第213話 試験航海

 海上戦闘艦だとはいえ、装備も操艦もほぼ陸上艦と変わらなかった。

速度も陸上艦の時は都合により巡航速度を時速40kph程度に抑えていた。

この海上艦が30ノットも出せばむしろ速いぐらいだった。

まあ、陸上艦がリミッターを解除すれば音速を越えられるため、そうなれば比較にもならないのだが……。

他の違いは推進機が水流ジェットであるということと、大海原の波により揺れるぐらいだ。

重力制御装置によって揺れを無くすことは可能らしいが、水流ジェットは海中に取水口が無いと作動しないため、ある程度は波に任せなければならなかった。


「皆、問題ないな? よし出港!」


「左舷艦首艦尾水流ジェットスラスター起動、離岸します」


 艦首を港外に向けた重巡洋艦が、左舷の穴から水流ジェットを噴射して離岸した。


「微速前進!」


「後部主水流ジェットスラスター起動、微速前進」


 艦尾後部の主機から水流ジェットが噴射して艦が前進を始める。

そのまま港脇の岬と防波堤の間から外洋に出る。


「主機中速、前進!」


「主機中速!」


 俺の号令で艦が増速した。思った以上に速度が速い。

なんというか、微速から中速までのダッシュ力が凄いというのか、一瞬で中速まで速度が跳ね上がった。


「おお、速い、速い」


 俺は初めての海上航行にはしゃいでいた。


「12時の方向、魔力反応接近!」


 魔導レーダーを覗いていた乗組員が叫ぶ。

この魔導レーダーは、いまアクティブモードで起動しているので、出力した魔力波に反射によって海上に出ている物体を探知したということだ。


「なんだ? 船か?」


「わかりません……。

あ、消えました」


「なんだと? まさか……。

パッシブモードを起動しろ!」


「はい」


 乗組員が魔導レーダーのパッシブモードを起動すると、再び反応が現れた。

パッシブモードは相手の魔力を捉えて探知するモードだ。

ということはつまり……。


「やつは海中だ!」


 どうやら、俺はティアに散々気を付けろと注意された、海洋性の魔物に遭遇してしまったようだ。


「不明物体、相変わらず接近中!」


「距離100、90、80……30、20、10、ぶつかります!」


「右舷スラスター起動、緊急回避!」


 右舷スラスターが水流ジェットを噴射すると艦が思いっきり左にスライドした。

艦が横に動いたのだ。

その右舷の海中を何者かが通過した。

ひれだろうか? 海上に出ている部分が海面を割り、波のうねりが発生している。


「見たか?」


「見ました。巨大な魚か蛇のような生物でした」


 たしかにウナギとかアナゴみたいな長い魚かウミヘビのようだった。

あんなのに体当たりされても、この艦は大丈夫なのだろうか?

きちんと防御魔法陣は展開するのだろうか?

それを実地で試す気にはならなかった。


「パッシブ反応消えました。

探知不能な深海に潜っていったもよう」


 どうやら見逃してくれたようだ。


「困ったな。あれに対抗するための武器がないぞ」


 地球ならば、魚雷なり爆雷で海中から海上に浮上させて、艦砲で撃つという感じだろうけど、この世界には魚雷も爆雷も無い。

いや、この大陸には無いと言った方が良いのか?

昔はあったのかもしれないが、今は失われている。たぶん。

あるならば、セバスチャンが搭載してくれていたことだろう。


 まあ、運動性能は試すことが出来たので、今回の試験航海は成功ということで良いだろう。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか、プチ」


「わん」


 そういや、この重巡洋艦に名前を付けないとならないな。

重巡洋艦と言ったらタカオかな。ナチでも良いんだけど、響きがNGなんだよね。

漢字ならば大丈夫なんだけど、カタカナにすると危険な響きになってしまう。

困ったもんだ。

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