第241話 共闘
バイゼン共和国のスパイからの情報はリアルタイムではなく、その情報が伝わって来るまでにかなりの日数を要していた。
つまり、トラファルガー艦隊出撃準備の兆候という情報が届いた時には、既に出撃していると見て良かった。
時間経過を勘案すると、もう直ぐそこまでトラファルガー帝国の艦隊が来ているであろうことは容易に推測できたし、各地で目撃情報も上がって来ていた。
バイゼン共和国は、西部自治区――そこにゲートがある――を守るように艦隊を配置していた。
その数32艦。
28艦が戦艦であり、俺の助言によって引き出された、補助艦艇の駆逐艦も4艦ほど見える。
あの数じゃ心もとないが、駆逐艦をゲートから引き出すことが出来たとしても、それを戦力化するには人員の訓練が間に合わなかったのだろう。
それでも対潜水艦迎撃能力が多少マシにはなったはずだ。
トラファルガー帝国の大艦隊は、バイゼン共和国のある東大陸の南端を回って西岸を北上して来ている。
その様子は各地に配置した観測員が報告して来ている。
それに対し、バイゼン共和国は戦艦をT字の横線になるように左舷を見せて展開していた。
所謂T字戦法というやつだが、誰かがこの知識を授けたのだろうか?
単純に戦艦の全火力を敵艦に向けられるとして選んだだけなのだろうが、偶然の一致とは恐ろしいものだと俺は思っていた。
我が艦隊はそのT字の縦線を左側から見る位置に展開している。
こちらの海上艦の特徴は、全火力を前方に向けられることなので、T字の縦線と平行に南に艦首を向けているかたちだ。
これはキルナール王国艦隊があくまでも援軍ということで、艦隊決戦から除外されているためだった。
大国のメンツなのか、援軍を要請しておきながら、現場では蚊帳の外という扱いだったのだ。
だが、俺はこの配置を好都合だと思っていた。
トラファルガー帝国の大艦隊がこのまま進路を西に取った場合、我が国のある西大陸に向かう可能性があった。
それを迎撃するのに都合の良い配置なのだ。
さらに、敵の欺瞞装置対策としても都合が良かった。
敵の欺瞞装置は前面にだけ有効であり、横から見ると丸見えなのだ。
そんな配置に偶然なっているのだから、この処遇を非難するまでもなく受け入れたのだ。
「パッシブレーダーに反応ありませんね」
魔導レーダーの担当がぼやく。
惑星は丸いため、水平線の向こう側の直接探知は不可能だ。
対象物がその丸みの向こう側に隠れてしまうからだ。
アクティブレーダーがいくら魔力を飛ばしても、水平線の向こう側の対象物との間には惑星の表面があり届くことはない。
そのため、魔導レーダーのパッシブモードは、水平線の向こう側の魔力を感知することで敵の位置を把握するのだ。
惑星の丸みの向こう側であっても魔力反応だけは探知可能だった。
だが、東大陸の戦艦は魔力を一切使用していないのだ。
魔力が無ければパッシブレーダーでは反応を捉えられない。
「まあ、向こうもレーダーは水平線から出ないと使えないだろうよ」
バイゼン共和国、トラファルガー帝国、両国の戦艦も旧式ながらレーダーを装備していた。
それは相手艦の存在が把握できるレベルの低精度であり、レーダーによって正確な位置を把握し砲撃を当てるというレーダー射撃を行えるまでには至っていなかった。
つまり、両艦隊は敵を目視する有視界戦闘しか出来ないはずだった。
ただ、タカオだけは多少有利だった。
タカオは300mを越える巨艦であり、その艦橋は高層ビルのように高い。
タカオの艦橋上部に設置された魔導レーダーであれば、両国の戦艦よりも先に敵艦を捉えることが出来るだろう。
高い所に登れば、より遠くまで見渡せるという単純な話だ。
「魔導レーダーアクティブモード、魔導砲火魔法【爆裂弾】準備」
直線でしか狙えない光魔法に対して、火魔法は放物線を描く曲射が可能だった。
水平線の向こう側へも火魔法ならば撃つことが出来る。
せっかく艦橋の高さにより敵艦を捉えても、低い場所にある魔導砲からは直線では狙えないのだ。
そのため俺は、先制攻撃のために魔導砲に火魔法を準備させたというわけだ。
『高速飛翔物確認、推定着弾位置バイゼン共和国艦隊』
突然電脳が警報を発する。
これはレーダー員の目が砲弾の速度では反応を見逃してしまうことから、高速飛翔物に関しては電脳に任せることにした結果だ。
電脳ならば、魔導レーダーの反応に対して即時対応が可能なのだ。
「バカな、どうやって位置を把握したのだ?
当てずっぽうか?」
そうこう言っているうちに砲弾が落下し水しぶきを上げる。
「着弾、挟夾です!」
【鷹の目】スキルを持つ観測員が叫ぶ。
有り得ない。まさかトラファルガー帝国はレーダー射撃を実用化している?
いや、レーダー射撃ならば水平線が邪魔をしているはずだ。
となると、どうやってバイゼン共和国の戦艦の位置を把握したのだ?
どうやらトラファルガー帝国は誘導魚雷、欺瞞装置以外の秘密兵器を持っていたようだ。
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