第167話 空襲

「火竜だと? まさかこの世界で希少な航空機以外から航空攻撃を受けるとは……」


 火竜はワイバーンより上位のモンスターだ。

この世界の竜種は地竜や海竜以外は基本的に翼を持っている。

身体の大きさにそぐわない小さな翼でも空を飛んでくる。

しかし、その飛行はお世辞にも上手いとは言えなかった。

ワイバーンは特に空に特化した竜種で、空を自由に飛べることが種の最大の個性といえた。

その次ぎに飛ぶのに特化しているのが火竜で、その大きさと攻撃力は侮れるものではなかった。


「火竜など滅多に見られる魔物ではありません。

一般国民にとっては文献に載っているだけのおとぎ話や伝説の存在ですよ」


 火竜はワイバーン騎士たちが山岳地帯で百年に一度遭遇するかしないか程度のレアな存在らしい。

それが明確な意思のもとに弾着観測機VA52を攻撃してくる。

数によっては明確な脅威だ。


「アクティブレーダーに反応! 急速接近する多数の飛翔体あり!」


 俺は大峡谷の空を見つめた。

北の峡谷は標高の高い山脈に裂け目のように刻まれた狭い通り道だ。

ワイバーンも火竜も、その山脈の高さ故に山脈の上を飛んで来ることは無い。

陸上戦艦も上昇限界により山脈を飛び越えられないはずだ。

なので、火竜が飛んで来るにしても北の峡谷内を飛んで来ることになる。

ちなみに陸上戦艦が弾道軌道で撃っている火魔法も、峡谷内を通過して着弾している。

なので攻撃範囲として死角が出来ていることは織り込み済みなのだ。


『全艦、魔導砲風魔法『ウィンドカッター』発射せよ』


 接近する火竜に『ウィンドカッター』が襲い掛かる。

だが、距離が遠いのと火竜の速度により有効弾を当てられない。

光魔法の『光収束熱線』ならば当たるかもしれないが、次弾発射までの間隔が空く。

敵が多数の状態で使うのは拙い。


『重力加速砲で狙え! 当たるまで連射せよ!』


 ここで真価を発揮するのが対空砲として装備した重力加速砲だ。

これなら連射も出来る。対空防御には弾数も重要なのだ。

今後は目標付近で爆発する近接VT信管付きの対空砲弾も開発しないとならないと俺は頭の隅にメモをとる。

まさか魔物の航空攻撃を受けるとは思っていなかったから、そこまでは準備していなかった。


 俺の先見の明が功を奏したのか、火竜に重力加速砲が連続して撃ち込まれ落ちていく。

その落ちた先で爆発が起こるのは、火竜が爆弾を抱えていたということだろう。

迎撃されて慌てた火竜たちが、爆弾をその場で投機して逃げ帰って行った。

俺たちは火竜の空襲を撃退することが出来た。


「ああ、これがキルトタル空母が必要だった理由か……」


 ガイア帝国が戦っていた相手がわかった。

陸上戦艦はこの魔物たちと戦っていたんだ。

キルトタルは戦いに敗れ墜落していた。

魔物の軍勢には空母を落とすだけの力があるのだろう。

こちらも攻撃機を生産してキルトタルも運用する必要が出て来るかもしれない。

あの艦だけは兵器ではなく家として扱いたかったんだけどな……。

ニムルドに家を破壊された時の嫁たちの悲しい顔は二度と見たくない。

キルトタルは俺たち家族にとって家だ。あれを使うのは最後の手段だ。


『引き続き魔導砲火魔法による攻撃を加える!

火竜には重力加速砲で対応、爆弾を投下させるな。

全艦各個に攻撃せよ』


『『『了解!』』』 



 これで状況変化があるまでは、しばらく命令も不要だろう。

俺は魔導通信で第13ドックを呼び出すと、セバスチャンと今後の戦力の検討を始めた。


『火竜を撃墜出来る迎撃機を製造できるか?』


 俺はポイント11で鹵獲した戦闘機のことが頭にあった。

弾着観測機VA52では、心許無かったからだ。


『はい。墳進型攻撃機VA52の他に墳進型戦闘機FA69があります。

ご用意できますが、乗り手の育成に時間がかかるでしょう』


 ああ、あの戦闘機FA69か。

速いだけに一瞬の操作ミス判断ミスが死につながるな。

レシプロ機や弾着観測機VA52では速度面で火竜に対抗できなそうだし、ワイバーン騎兵にはまだ荷が重いか。


『ゴーレムによる無人運用はできないのか?』


『はい。いいえ、火竜は頭が良いので、無人運用ではキルスコアが1:2となります。

もちろん、こちらが不利な方です』


 つまり、1体の火竜を落とす間にこちらは2機やられるってことか。

ガチの空中戦は厳しいな。

艦隊防空用に重力加速砲の補助として一緒に使えばいいかもしれないが……。


『艦隊防空用で墳進型戦闘機の無人機型を30機製造してくれ。

運用状況を見て追加するかもしれない』


『はい。承知しました』


 あ、航続距離はどのぐらいなんだ?

運用するにはやはり母艦がいるか。

鹵獲した墳進型戦闘機FA69を使ったことがあるが、クレーンゴーレムの腕で強引に吊り下げて発進させたんだったな。

これは発艦する手間と時間がかかる上に、機体を降ろす場所の確保や回収がとんでもなく面倒だった。


墳進型戦闘機FA69に母艦が必要になるか?』


『はい。墳進型戦闘機FA69は垂直離着陸が出来ませんので、基地運用でもかまいませんが、航続距離の問題で母艦があった方が運用が容易になります』


 やはり空母が必要か。

うーん。キルトタルを出すのが一番早いが……。


『キルトタル型の母艦を新造するのにどのぐらいかかる?』


『はい。およそ6か月といったところでしょうか』


 キルトタル型空母で6か月か。

大きさの割には早いが、今の戦況では遅すぎる。


『もっと早く運用するためには、どうすればいい?』


『はい。まず、小型空母の建造ならば、現在製造中の重巡洋艦の艦体を流用すれば4か月で完成します。

次に現在就航中の平甲板型輸送艦を使えば、甲板の強化と設備の増築を1週間で行い運用に回せます。

ただし、搭載機数が少なくなるので複数の輸送艦を改装する必要があります』


『それだ。輸送艦の改装で賄う。最優先で頼む』


『はい。かしこまりました』


 こうしてキルナール王国軍は航空戦力を持つことに決定した。

これで火竜に対抗出来るようになる。

それまでは被害を避け、重力加速砲で追い払うしかない。

とりあえずは重力加速砲の弾を増産するように指示しておこう。

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