第257話 議会

Side:バイゼン共和国


「はぁ? 全滅?」


 バイゼン共和国の議員たちはキルナール王国との戦争結果の報告を今か今かと待ちわびていた。

そこにはバイゼン共和国の大勝利という結果しか想定されていなかった。

主力艦隊全滅という報告は、まさに寝耳に水だった。


「はい。敵の光線兵器は百発百中、しかも一撃で我が方の戦艦を沈めたそうです」


「しかし、生き残った戦艦があるのだろう?

なぜたった3艦の敵を沈めなかった?」


 そんな攻撃から生き残った優秀な戦艦であれば、敵を叩き潰したに違いない。

そう議員たちは疑ってもいなかった。


「生き残ったというより、報告させるために見逃された感じだそうです」


 なんという屈辱。

敵の圧倒的な戦闘力により、バイゼン共和国の主力艦隊は文字通り全滅していた。

残るは西部方面艦隊の一部のみ。

この状態でトラファルガー帝国が攻めて来たらひとたまりもない。


「どうしてこうなった?」


「これは由々しき事態ですな」


「キルナール王国でしたか?

彼の国に手を出す決定を下した責任を与党にはとってもらわなければなりませんな」


「大統領の弾劾決議だ!」


「ふざけるな、野党の誰もこの戦争に反対しなかったではないか!」


 むしろ国民の声だと一緒になって煽っていた立場だった。

醜い責任の擦り付け合いが始まった。


「報告します!

ゲートが、ゲートが消えました!」


 そこにゲート消失の報告があがる。


「バカな、ゲートは砲撃も届かぬ内陸にある。

そこへ至る運河も戦艦でもって封鎖してあったはずだ」


 議員たちはゲート消失を誰も信じなかった。

報告を上げた官僚をバカにするような態度だった。


「敵艦が陸上を移動し、ゲートに到達、そして一瞬でゲートが消えたそうです」


「敵艦が陸上を移動しただと?

何を寝言を言っているのだ」


 船は水の上を航行するものだと、その議員は心底バカにした目を報告者の官僚に向けた。


「いや、彼の国では陸上戦艦なる陸上艦があると伝え聞いておるぞ」


 事情通の議員の一言により、過去の報告書の内容が思い出された。


「まさか! それで?」


 急に不安になる与党議員たち。

彼の国は魔法国家。陸上に戦艦を航行させ、ゲートを消す魔法があっても不思議ではなかったのだ。


「つまり、我が国の領土が奪われたのか!」


 ゲートを消すためには、それらの領土を占領されたのだと議員は思った。


「いいえ、敵艦は我が国の領土を占領することなく撤退したもようです」


「はあ?」


 圧倒的な戦力で戦争に勝ち、領土を奪わなかったということを、彼らは理解出来なかった。

戦争とは、他人の物の奪い合い、奪った方が勝ちという価値観だったからだ。

何の成果もない戦争など、金をドブに捨てるのと同じだった。


 混乱するバイゼン共和国だが、主力艦隊の全滅とゲートの喪失という事実だけは覆らなかった。

このままではトラファルガー帝国に占領されてしまうという未来も確定だった。

肝心要の同盟国を裏切ったのだ。一緒に戦おうなどと言える立場ではなかった。

次はキルナール王国とトラファルガー帝国が同盟して襲ってくる。

その恐怖が、やってはならない禁忌を犯すこととなるのだった。

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