第215話 対海中戦を考える
シーサーペントが食えたことに喜び、素材としては吹っ飛ばした頭が一番高いということに項垂れた後、俺はタカオの改造に勤しんだ。
まず水中の敵を探知するために、地球でいうソナーにあたる装置をタカオに搭載した。
実はこのソナー、音響ソナーではなく、海中向けの魔導レーダーだった。
これを艦底に着けることで、魔導機関の魔力の影響を排除しただけだ。
何も新たに製造しなくても、魔力を探知するだけならば魔導レーダーで事足りたのだ。
それが地上か海中かという差しかなく、ほとんど同じ使用方法で問題がなかった。
次に着手したのは、真下や海中の敵を攻撃する手段だ。
魔導砲が海洋性の魔物にも通用することがわかったので、まず魔導砲を真下に向けられるようにした。
これは舷側に魔導砲塔を搭載することで下にも砲身を向けられることで回避した。
ただし、これは右舷ならば右舷、左舷ならば左舷にしか魔導砲を向けられなくなる諸刃の剣だった。
今回は真下用と割り切って右舷にのみ搭載することとした。
一応前にも後ろにも撃てるので、通常の使い道としては問題ないだろう。
魚雷は第13ドックでも製造していなかった。
これはミサイルで代用が利くと思われていたためのようだ。
ただし、ミサイルでは海中への攻撃は不可能だ。
なんらかの方法で海中の魔物を海面へと浮上させる手段があったのだろう。
その方法は失伝されていて残っていなかった。
そこで俺が考え出したのが爆雷だった。
いや、爆雷は地球にもあったが、この爆雷はそれとは違う。
なんと魔法のみで実現可能なのだ。
それは岩の中に爆裂魔法を封じ込めるという方法だった。
魔導砲は土魔法により岩石弾という実弾を発射することが出来る。
この岩石弾の中に火魔法の爆裂弾を封じ込めるのだ。
それを海中に落とせば、岩の強度の違いにより、こちらの望む水深で岩が破壊され爆裂魔法が開放されるのだ。
この岩の強度と水深の因果関係は電脳がシミュレーションしてくれたのだが、実際に正しく作動するかは現地で実験しなければならなかった。
この爆雷を使えば、海中の敵を追い払えるか、あるいは海面まで浮上させることが出来るはずだ。
もし浮上して来たならば舷側魔導砲でもって撃破するのだ。
「うはは、海洋性の魔物、もう既に恐れるに足りず」
これで海洋性の魔物対策は問題ないだろう。
「よし、早速試験航海に出るぞ」
「わん(行くー)」
「プチも来るのか。一緒に行こう」
俺はプチを抱いてタカオに乗り込んだ。
◇
外洋に出ると、早速海中用の魔導レーダーを起動した。
「とりあえずパッシブモードだ」
これで海中にいる魔物の魔力を探るのだ。
「魔物が大量に泳いでいます」
残念ながら、パッシブレーダーは魔力の強さで表示の大きさが決まる。
小さな魔物が巨大な魔力を持っていれば大きく映り、大きな魔物が小さな魔力しか持っていなければ小さく映る。
このままでは相手の正体も推測できない。
「アクティブモードで大きさを調べろ」
アクティブモードは、放出した魔力によって敵を探知する。
そのため、こちらのモードでは詳しい大きさがわかるのだ。
まあ、地球で潜水艦に対してソナーをうって詳しく調べるようなものと思って貰えば良い。
「3m大。巨大魚でしょうか?」
そういえば、第13ドックの食品工場の設定で巨大魚が出せたのだが、もしかするとあれがこの反応の主かもしれない。
マグロのようなトロで旨かったのだが、あれも魔物だったのか。
「うーん、爆雷の的にしたら消し飛んでしまうな」
「新たな目標発見、我が艦の前方1kmほどに居ます。
全長200m。パッシブモードでは見えませんでした」
それは異常なことだった。
魔物であれば魔力反応があり、魔導機関を持っている人工物も魔力反応がある。
つまり、魔力を持たない生き物なのか。
いや、全長200mで魔力を持たない生き物とか有りえないだろう。
「電脳、魔導レーダーのデータから不明目標の形が判るか?」
『しばらくお待ちください』
『解析完了しました。
モニターに表示します』
電脳がそう言うと空中に映像が映し出された。
そこに映っていたのは……。
「潜水艦じゃないか!」
そこには特徴的な葉巻型の船体にセイルの立ち上がった潜水艦のシルエットが映し出されていた。
この世界で俺は存在しないと思っていた潜水艦に遭遇してしまったのだ。
しかも、それは魔導機関で動いていないか、あるいは魔力反応を消す手段を持っていた。
つまり、アクティブモードで魔導レーダーを海中に使わない限り、見つけられない艦だということだった。
「ここはイスダル要塞に近い我が国の領海といっても良い場所だ。
こんなところで何をやっているのだ?」
まあ、この世界に領海という概念があるかどうかは知らないが、他国に接近しすぎているのは事実だ。
しかも潜航して隠密行動というのが怪しすぎる。
この時俺は、隣の大陸と貿易を行っていた輸送船が、何者かに沈められたらしいという話を思い出していたのだった。
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