第271話 第1回ゲート接続試験

 転移門ゲートに電源を入れる前に、俺は探索用ドローンを開発した。

地球でのドローンと同様の4枚プロペラを四隅に配置したあの形だ。

中心となる制御装置には魔宝石を、動力源は燃料石を使用した飛ぶゴーレムといった感じだ。

このドローンに探知魔法の魔導具と映像伝送装置ビデオカメラと録画機を搭載した。

リモコン式にしなかったのは、転移門ゲートの先でこちらの制御を受け付けなくなる可能性があったからだ。

自律稼働するゴーレムだからこそ活動可能の現場もあるのだ。


 試作機に簡単な命令を与えると勝手に飛んで、目的を果たして飛んで帰って来た。

これを転移門ゲート内でやるだけだ。

試作機が正常に作動したので、損耗も考えて10機ほどを量産する。

他の用途でも使えそうなので、製造ラインを作っておいても良いだろう。

ドローンは兵器転用も出来るからな。

一番簡単なのが爆発物を積んで自爆テロを起こす事らしい。

この世界に普及させるのはやめよう。


 セバスチャンに任せた転移門ゲートの電源工事も終わったようだ。

いま、俺の手元にはセバスチャンがみつけた転移門ゲート設計図から製造したリモコンが握られている。

これで転移門ゲートの設定リングを動かせるのだそうだ。

赤外線式か? 電波式か? それともBluetoothとか?

まあ使えれば良いか。


 リモコンは側面に転移門ゲートの右側にあるのと同じ配置の制御リングがあった。

それをリモコンを握った右手親指でグリグリと動かす。

すると巨大な転移門ゲートの設定リングも同様に動く。


「あれって勝手に動くのか!」


 リモコンがあるからにはそれに対応して動くのは当たり前、なぜバイゼン共和国やトラファルガー帝国は手動でやっていたんだ?

いや、リモコンが失われていたのか。

たしかに長い年月で一番無くしそうなのがリモコンだよな。


「それは電源を確保し常時稼働となったからでもあります。

転移門ゲートにはそれだけのスペックがあったのですが、この世界の人に合わせて文明が低くても使えるように蓄電式にしたりと配慮をしたのでしょう」


 リモコンを使っても、制御リングを動かせるだけの電力がなかったら無駄だったのか。

それで壊れたと思われてリモコンが失われたのかもしれない。


 もしかすると、過去の勇者が元の世界に帰った後も戻って来るつもりだったのかもしれないな。

それがこの世界の人が設定リングをいじってその世界に繋がる設定を失ってしまった

元の世界に帰った勇者からはこの世界の転移門ゲートの設定は弄れない。

それで断絶し、技術が衰退したのかも。


 異世界転移者や異世界召喚者は、勝手に異世界に連れて来られたため、大多数の人は帰りたいと思っている。

俺みたいに死んでしまって転生という立場とは違う。

帰るために巨大装置を開発したならば、なかなかロマンのある話だ。


 続けて防御装置として結界発生の魔導具を設置した。

魔法でどうにかなるかは判らないが、意図せぬ侵入を阻止する手立ては必要だ。

この転移門ゲート実験室は防爆隔壁で隔離が可能だ。

最悪、この実験室を自爆放棄することも視野に入れる。


「よし、そろそろ動かしてみるか」


 まずは戦艦が手に入るというバイゼン共和国が設定していた世界と繋げることにしようか。

そこが既知の一番安全な接続先であり、実験には最適だろう。


 俺はリモコンを手に持つと、セバスチャンが書き写した設定になるようにリングを操作した。

リモコンのリングが回ると、転移門ゲート側の本物のリングもグリグリ回る。

そして設定が完了すると、リモコンの転移門ゲート起動ボタンを押した。


 転移門ゲートの丸い輪っかの内側に水面のような青く光る境界面が現れた。

シャボン玉の液を輪っかで掬った時の、あの表面張力でシャボン液が広がった様子と似た感じか。

どうやら何処かに繋がったらしい。


「ドローン1号、中を探査し10分撮影して戻れ」


 ドローンが飛ぶ。

そして水面に飛び込むように転移門ゲートの境界面を越えた。


「映像来ているか?」


「何も映っておりません」


 サバスチャンが壁の受像機を見てすかさず答える。

どうやら、映像電波は来なかったようだ。

境界面で電波が遮断されるのだろう。

自律型でなくリモコン操作していたら、そこでドローンを失っていたところだな。


 そして10分が経ち、ドローンが唐突に帰って来た。


「映像再生!」


 俺がそうドローンに命じると、制御室の壁にかけられた受像機に映像が再生された。

ドローンが転移門ゲートの境界面に向かい突入する。

そこで少し映像が乱れたが、すぐに別の世界の空が見えた。


「周辺を探知します」


 ドローンが探知の魔導具を使う。

その映像がリアル映像にAR表示で重なる。

どうやら、生物はいないようだ。

だが、安心は出来ない。無生物の脅威というものもあるのだ。


「そういえば、細菌やウイルス対策ってしてなかったな」


 俺は恐ろしいことに気付いたが、ここは隔離施設。

俺も実験室の外にある制御室の中にいる。

後で実験室内にクリーンでもかけておけば大丈夫だろう。


 ドローンの探知が敵対意志の探査に入った。

これはアカシックレコードにアクセスする仕組みのようで、無生物でも探知してくれるのではないかと思っている。


「敵対反応なし。目視探査に切り替えます」


 ドローンが移動し始める。

下には海が広がっており、そちらに何かないかと確認しながらの飛行だ。

そして海面に黒い物体を発見した。


「人工物を発見しました。

映像拡大します」


 それはバイゼン共和国やトラファルガー帝国が運用している前弩級戦艦だった。

間違いなく戦艦が拾えるという世界に繋がっていた。

第1回転移門ゲート接続試験は成功を収めたのだ。

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