第43話強襲!スタンピード!
その一言に、ギルド全体が騒ついた。
皆が何が起きたのかわからず、不安な表情の中、1人の声が響いた。
「はい!皆さん!落ち着いて!ギルドマスターのカナエです。では、そこの男性。詳しく聞いてもいいですか?」
「は、はい!えっと、今、街道からこの街出身の商人が逃げるように駆け込んできて、もうすぐゴブリンやオークの大群が来るって!」
「なるほど、わかりました。皆さん!これは非常事態です。ギルドマスターの名において、特例法を発動します!緊急依頼として、いつもの倍の貢献度と報酬を用意いたします!」
俺は、さすがギルドマスターだと思った。
この状況で、落ち着いて的確な判断ができるとは。
ちなみに特例法とは、基本的にギルドは街の防衛などには参加しない。冒険者とは命あっての物種だし、そういうのは国の管轄だからだ。
ただ、街が危機に陥るような状況のみ、特例法として防衛に参加をすることができる。
もちろん逃げるのも自由だが、その分のペナルティは大きい。
それに逃げてどこに行くという、問題もある。
逃げきれればいいが、捕まれば悲惨な目にあうのは確実だ。
それなら皆で協力し、防衛した方が結果的に生き残る可能性も高い。
それになにより、貢献度と報酬が倍というのは魅力的だしな。
さらに、国からも報酬がでる。
俺がそんなことを思い出していると、カナエさんに話しかけられた。
「ユウマ殿……申し訳ないのですが……」
「いえ、大丈夫です。もちろん、参加させていただきます。貴族としても、冒険者としても」
「ええ、もちろんでさあ。俺も参加しますぜ!」
「お2人とも……ありがとうございます!ここには、5級までしかいないので心強いです!」
そう言って、俺達に頭を下げた。
「頭を上げてください。これは恐らく、貴族の不始末でもあります」
「やはり、そういう事だと思いますか?」
「ええ。ゴブリンとオークですから。それを従えるのはオーガでしょう。ここは、ウィンドルとの国境とは遠いですし」
「やはり、そう思いになりますか……でも、確認はきちんとしたはず」
「いえ、そうとは言えません。何故なら、見たのは商人と兵士であって、専門家ではありません」
俺がそう言うと、カナエさんはしまった!という表情をした。
「そうでした!これは私のミスです!複数の人が確認したということで、安心していました……」
「まあ、過ぎたことは仕方がありません。今は、どう乗り切るかです。指示に従いますから、好きなように使ってください。もちろん、無茶なのは嫌ですけど」
「ユウマ殿……本当に良い意味で、貴族らしくない方ですね。わかりました。では、有難く使わせていただきます」
俺達がそんな会話をしていると、シノブ達がギルド内に入ってきた。
「団長、馬は街の
「おう、シノブ。ありがとな。もちろん、参加だ。アテナとイージスもいいな?」
「はい!もちろんです!ここで止めないと故郷が危ないですから!」「ああ!アタイも手伝うさ!」
「という訳で3級4人と4級1人です。どうしますか、カナエさん?」
「皆様、ありがとうございます!では、話し合いをするために、すぐに領主の館に参りましょう!」
俺達はそのまま、領主の館へ向かった。
そして門には誰もいなかったので、カナエさんが大声で言った。
「ギルドマスターのカナエです!話し合いがしたいのですが、責任者の方はいますか!?」
すると年齢50歳ほどで、身長190くらいの大男が現れた。
俺はこんな状況下だが、アロイスが歳とったらこんな感じだなと思った。
「俺が、たった今決まった責任者のバラルだ。とりあえず入ってくれ」
俺達は嫌な予感がしつつも、中に入っていった。
そして会議室らしき部屋に通されたが、肝心の領主の息子達が見当たらない。
「さて、疑問に思っているだろうから言う。先程、領主一家は制止を振り切り逃げ出した。すまない。犠牲を払ってまでは、止める事が出来なかった」
はあ、嫌な予感的中。
「なんと言う事……街を守るべき領主が誰よりも先に逃げ出すなんて……」
「ああ、本当にその通りだ。祖父のダンカン様の時は、こうではなかったのだがな。やはり、早くに亡くなられたのが痛かったな。息子の教育ができず、ろくでもない奴になった。そして、その息子2人も父親に似たしな」
ギルドマスターが放心しているようなので、俺が話を続けた。
「あの、貴方はどういう関係の方ですか?」
「俺は、祖父のダンカン様に仕えていた者だ。現在の肩書きは、守備隊長だ。そういうお前は、貴族だな?」
「これは、失礼しました。私の名はユウマ-ミストル。準子爵です。ただ今回は冒険者としてきていますので、そこは気にせずに」
「ほう、これは失礼した。どうやら、馬鹿領主一家とは違うようだ。他の連中は黙っているが、あんたがリーダーなのか?」
