第6話叔父上は酔いどれ剣聖

突然だが、デュラン王国は剣の国だ。


剣が強いことが、一種のステータスになる。


なので我が国には、初代国王が定めた、剣のみ使用可能な大会がある。


その大会は3年に1回で、15歳から参加可能である。


そこで優勝した者は、剣聖の称号を与えられる。


そして、初代国王の遺言がある。


優勝者は、次の大会がある3年後まで衣食住を与えられ、伯爵相当の扱いを受ける。


だが、次の大会の優勝者との戦いに負ければ剥奪、勝てば防衛となる。


そして大会を三連覇した者には偉業を称え、永世剣聖の称号と、一代限りだが名誉伯爵を名乗ることを許される。


ちなみに、建国500年の間に、それを成し遂げた者は5人しかいない。


もし三連覇を達成した者が現れた場合にも、遺言が残されている。


三連覇する程の人物を腐らせてはいけないと言うことで、三連覇をした者には命令拒否権が与えられる。


それは、たとえ国王であろうとも例外はない。


俺の親父もそうだったが、剣1本で生きてきた人が政治の腐敗した部分や、軍内部の闘争に巻き込まれて、歪んでしまうのを防ぐためだと思われる。


さて、何故長々と話したかというと、理由がある。


今、俺の目の前にいる人こそ歴代最強の永世剣聖であり、初代国王デュランの再来と言われる、俺の叔父上でもあるシグルドその人だからだ。


身長は185ほどで、年齢は30歳。


無駄な筋肉などない、筋肉隆々の身体の持ち主だ。


黒髪黒目で、髪は腰よりも長いのを、一本に縛っている。


シグルド叔父上は入ってくるなり、怒鳴りだす。


「ランド兄貴とバルスが死んだって!?たく、兄貴は弱いくせに無茶するからだ……馬鹿野郎が!」


「叔父上落ち着いてください。今の今まで寝てたんですか?」


「すまん、今日の朝まで飲んでいてな。さっき起きたら、手紙が入っててよ。それ見て、飛んできた」


俺はため息を吐く。


「叔父上?酒好きもほどほどにと、申し上げましたよね?とりあえず、そこを動かないでください」


俺は叔父上に近づき、呪文を唱える。


「かの者に宿る異物を取り除け、リムーブ」


「おー!スッキリした!相変わらず、お前の回復魔法は便利だな!」


「いや、本来の用途とは全然違うのですけど?」


「ハハ!良いじゃねえか!細かいことは気にすんな!」


「叔父上は、もう少し気にしてください!」


「わかった、わかった。で、これからどうなる?」


「とりあえず、俺が爵位を継ぐ予定です。叔父上代わります?一応叔父上にも、権利はありますよ?」


「勘弁してくれ、俺には向かん。お前に任せる!お前なら安心だ!」


「……ただ、面倒なだけでしょ?」


「……そうとも言う。しかし、散々継がせないと言われていたお前が継ぐことになるとは、人生はわからないものだ……」


「そうですね……まさかこうなるとは、予想もつかなかったです」


「で、どうした?なにか暗い顔に見えるが?」


「……叔父上には誤魔化せないですね」


「当たり前だ。何年お前の師匠をやっていると思ってるんだ」


「はは、敵わないな……。いや、俺さ……2人が死んでも全く悲しくなくてさ。エリカや母上が泣いているのを見て、俺は冷たい人間なのかなって」


「まあ、お前の境遇を考えれば無理もないと思うがな」


「あと、どちらかが生き残らなくて良かったとも思ってしまってさ……」


「ふむ、それはどうしてだ?」


「だって親父が残るにしろ、兄貴が残るにしろ、家は揉めることになる」


「家臣は、ユウマに継がせようとするだろうな。お前は人気あるからな」


「俺はいたって、普通のことしかしてないんだけどね。挨拶をする、お礼を言う、謝るくらいだし」


俺は、いつも思っていた。

何故、家臣におはようございますと言われても、返事をしないのかと。

家臣が助けてくれたのに、何故お礼を言わないのかと。

自分がミスをしたのに、何故謝らないのかと。



「それが出来ない奴が、貴族には多いからな。だから俺は、そういうのとは縁を切ったんだ」


「でしょうね。俺に務まるかな?」


「逆に、お前以外には務まらん。俺はもう家を追い出されて軽く10年以上経つ。今更だ。お前はちょくちょく顔を出していたし、好感度高いから問題ないだろ」


そうなのだ、叔父上は親父から絶縁状を渡されている。


理由は簡単だ。

次男である叔父上の才能に嫉妬した親父が、自分の地位が脅かされると思い、そうしたんだ。

なんとも、情けない話である。


まあ、それこそが俺が親父に嫌われた原因でもあるのだけど。

俺も次男なのに、兄貴より剣の腕が良かったので、被って見えたのだろう。

叔父上には、特別可愛がってもらってたしな。


ちなみに、そのことで叔父上を恨んではいない。

むしろ、親父の器の小ささを申し訳なく思うくらいだ。



でもまさか親父も、絶縁した弟が5年後に剣聖になるとは、思ってもみなかっただろう。


「わかりました。とりあえずやってみます」


「まあ、悲しめない点については気にするな。俺とエリス義姉さんは、兄貴とバルスの優しかった頃を知っている。エリカも小さい頃は可愛がってもらってただろう?ただ、お前は物心ついた時には、親父とバルスから虐げられていた。だから、無理もない。それに俺にも責任はあるしな……」


「叔父上は悪くありません!悪いのは、あのクソ親父です!俺は、叔父上には感謝しかしていません!叔父上は、親父や兄貴に虐げられていた俺に、色々なものを与えてくれました!叔父上がいなければ、俺は間違いなく歪んでいた!」


「ユウマ……へへ、そうか。俺の罪も、少しはマシになったかね」


「叔父上……」


「よし!今日は2人で飲むか!そんで、お互いに嫌なもの吐き出して、明日からは前を向いて生きるぞ!」


「いや、さっきまで酔っ払ってましたよね!?また飲むんですか!?」


「馬鹿野郎!飲まずに話せるか!ほら、行くぞ!」


叔父上はそう言い、部屋を出ていく。


俺は、慌ててついていく。


そして、その背中を見ながら思う。


照れ臭くて絶対に言えないけど、父親の愛情を知らない俺は、貴方を父親のように思っていると。

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