第255話 条約交渉2

 戦闘を終えた俺はトラファルガー帝国の使者の待つ応接室に戻った。

この後、トラファルガー帝国との和平交渉を進めるためだ。


「中座してすまなかったな」


「いいえ、お国の危機とあれば、仕方のないことです」


 ヘルメスベルガー伯爵が胸中お察ししますという雰囲気でそう言う。

彼は、先の砲撃がバイゼン共和国のものであると確信しているのだ。

おそらく、トラファルガー帝国も何度もバイゼン共和国から迷惑を被って来ているのだろう。


「残念なことに我が同盟国は同盟を破棄したようだ。

その宣告もなく奇襲攻撃をしかけてくるなど、信のおける国とは思えない。

我が国はトラファルガー帝国と和議を結ぶことに決めた」


「やはり、攻撃は彼の国からでしたか……」


 ヘルメスベルガー伯爵も本国の暴走かもしれないと若干の不安があったようだ。

それほど我が国は脅威だと思われているのだろうか?

まあ、そうか。たぶんあの戦いで万の単位の将兵が死んでいるはずだ。

完全に脅威だったな。


「こちらからの提案を受け入れていただき感謝いたします」


「こちらも行き違いから不幸な死者を出してしまった。

もっと早く交渉することが出来たならと残念でならない」


「いいえ、全ては我が方からの攻撃が発端です。

そして大艦隊で敵対してしまった。

そこは我が皇帝も采配ミスであったと後悔されております」


 まあ、大艦隊で攻めて来なければ迎撃もしなかったからな。

先に我が国に使者が来ていれば歴史は変わっていただろう。

だが、あの大敗が無ければ、トラファルガー帝国が和平交渉しようなどとも思わなかっただろうことも事実だ。


「和議の内容は、同盟或いは不可侵条約で良かったか」


「はい、仰る通りです」


「しかし、同盟或いは不可侵条約を結んだあと、バイゼン共和国をどうする?」


 滅ぼすというならば、協力するわけにはいかない。

バイゼン共和国の戦力を削いだのは我が国なのだ。

そして、全てのゲートがトラファルガー帝国のものとなるのもいただけない。

そのゲート1基の余裕が何を齎すかわかったものではない。


「我が国とすれば、バイゼン共和国のゲートから兵器が引き出される事さえなければ、国境線を変えるつもりはありません」


 つまり、トラファルガー帝国はバイゼン共和国が侵略して来るから対応しただけであり、バイゼン共和国を占領支配するつもりは無いということだろう。


「ならば、バイゼン共和国のゲートは我が国がもらい受けよう。

それを以ってトラファルガー帝国とは不可侵条約を結ぶとしよう」


 バイゼン共和国が大人しくなれば、トラファルガー帝国との同盟は必要ないだろう。

お互いに攻撃することはない、それだけで十分だ。


「わかりました。その線で正式な条約として結ばせていただきます。

そしてバイゼン共和国のゲートの処置をよろしくお願いいたします」


 全権大使というだけあって、全ての条件をヘルメスベルガー伯爵の一存で受け入れるという判断を下している。

バイゼン共和国がこれぐらい信用がおければ良かったのに……。


「正式な書類が出来た時点で調印式を行うとする。

その間に我が国はバイゼン共和国のゲートを抑えるとしよう」


 やっかいなのはゲートの存在なのだ。

ゲートをそのまま俺のインベントリに仕舞ってやろう。

そんなものが無い方がバイゼン共和国にとっては良いはずだ。 

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