第166話 出撃
魔物のスタンピードが北の大峡谷に迫っていた。
既に足の遅いベヒモスまでもが北の大峡谷に辿り着いている。
俺は第1戦隊と第5戦隊と第6戦隊の15艦を出撃させ北の峡谷要塞まで出張っていた。
第5、第6戦隊はルナトーク解放戦役で鹵獲した駆逐艦を中心とした艦隊だ。
陸上戦艦が1艦もいなくなるズイオウ領の守りは、イスダル要塞の第4戦隊を二分し、航空巡洋艦ライジン、軽巡洋艦ダルシーク、駆逐艦シュタートを派遣してもらった。
イスダル要塞の守りが重巡洋艦1と駆逐艦1の2艦だけになるが、第13ドックにて修理中の第7戦隊用の鹵獲艦が修理完了間近なので、それで補填してもらう。
他にも新造艦としてルナワルド型改航空巡洋艦1とエルシーク型軽巡洋艦4を建造中だ。
エルシーク型軽巡洋艦3艦は、後に第1から第3戦隊に分配して駆逐艦3を第7戦隊に戻すかたちとなる。
今後は戦隊の編成を航空巡洋艦1、軽巡洋艦1、駆逐艦3を基本として変更していくつもりだ。
続けて第5、第6戦隊用の航空巡洋艦2と軽巡洋艦2の建造も視野に入れていたのだが、リーンワース王国の艦の損傷修理のため、ドックを空けなければならなくなり、建造計画に遅れが生じている。
リーンワース王国の陸上戦艦は、ベヒモスのよる爆裂弾で損傷していたのだが、被害は上部構造物に集中していた。
特に魔導レーダーと魔導通信用のアンテナが全損していた。
幸いなことに魔導砲塔に偽装していた重力加速砲は、その堅牢な砲塔に守られて砲身以外は無事だった。
ベヒモスが1体だったことも被害を抑えることが出来た理由だろう。
だが、北の帝国はリーンワース王国より多い数の陸上戦艦を揃えておきながら滅んだ。
陸上戦艦の脅威となる魔物は、少なくともベヒモス1体などということはないのだろう。
北の大峡谷にある要塞は魔物を大陸の南へと入れないための
ここを突破されないためにもリーンワース王国の陸上戦艦には多少の損傷は我慢してもらって防衛にあたってもらう。
俺はゴーレムに指示を出し、艦橋部のアンテナ類を修理させ、自らも重力加速砲の砲身を直して回った。
応急的な処置だが、この大峡谷に侵入する魔物対策だけなら充分だろう。
大峡谷の要塞に残すのは4艦。2艦を第13ドックに持って行って完全に修理させる。
それが直ったら2艦を入れ替えてと3ローテで修理を完了する予定だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「
ついにこの時が来てしまった。
魔物の大陸南への侵攻だ。
魔導レーダーには魔力を放出し反射して来た魔力を検知するアクティブレーダーと、魔力を持つ存在の魔力自体を探知するパッシブレーダーの2つの機能がある。
魔物は魔力を持つが故にパッシブレーダーに映る。これは地平線の彼方の直接目視出来ない場所でも魔力が強いほど探知が可能となる。
だが、魔物の数が多すぎて光点と光点がくっつき、全体が光の帯となって魔導レーダーには映っていた。
魔物が地を埋め尽くしているということだろう。
数は性能を上回る。
どんなに優秀な兵器でも対応しきれない数で攻められれば突破されてしまう。
つまり、いかに遠距離で対処し近付かせないかが勝負の鍵となる。
『魔導砲発射準備、弾種火魔法『爆裂』。砲に仰角をかけろ。
俺は15艦の陸上戦艦に火魔法の発射準備を命じる。
我が国の陸上戦艦は艦首を北に向けて横一列に布陣している。
航空巡洋艦からは
ひたすら実地訓練をさせることでワイバーンからの機種変換――というのかわからないが――が可能となった。
彼らは北の大峡谷を抜け、魔物の上空へと進出する。
『こちら弾着観測機1号、定位置に着きました』
『こちら2号、定位置に着きました』
『3号も定位置に着きました』
「アクティブレーダー中継良好。ベヒモスと思われる大型魔物5体を確認しました」
アクティブレーダーはパッシブレーダーと違って対象物の大きさがわかる。
パッシブレーダーは魔力の強さに影響されるため魔力の強い小さな魔物と魔力の弱い大きな魔物では前者が大きく映るのだ。
なので、魔物の種別を確認するにはアクティブレーダーで捉える必要がある。
その中継を
高度のある
「構うな!」
『全艦魔導砲『爆裂』発射!』
俺の命令で15艦の陸上戦艦の魔導砲から16発の『爆裂』魔法が放物線軌道で発射された。
魔導砲が光魔法以外も撃てることは、第13ドックの執事、セバスチャンから聞いていた。
今回は事前に光魔法以外も撃てるようにと、俺たちは訓練を終えていたのだ。
15艦なのに16発なのは、旗艦エリュシオンが魔導砲を3門搭載し、そのうちの2門が前方に発射できるからだ。
残り1門は後甲板に装備された後部砲塔なので使用していない。
「弾着まであと5秒、4、3、2、1、弾着!」
艦橋要員の1人がコンソールの時計を見て弾着までの時間を読み上げる。
弾着時間になったとともに火魔法が爆裂した轟音が、地平線を越えて聞こえて来る。
『『『全弾命中! だが、掃討には至らず』』』
魔導通信機に
『各艦、任意に攻撃開始、同じ場所に当てるなよ!』
この後、魔物の群れに向かって15艦の魔導砲からの艦砲射撃が止むことなく続くのだった。
『火魔法に耐性のある魔物の群れがあります!』
どうやら魔物の中に火魔法に強い種類がいるらしい。
たしかに
こいつらなら火魔法の攻撃に耐えられるのか。
「座標確認、魔導砲雷魔法『サンダーレイン』準備」
雷系の魔法は座標指定で撃てる。
その座標は弾着観測機がもたらしたアクティブレーダーのデータで特定できる。
倒された魔物の群れの中で、そこだけ固まって生きているものがいるのだから、そこを狙えば良いのだ。
「『サンダーレイン』発射!」
魔導砲の砲口に魔法陣が広がり、上空へと転移する。
その直下が指定座標だ。そこに『サンダーレイン』が降り注ぐ。
雷が落ちる轟音が太鼓の連打の如く鳴り響く。
『サンダーレイン命中、該当の魔物は沈黙しました』
よし、これを続けていけば魔物の大陸南部への侵入は防げる。
後は大陸北部へ侵攻して魔物を生み出している本拠地を叩く。
それでこの戦いも終わるだろう。
15艦の陸上戦艦は北の大峡谷へと迫る魔物を殲滅するまで魔導砲を撃ち続けるのだった。
『高速飛翔体接近! 回避します!』
何事かと騒然となる我が司令部。
『火竜です! 弾着観測を維持できません!』
『撤退を認める。命を大事にしろ!』
俺は基本姿勢の命大事にで撤退命令を下した。
弾着観測が出来なければ攻撃の精度は下がるが致し方ない。
後は目視ででも攻撃を続けるしかない。
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