ドワーフの侍女

 ベルダンディー提案の墓を作らず、倒れたドレッドは寝かせて起きてくるまでしばらく待つことにした。

 残った三人は、馬車から物資を山小屋に運び入れていく。


「ジョセフィーヌお嬢様、私がやりますので……」


「良いの良いの、木箱を片手で運べば筋トレになりますわ」


 侍女がお嬢様に荷運びをさせるなど普通などとんでもないのだが、普段からジョセフィーヌは何かと理由を付けて手伝ってしまうのだ。

 ベルダンディーも諦め気味である。

 それを横目にアースも木箱を持ち上げて男の筋肉をアピールする。


「ははは! 俺も手伝ってやっているぞ!」


「アース様、あなたはジョセフィーヌお嬢様とご婚約なされたのですから手伝うのは当然です。手伝わない男なら私が婚約破棄をお嬢様に提言いたします」


「……帝国第一皇子相手にも容赦ないな! さすがジョセフィーヌ付きの侍女だ!」


「恐れ入ります。ジョセフィーヌお嬢様のお父様には大恩がございますので、それをお返しするためなら相手が誰であろうと関係ありません」


 そう言うとベルダンディーは小さな身体で、重そうな木箱を軽々と持ち上げた。

 どこにそんな筋肉があるのだろうと思い、アースは聞いてみる。


「ベルダンディーよ、服の下は俺と同じでムキムキなのか?」


「いえ、私の種族はドワーフなので」


「あのドワーフか……珍しいな……」


 ドワーフは、この大陸では希少種とされている存在である。

 身体が小さく、力が強くて鍛冶や採掘を得意とするといわれている。


「ドワーフなのに髭がないんだな。……もしかして、女だから髭は生えないのか?」


「……剃っています。あと、女性に対してそういうことを言うのはデリカシーがありませんよ。他種族でもです」


「ほう? そうなのか? それはすまなかった」


 アースは珍しく素直に頭を下げて謝罪した。

 ベルダンディーもそれに対してはもう何も言わない。

 それを見てジョセフィーヌは意外なモノを見たな~という心境だった。

 ガサツの固まりだと思っていたアースでも、たまにはそういうことを気にするのだ。

 それと、一つ気になることがあった。


「そういえば、ベルダンディーは昔から力持ちですわね」


「ええ、はい。ドワーフなので種族的なものです」


「そんなに筋肉が付いているようには見えないけど……力が強い。何か筋トレに目覚めた後のわたくしみたいだなーと思ってしまいますわ」


 小柄なのに力が強いドワーフというのは今まで知っていたが、それを意識してみると急に自分と重なりだしたのだ。

 グランツが解明しようとしていた筋肉の謎の手がかりになるかもしれない。


「普通の人間と違って筋肉の魔力伝達率が良い……というのもありますが、そうですね……」


 ベルダンディーは無い髭を擦るような仕草をして、思案げな表情を見せる。


「ドワーフの神話では、神に筋肉を奉納しているという伝承もあります」


「筋肉を奉納」


 パワーワード過ぎてジョセフィーヌはオウム返しに呟いてしまう。


「そして、いつか鍛えきれば神の筋肉が天から舞い降りると……」


「なるほど、ドワーフは筋肉信仰だったのね」


「面白い話だと、勇者の筋肉を鍛えて、聖剣も授けたというのがあります」


「意外と世界に関わってますわね、ドワーフ」


 その言葉に、ベルダンディーは少しだけ寂しそうに笑って答えた。


「魔王討伐後の魔族やその混血よりはマシですが、世界救済に貢献したドワーフも人間が主体の大陸では生きにくいですよ」


「ベルダンディー……」


「さてと、運び入れが終わったので私は戻りますね。ジョセフィーヌお嬢様、また来ます」


 馬車に乗って去って行く侍女を見送って、ジョセフィーヌは慈しみを含んだ微笑みを見せていた。


「ベルダンディー。世界が貴女をどんな目で見ても、わたくしだけは……」


 ずっと一緒だった絆を噛み締めるようにして呟き、小屋に戻って布団に入って寝ようとした。

 すでに起きてきていて、置物のように立っている黒鎧をスルーして。


「コーホー……コーホー……」

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