第175話 捕虜

 生き残りには、もう1つの集団があった。

北の帝国と共に従軍して来た第三国出身の帝国兵だ。

その中でも下士官クラスだと思われる男らと俺は面会することになった。


「連れてまいりました。

彼らは北の帝国での身分しか答えず雑談にしか応じません」


 キルト兵が帝国兵の捕虜を連れて来たのだが、未だ帝国兵としての最低限の事しか口に出さないようだ。

彼らの出身は、帝国三等市民という身分が示す通り、北の帝国でもキルト王国でもない第三国の出身だ。

キルト王国より先に北の帝国に破れ、いち早く北の帝国に恭順を示したため、奴隷よりは多少マシな帝国三等市民となった者らしい。

そんな彼らも北の帝国の占領地が増えるにしたがって、帝国軍に強制徴用され、このキルト王国に来ることになったようだ。

奴隷は前線で戦って死ねという扱いを受けるが、彼ら帝国三等市民の徴用兵は陸上戦艦で蹂躙された他国の都市の制圧や警備など比較的命の危険の少ない戦場に送られていた。

なので彼らはキルト王都の制圧と警備に就いており、俺たちが陸上戦艦でやって来たため、北の帝国の救援が来たとノコノコと出て来たところを捕縛されたわけだ。


「ガイアベザル帝国は魔物に滅ぼされたぞ。

あなた達はそれでもガイアベザル帝国に義理立てするのかい?」


 この期に及んで簡単な世間話にしか応じない帝国兵に俺は現実を突きつけた。

僕たちが陸上戦艦を運用していること、北の帝国よりも格段に上手く運用出来ていること、見たことも無い空飛ぶ機械まで運用していること、それだけでも帝国に勝ち目がないのは帝国兵もわかっているだろう。

さらに魔物のスタンピードが起きている。

その対策で北の帝国の陸上戦艦がこの地を離れたことぐらい知っているだろう。

それでも証言しようとしないこの者たちに俺は苛立ちを覚えた。

あの商国が、俺たちが敗走したと見るや、北の帝国に寝返った姿に似ているのだ。

いや、商国の奴らは、一度こちらに寝返った後だから、彼らより質が悪いか……。


「「「「・・・」」」」


 帝国三等市民の帝国兵たちはだんまりだった。


「あなた達も魔物は見ただろう?

今は魔物と人類の死ぬか生きるかの戦いの最中だ。

帝国も王国もない。負ければ人類が滅びる。

そこにはあなた達の祖国の民も含まれる。

それでもあなた達は北の帝国が大事なのか?」


 帝国兵の一人が明らかに動揺した。

戦えない一般の人々には魔物の相手は出来ないだろう。

それが家族を知り合いを襲うと想像してしまったのだ。


「俺らは生きるために西の帝国に恭順を示したが、西の帝国が滅び魔物に人類が滅ぼされる瀬戸際と知ってまで、西の帝国に義理立てする謂れはない。

祖国の民を守るのに協力するのは吝かではない」


 彼らも砂漠の東側の民か。

ガイアベザル帝国を西の帝国と呼ぶのはそちらの地方の特徴だ。

どうやら彼らも生きるため、大切な人を守るためにガイアベザル帝国に恭順していたのだ。

だが、そのために他者に対して行った虐殺や奴隷化の手伝いの罪が消えるものではない。

その罪への思いが、彼らを北の帝国から逃れられなくさせていたのだ。

特にこのキルトの王都で行われていたことはキルトの民も許せるものではないだろう。



「では、話してくれるな?」


 これで許すわけではないが、少なくとも彼らの祖国の民は魔物の被害から助けることが出来る。

それが理解出来るのなら協力してもらえるだろう。


「何が聴きたい?」


 下士官の一人がついに折れて少しずつ話しだした。


「まず。ここに駐留していた陸上戦艦の行先は?」


「帝都が魔物に襲われたというワイバーン便が来て、陸上戦艦は帝都防衛に向かった。

俺たちを置いてな」


 なるほど。意外なことにこの男は駐留軍の中ではある程度事情を知る立場だったようだ。

占領の要である北の帝国の陸上戦艦も、帝都の危機ならば占領地にかまけていられないということか。

となるとあの砂漠地帯で襲われていた陸上戦艦がここにいた艦かもしれないな。


「ここも魔物に襲われたのだろう?

あなた達はどうしたんだ」


「砂漠トカゲ、サンドスネーク、サンドスパイダー、レッドスコーピオン、バジリスクが襲って来た。

小さい魔物は俺たちにも襲い掛かって来たが、大物はなぜか帝国上級市民の士官だけを襲っていた」


 帝国上級市民というと勇者の血を色濃く引いていると自称している連中だな。

なぜ大型の魔物はそんな士官ばかりを狙ったんだ?


「それでその後魔物はどうなった?」


「帝国上級市民の士官を殺すと砂漠に帰って行った。

残されたのは帝国上級市民の装備だけだった。

俺たちは残された小さなクモやサソリを潰して回っただけで、大物には襲われなかったので助かった」


 まさかと思うが、魔物は勇者の末裔をピンポイントで狙ったのか?

魔物は何を根拠に勇者の末裔だと判断したのだろうか?

まさか、血か? ならば俺が勇者と判断されると大型の魔物がここにやって来る?

そういや、砂漠で陸上戦艦の残骸が執拗に魔物に攻められていたな。

陸上戦艦、いや魔導機関か? それが魔物を呼ぶ可能性もあるな。


 彼らも陸上戦艦がここに居れば、もう少しマシな戦いが出来たかもしれないが、北の帝国は帝都防衛の方が優先だと判断したということだろう。

その陸上戦艦が魔物を呼び寄せていたなら、帝都が襲撃されたのは必然だったのだろう。

そして勇者の血筋の者を魔物が優先的に襲っていたようだ。

過去、ガイア帝国という勇者が建国した国が魔物と戦っていたと思われる。

その切り札が陸上戦艦だったのだろう。

その戦いはいったいどのようにして終わったのだろうか?


「ガイア帝国がどのように設立したのか、何と戦って滅んだのかは知らないか?」


「俺たちは第三国出身ゆえ、そんなことまでは詳しくはない」


 だろうな。

これは北の帝国の帝都に行かないと調べようもないか。


「わかった。下がらせて良いぞ」


 帝国兵たちはキルト兵に連れられ退室した。



 城壁は補強修復したので、旧キルト王都への魔物の侵入はしばらく防げそうだ。

そうだ。ここにも魔導レーダーと長距離魔導砲を設置しておこう。

塔を建ててその上に設置するのが良いだろう。

高度があれば、アクティブレーダーで魔物の反応も詳細に捕らえられる。

北の帝国方面の魔物の分布もパッシブレーダーで伺えられるかもしれない。

ここで情報収集しつつ帝都侵攻の準備をする。

それと峡谷要塞の陸上戦艦に魔物が引き寄せられるかもしれない。

ベヒモスウォールは強靭だが、警戒を怠らなように注意しておこう。

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