第284話 訪問者

Side:トラファルガー帝国


 肝心の未来兵器へと繋がる座標は、謎の存在に書き換えられ、手に負える状態では無くなっていた。

我が帝国は方針を変更し、違う世界からの未来兵器奪取を夢見て、接続実験を継続していた。

しかし、ゲートを稼働出来るまでの充電時間がかかり過ぎて、それは遅々として進まなかった。


「仕方ない。潜水艦を得た生体部品の使われている世界の未来を探るか」


 その世界からは多少なりとも進んだ兵器を得ることが出来ていた。

だが、彼の国に対抗できるほどの戦力では無かった。

あの無敵を誇った潜水艦でさえ、彼の国の艦にとっては最早脅威ではないのだ。


 その実験も失敗した。

その座標は未来に行っても中身が同じ、つまり死んだ世界だった。

生きた世界ならば、兵器が進化していくはずなのだが、死んだ世界では同じ内容物が朽ちて行く。

これは戦艦を得ている世界と同じで、戦艦を全て手に入れたならば、何の旨味も無い世界となってしまうのだ。

前弩級戦艦の未来は戦艦大和ではなく、朽ちた前弩級戦艦なのだ。

そのような死んだ世界では、朽ちるような劣化した状態ではなく、なるべく新しい状態の過去から引き出すのが正解だった。

それも座標設定の仕組みを解明出来たおかげだった。

バイゼン共和国のように適当な組み合わせが当たっただけでは、その当たった座標のみの時代からしか戦艦は引き出せなかったのだ。


「成果が出せないのであれば、そろそろ実験は打ち切り、資源の引き出しにゲートを専念させよ」


 とうとう父である皇帝陛下までもが実験の打ち切りを命じて来た。

次の実験で当たりを引かなければ、この実験ももう終わりとなる。

それは彼の国への復讐を諦めるということであった。

しかも、皇帝陛下は東大陸の制覇だけで満足なようだった。

それでは自分のやることが無くなってしまうではないか。

異世界転生したからには、世界を手に入れる、それがラノベの王道だろうに。



 それは突然のことだった。

ゲートに異常が発生していた。

ゲート本体が帯電してプラズマが発生していたのだ。


「ゲートに異常電圧!」


「座標リング、勝手に動いています」


「有り得ない!」


 座標設定リングがグリグリと勝手に動いていた。

まさか、外部から操作されているのか?

嫌な予感が頭を過る。

だが、ゲートを破壊する命令を出す権限は自分には無かった。


「座標リング停止!」


 どうやら設定が完了したようだ。

ゲートの境界面が光り、水面に波紋が広がるかのように揺らいだ。

何かの先端がゲートの真ん中から突き出て来た。

それが次第に大きくなっていく。

その中心から顔を出したのは陸上戦艦と呼ばれる魔導戦艦だった。

魔導戦艦がゲートを潜り抜けると、ゲートはその稼働を止め、嘘のように沈黙した。


「おお、人がいるぞ」


「駄目です。転移門ゲートが閉じました」


「こちらの転移門ゲートの電力不足か?」


 なにやら彼らが話している会話が、なんらかの装置で勝手に拡大垂れ流しにされているようだ。


「おい、外部スピーカーがONだぞ」


「ああ、何やらかしてるんですか!」


 その声とともに声は聞こえなくなった。

陸上戦艦が、しばらく空中に漂っていたが、徐に艦首を回すと、こちらに接近して来た。


「あーあー、聞こえますか?

こちらはジャパーネの戦艦です。

第8勇者の故郷の者と言えば通じますか?」


 どうやら、自分とは違う日本からの訪問者だった。

新たな脅威の出現に戸惑うしかなかった。

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