「ええ、俺が団長です。冒険者ランクは3級なのでご安心を。連れも3級と4級ですし」
「な!?3級と4級だと!?すまないが、信じられないから見せてもらっても?」
俺達は、それぞれ紋章を見せた。
「ははは!こいつは良い!もう駄目かと思ったが、まだ天は俺達を見放してはないらしい!いや、疑って悪かった!」
「いえ、当然の疑問でしょう。どう見ても、若いですから」
するとカナエが気を持ち直したようだ。
「ユウマ様、バラル様。申し訳ありませんでした。もう大丈夫です」
「いえ、仕方がないですよ。まさか領主一家が真っ先に逃げ出すとは思いませんよ」
「ああ、此奴の言う通りだ。じゃあ、この7人中心で話し合うか」
ちなみにバラルさんが、商人が駆け込んできた時点で、王都に早馬を出してくれていた。
中々仕事ができて、信用できそうだ。
そうして、7人で話し合いが始まった。時間も限られているので、簡単な事だけだが。
まず、門が2つある事。平民用、貴族用だな。
なので、二手に分かれて防衛をすること。
貴族用の方に俺、アロイス、シノブ。
平民用にイージス、アテナ。
もしイージス側にオーガがでたら、足の速いシノブが急行する。
カナエさんが、状況に応じて冒険者を振り分けて指揮する役目だ。
バラルさんは、全体の兵士の指揮や振り分ける役目だ。
そしてオーガが確認出来たら、状況を確認し倒せそうなら倒す。
無理なら、王都の救援を待つ。
ただその場合は、早馬が深夜に着き、深夜は準備できないので翌朝になり、そこから半日かけて準備をし、出撃するので最低でも1日以上はかかるな。
「ところでバラルさん、オーガの死体はどこですか?確認したいのですが」
「あ?時間はあんまねえぞ。まあ、いい。あれならこっちだ」
俺達は、オーガの死体がある所に案内された。
まず思ったことは、小さいなということだ。
「団長、どうやって倒したのか疑問でしたけど、どうやら弱い個体だったようですねー」
「ああ、そのようだ。すみません、バラルさん。では行きましょう」
俺は門の前で、別行動になるイージスとアテナに声をかける。
「さて、イージスとアテナ。別行動になるが、死ぬんじゃないぞ?」
「はい!まだ何も恩返しできてないのに死ねません!」「アタイを誰だと思ってるんだい!?」
「ああ、そうだな。お前達なら安心だ。では、また後でな!」
俺は、アロイスとシノブを連れて貴族用の門へ向かう。
そこには、住民が押しかけていた。
領主一家はどこ行ったんだ!?とか。他の貴族もいないぞ!?とか。俺らを見捨てたのか!?とか。
まあ、当然の怒りだな。貴族とは、民の税金で生きている。そして貴族は、民の安寧の暮らしを守る。
そういう関係のはずなのだが、最近の貴族は腐っているようだ。
俺は、有らん限りの力を込めて言葉を発した。
「全員、注目ぅぅぅ!!!!!」
そうすると、皆が一斉にこちらを向いた。
「俺はユウマ-ミストル!!爵位は準子爵!!冒険者ランク3級の者だ!!ここの防衛を任されることになった!!皆協力してほしい!!そして市民の方々!!不甲斐ない貴族に代わり、謝罪をする!!本当に申し訳ない!!」
「あ、あんたも貴族なのか!?俺達を見捨てて逃げないのか!?」
1人の男性が、話しかけてた。
「ああ!俺は逃げない!守るべき民を見捨てる奴など貴族ではない!市民の皆様!ここにいては危険なので、家の中へ!俺は力の限りを尽くして、貴方達をお守りします!」
「おお、貴族にもあんなお方が」「ご立派な方もいるんだ」「若いのにすごいな」
そうして、押しかけてきた市民達をなんとか家に返した。
あれじゃ守れるものも、守れないからな。
「団長!お見事でしたぜ!」「団長!シビれましたよ!」
「はは、よせやい。照れるじゃねえか」
すると鎧を着た、30歳くらいの兵士が話しかけてきた。
「ご協力ありがとうございました。あの、貴方が指揮官ということですか?」
「ああ。こんな若造で不安だろうが、市民を守るために協力してくれ。頼む」
「いえ!こちらこそお願いします!先程の言葉に感激しました!まだそんな貴族がいたなんて!あ!すいません!申し遅れましたが、ここにいる中では、階級が1番上の男爵のスレイです!」
「何を言っているのですか?貴方も逃げ出さずにいる、立派な貴族じゃないですか」
「いえ、私なんかは別に。ただ、ここの市民の方々には大変お世話になっていて、見捨てることが出来なかっただけです」
「それこそ、正しい貴族の在り方だと思います。こちらこそ、そんな方がいて嬉しく思います。一緒に協力して、街を守りましょう」
「はい!よろしくお願いします!」
さて、これでとりあえず最低限の準備は整った。
どうなるかはわからないが、全力を尽くす!
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