第298話 タカトウ艦を修理する

 第6ドックのメインハッチが開く。

ここはガイアベザル帝国の者により破壊された出撃ハッチとは違う場所になる。

タカトウ艦は、第1魔導機関のみを使用し、ゆっくりとドック内に侵入して来た。


「ほう、面白いな。ニムルド型とほぼ同じか」


 その艦は俺の分類では駆逐艦と呼んでいるタイプだった。

やはり同じ魔法文明を祖とした別次元の者たちなのだろう。

MAOシステムと戦っているとなると、今後は味方となって欲しいところだ。


「うちではゲルニド型陸上戦艦と呼んでいる」


 タカトウが俺の独り言にそう答えた。

ドは同じなのか。

となるとやはり設計からして近いのだろうか。


「この分ならば、部品に互換性がありそうだ」


「我らも数多の世界を見て来たが、クラス権限が使える施設はほぼ同じ魔法文明によるものと思って良い。

なので部品やコネクタには互換性があるはずだ」


 それにしても、タカトウの部下たちは、武装も銃器だし魔法が使えそうにない。

しかし、しっかり修理用の魔導ゴーレムは使用している。

第8勇者とやらが、自分の世界に帰って魔法文明を齎したというところだろうか。


「タカトウの世界では、MAOシステムとの戦いが続いているのか?」


「ああ、奴らは転移門ゲートを渡り歩いて、俺たちを排除しようとする天敵だ」


 それは俺や家族の天敵でもあるとも言えるな。

タカトウたちが、この世界に来たことで、MAOシステムに気付かれたかもしれないということか。

いや、実際バイゼン共和国が呼び込みかけた。

戦いの準備が必要かもしれないな。


「タカトウは、艦を修理したら、転移門ゲートの先に戻るのか?」


「ああ、友軍の援護をしなければならないからな」


 たった1艦で戻って何になるというのだ。

別次元に撤退せざるを得なかったのならば、戦局は相当に悪かったはずだ。

状況次第では俺も援軍に行くべきだろうか?


「何にしろ、艦を修理してからの話だな」


「そうか」


 タカトウは、俺に助けてくれとは言わなかった。

これは彼らの戦いだと思っているのだろうか。


「ますたー、魔導機関を乗せ換えた方が早い。

下手に弄って爆発させるよりマシ」


 陽葵ひまりが魔導機関を調べて来てそう言う。


「そうか、ならば中に入って取り出してしまうか。

タカトウ、良いか?」


「は? 良く判らんが、外殻を外さなくて良いのか?」


「まあ、見てればわかるよ」


 俺はタカトウ艦の機関室に入るとゴーレムたちに指示を出して各種コネクタや固定装置を外させた。

これらの作業を行なっているのは、タカトウ配下の修理ゴーレムだが、俺が一時的に指示を出す許可を貰ったのだ。

ゴーレムにはマスター権限により支配権があり、上位の管理者ならば書き換えることも可能だが、そこは勝手にしないで許可を貰った方がスマートだと思ったからだ。


「【収納】!」


 俺が第2魔導機関に手をかざしてそう唱えると、それは一瞬にして消え去った。


「はい?」


 タカトウが驚愕の声をあげる。

どうやらインベントリという魔法による収納手段があることを知らなかったようだ。

まさか、魔導機関を換装するために外殻を切り取ったりしていたのだろうか?


「魔導機関の換装は何か月もかかる大規模修理のはずなんだが?」


「やっぱり外殻を切り取るのか?」


「ああ」


 どうやら魔法文明の恩恵を受けながら、魔法に関しては彼らの文明は劣っているようだ。


「それじゃあ、友好の印にこれを提供しよう」


 そう言うと俺は、新品の魔導機関をその場に出した。

位置決めなんかは、何度もやっているので完璧だ。


「まさか、新品か!」


 遺跡から提供される修理部品は、時間停止倉庫に入れられたものとなる。

時間が止まっていたとはいえ数百年前の代物を使うのは抵抗がある。

中には時間停止倉庫が壊れ、数十年経ってしまった部品もあったりする。

だが、俺は第13ドックに新品を製造させている。

その新品を提供したというわけだ。

俺のインベントリには、そんなものが沢山入っているのだ。


「そうだ。今年製造されたピカピカの新品だ」


「ありがたい。これで遺跡から手に入れた発掘品を騙し騙し使わなくて済むぞ」


「それは良かった」


 俺とタカトウはそう言うとガッシリと握手した。

もう何も言わなくても、俺たちは強固な同盟関係を結べたような気がした。


「修理ゴーレム、接続作業を!」


 タカトウがゴーレムに指示を出す。

しばらくして、その作業は完了した。

そして電脳によるシステムチェックが入った。


『異常ありません。

魔導機関の出力が10%向上しています』


 こうしてタカトウ艦の修理は無事終わったのだった。


 ◇


 その頃倉庫では。


「もう1体修理しておくか」


 フリードリヒが出遅れていた。

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