第22話 ララ視点


 ……あたしたちの家のポーションは公爵家のお墨付きをもらっている。

 それは祖父母の代からずっと続いている由緒ある薬屋だ。

 こ、こんな冒険者共にあたしたちの――いや、リフェアはともかくあたしのポーションまで一丁前に査定されたくない!


 こんな名も知られていないような冒険者たちに、あんなことを言われて頭に来ない人はいないだろう。


「ていうか、ルーネさん以外の二人は……その、接客の態度悪くない?」

「そうだよね? 前なんかずっと爪気にして弄っていて、こっちが質問しても無視したよね?」

「そうそう! ルーネさんが他のお客さんの対応に忙しそうだからって思って声をかけたのにねー」

「ま、もう行くことはないだろうし、会うこともないだろうから別にいいけどさ」

「そうそ――」


 ちょうど彼らが席を立ったとき、ひっ、と短く悲鳴をあげた。

 あたしたちが睨みつけていたからだろう。彼らは何も言わず、気まずそうに立ち去っていった。

 

「たかが冒険者ごときにあたしたちのポーションがあんなにけなされるなんて最悪なんだけど!」


 あたしが叫ぶと、リフェアもおなじように声をあげた。


「そうよね! まあ、あんたのポーションは別に美味しくないけど」

「あんたのが、よ! ていうか、評判が悪くなってるの、あんたが原因じゃないの!?」

「はぁ!? 姉さんはすぐに人のせいにするんだから!」

「あんたでしょそれは!」


 リフェアは昔から本当に生意気でわがままだ。

 ……まあ、いいわ。

 私は一度深呼吸をして母の言葉を思い出す。

 

『実力あるものはいずれ評価されるものよ。だから、ララ。失ってからじゃ遅いの。あなたは長女として、みんなと仲良くしてね』


 母さんはよくそんなことを言っていた。

 最後のほうの言葉についてはよく分からないけど、母さんの言葉に従うのならば、私たちの実力もいつかは正当に評価されるはず。


 だから、今は気にしなくてもいいわね。

 そう思いながらあたしたちは薬屋へと戻っていった。


 昼食をたくさん食べ、満腹になってきた。

 そろそろ、お金も少なくなってきてしまったけど、客が戻ってくればすぐにでもまたお金は溜まる。


 公爵様からの依頼だってまたあるかもだしね。

 その時だった。騎士がこちらへとやってきた。バルーズ様の騎士だろう。

 私たちは思わず顔を見合わせる。


「もしかして、迎えに来たのかしら?」

「かもね。私を、だろうけど」

「はっ、そうだったらいいわね」


 あたしたちは睨みあってから、すぐに店の前で待機していた騎士へと声をかける。


「どうしたんですか?」 

「ん? ああ。ラフィーナの薬屋のララとリフェアで間違いないか?」

「はい、そうですよ」

「そうか。オレはバルーズ家の遣いの騎士だ。この家に渡していた、公爵家公認の薬屋を示す権利書があったはずだ。少し見せてはもらえないか?」

「分かりました」


 騎士の言葉に素直に従い、あたしたちはそれを取りに向かう。

 確か、母の部屋にしまってあったはずだ。

 すっかり埃だらけになってしまった部屋の机へと向かう。

 大事なものなので鍵がしてあり、あたしはすぐに開錠して取り出した。

 それを持って騎士の元へと向かうと、騎士は権利書を掴んで、立ち去ろうとした。


「ちょ、ちょっと! 何どういうこと!?」

「ああ、すまないな。これがバルーズ様からの文書だ」


 騎士がすっと気だるげに文書を渡してきた。

 バルーズ家の家紋の判が押されたそれは、間違いなくバルーズ家のものだ。

 私たちはちらとお互いに顔を見合わせる。


「文字、あんまり読めないんですけど」


 勉強とか嫌いだったので、昔からあたしたちは本とかは一切読まなかった。

 母によく注意をされたけど、ポーションは問題なく作れるようになったので、強く注意されることはなかったしね。


「ああ、すまない。それでは簡単に説明しよう」


 こほん、と騎士が咳ばらいをした後、声を張りあげた。


「これより、公爵家より与えていた公認の薬屋という権利を剥奪させてもらう。今後、一切名乗らないように」

「「はあああ?!」」


 騎士は、それだけを言って立ち去ろうとしたので、呼び止める。


「な、何かの間違いでしょう!?」

「間違いではない。正式な文書として先ほど渡しただろう?」

「う、嘘よ! そんなわけないでしょ!? ていうか、それがなくなったらこの薬屋の価値が少し下がってしまうじゃない!」

「……いや、それは別に。実力ある店ならば、特に問題はないだろう? 公爵様が出していたのは、あくまで商品の安全性についての保証だったはずだ」

「だ、だけど……!」


 ただでさえ、今店に人が来ていないのだ。

 これで、公爵家の公認という立場までも失ってしまえば、どうなるか分かったものじゃない。


「オレもあくまで使いだ。ここで何を聞かれても、仮に懇願されたとしてもどうすることもできない。それでは」


 騎士は私たちの手を払い落とすと、公爵家のほうへと歩き去ってしまった。

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薬屋の聖女 ~家族に虐げられていた薬屋の女の子、実は世界一のポーションを作れるそうですよ~ 木嶋隆太 @nakajinn

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