったのか、一度立ち止まる。


俺は油断しないよう、オーガの一挙手いっきょしゅ一投足いっとうそくに注目する。


そして、周りの音が聞こえなくなってくる。


この騒がしいはずの戦場で、俺とオーガしかいないみたいに。


俺はチャンスだと思い、魔力を剣にまとわせながら、徐々に間合いを詰めていく。


先程の飛ぶ斬撃では、至近距離でないとオーガには致命傷は与えられないからだ。


そして業を煮やしたのか、オーガが鉄棍棒を両手で持って振り上げた。


俺は考えたな!と思った。それなら威力もスピードも倍になる!


だが、甘い!俺は既に魔力は貯め終わっている!


そして、既に俺の間合いだ!


俺は魔力を込めた剣を、逆袈裟で振り抜く!


オーガは、俺が焦って空振りをしたのだと思ったのか、一瞬笑った。


だが次の瞬間、オーガの身体は胴体と下半身に分かれて絶命した。


おそらくオーガには最後の瞬間まで、自分が何故死んだのかわからなかっただろう。


「野郎ども!!!団長がオーガを倒したぞ!!!後は雑魚共だ!!!行くぞ!!!」


ウオオオオオオ!!!


俺は息を切らしながら、アロイスがいると本当に助かるなと思った。


「団長、大丈夫でしたねー。一応、いつでもいけるように近くにいたんですが」


「おお、シノブか。返り血で真っ赤だな。ああ、どうやら一皮むけられたらしい。負ける気がしなかった」


「ふふ、流石はわたしが見込んだ男です!」


「はは、ありがとよ。さて、では俺らも掃討戦に……」


「団長?どうしました?」


俺には後方から一騎、馬に乗って走ってくる人が見えた。


俺は嫌な予感がして、その馬に駆け寄っていく。


その馬に乗った人は、戦場を無理をして駆けたからか、全身傷だらけで血塗れのスレイさんだった。


「どうしました!?何がありました!? 」


「うう、ユウマさん……よかった。たどり着いた……。あちらに、紫のオーガが現れました。兵士達が、手も足もでずに死んでいくと報告が。今は、イージスさんとバラルさんが必死に抑えているそうです……」


俺は衝撃をうけたが、飲み込んだ。今は驚いている場合ではない!


「シノブ!解放を許可する!俺がいくまで時間を稼いでくれ!だが無理はするな!」


「はい!でも無理はするなって無茶言いますね!これキツイんですよ!?」


そしてシノブは、いつ如何なる場合も外さないシュシュを外し、ポニーテールを解く。


そしてその瞬間、身体から目に見えるほどの紅い魔力が放たれる。


するとシノブの黒髪が真っ白に染まり、口元から2本の歯が伸び、眼が紅く染まった。


これが始祖の血の解放。所謂、完全なる真祖化である。


その状態のシノブは、あらゆる能力が跳ね上がる。


「では!団長!行ってきます!ただこれ、あんま長持ちしないので、回復終えたら来てくださいよ!?」


「ああ!わかった!重傷者を回復してすぐに行く!」


俺は、スレイさんに回復魔法をかけながら答える。


「わかりました!ではシノブちゃん、行ってきまーす!」


そう言うと、シノブは一瞬で消え去った。相変わらず早すぎる。


俺は、回復魔法をかけながら思った。


しかし、怒り狂ったオーガジェネラルだと?勝てるのか?





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