第五章 魔物暴走編
第161話 異常事態
「くそ、このままではまた帝国で犯罪者扱いだ。
なんとしてでも、手柄を持ち帰らないとならない……」
旧ルナトーク領に進軍して来たキルナール王国の艦隊を撃破するべく、期待の新兵器である空母とその搭載機を任された調査兵団団長イオリだったが、まさかの搭載機18機損失という大失態を犯してしまった。
一番痛いのは、この敗走によって旧ルナトーク領はキルナール王国に奪還されてしまい、故郷には強固な要塞まで造られてしまった。
ガイアベザル帝国には、既に旧ルナトーク領を取り返すだけの戦力は残っていなかった。
さらに痛いのは、折角育成した搭乗員を18人も失ったことだった。
搭乗員さえ生きていれば、まだ残った機体は80機もあった。
機体は有限な資源だったが、遺跡に行けばまだ製造出来る可能性が残っていた。
だが、空飛ぶ機械を運用できる素質を持つ人材は稀であり、そちらの方がある意味貴重だった。
「またあの遺跡まで行って、何か手柄となるものを探すべきだな」
イオリは独り言ち、空母の進路を帝国が新しく手に入れた北方の遺跡へと向けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『人為的な魔力バースト確認。
魔導機関の活性化反応を確認。
至上命令により駆逐を開始します』
ガイアベザル帝国の北方に位置する未だ知られざる遺跡で、過去の遺物が目覚め、その任務を遂行しようとしていた。
丁度その頃、北の遺跡に向かっていたイオリが座乗する空母が、その遺跡の側にやって来ていた。
「魔力反応が増大しています。
もしや、遺跡の活性化ではないでしょうか?」
「見せろ!」
イオリが
「間違いない。活性化した遺跡だ!
俺はついているぞ。この手柄を持ち帰れば俺の地位は安泰だ!」
イオリは空母の進路を遺跡の反応に向けた。
「ここだ!」
イオリの空母の乗組員は、調査兵団所属の子飼いばかりだった。
早速遺跡の入口隔壁に取りつき、イオリが管理者権限でアプローチする。
しかし、この遺跡はイオリの管理権限では開かなかった。
「また先を越されたのか?」
イオリはクランドに管理者権限を奪われた前回の遺跡を思い出した。
また同じようなことになっていたら、執事ゴーレムを倒して乗っ取るつもりだった。
だが、単純に隔壁が経年劣化で壊れている可能性もあった。
イオリたち調査兵団にとって遺跡調査はお手の物だ。
早速土魔法で隔壁に穴をあけ縄梯子で遺跡内部に侵入する。
その様子は相変わらず遺跡に侵入する盗掘者のようだ。
遺跡内部の床に到着し、イオリたち調査兵団の面々が周囲を警戒する。
「俺はついている。この遺跡も生きているぞ!」
遺跡内部がほのかな光を発しているのは遺跡が生きている証拠だった。
生きている遺跡ならば、そろそろ警備用の武装ゴーレムがやってくるはずだ。
そうイオリたちが身構えていると、警備ゴーレム用の小さな隔壁ではなく、陸上戦艦の出撃用と思われる巨大隔壁が音を立てて開き始めた。
「どういうことだ? 隔壁は壊れていたのではないのか?」
遺跡の蓋をしていた隔壁は、イオリの管理者権限に反応して開かなかった。
つまり、クランドに先を越されたか、隔壁の開閉機構が壊れているのだとイオリは思っていた。
それが音を立てて開いていく。
「執事ゴーレムならば、もっと小さな隔壁を開くはずだ」
イオリは想定外の事態に頭を捻った。
その時、遺跡内にガイア帝国語のアナウンスが響いた。
『魔導機関の反応を確認。駆逐せよ。駆逐せよ』
ガイア帝国語と呼ばれる古い言語によるシステム音声が遺跡内に木霊する。
イオリたちがいるのは、おそらく陸上戦艦が出撃するための隔壁の底だ。
そこから地上へのスロープが上部隔壁まで繋がっており、奥は地下格納庫へ向かう通路になっていた。
イオリたちはシステム音声の内容が理解できないため、その様子に歓喜した。
「この形の遺跡は当たりだ。この先に陸上戦艦がある!」
イオリはその経験から複数の陸上戦艦を手に入れられるとほくそ笑んだ。
その時、遺跡の奥で赤い二つの光点が灯った。
それはまるで巨大生物の目のようだった。
『対艦生体兵器ベヒモスキャノン、出撃せよ!』
足音が聞こえる。イオリたちのもとへと振動も伝わってくる。
それは巨大生物が歩く足音と振動に似ていた。
「俺は『管理者権限』を持っている。遺跡よ! 我に従え!」
異常な振動に恐れをなしたイオリが管理者権限を主張する。
これはガイアベザル帝国に残っていた魔法の言葉と言ってもいいものだ。
言葉の意味は推測レベルでしかわからなくても、これで管理者権限を主張できることはわかっている。
そのレベルで遺跡の遺物にアクセスしているのがガイアベザル帝国の実情だった。
だから壊れた陸上戦艦の修理すら出来ないのだ。
だが、この主張は悪手だった。
何しろこの遺跡は……。
『勇者を確認、殲滅せよ!』
床にいくつもの魔法陣が浮かび上がる。
そこからは魔物が召喚されてくる。
それもA級と呼ばれる強い魔物ばかりだ。
この世界で魔物といえばダンジョンに湧いて出るものであり、駆逐対象として馴染みのある存在だった。
魔物はある程度の剣の腕があれば駆逐出来、食肉や素材といった人類のためになる資源扱いを受けるような立場だった。
このようなA級の魔物など、ダンジョンの底に存在し、滅多に見ることの出来ないおとぎ話上の存在だった。
なのでクランドが偶然手に入れた真相の魔物素材の数々が高く売れたのだ。
「魔物だ!」
「なんだこの遺跡は?」
「警備がA級の魔物? いつものゴーレムじゃないのか!」
調査兵団はパニックに襲われた。
この世界には火縄銃レベルの銃はあったが、対人対魔物の主武装は未だに剣や槍の手持ち武器だった。
イオリが唯一単筒を持っていたが、彼以外の調査兵団の面々は剣を腰に挿していた。
しかし、彼らは遺跡の調査を主任務とし、戦うにも陸上戦艦で蹂躙するのが主だった。
対魔物の肉弾戦などほとんど経験したことがない。
「撤退だ! 遺跡の外に出るぞ!」
しかし、そこは巨大な穴の底。
先ほど降りて来た縄梯子も連動して開いた上部隔壁と共にどこかへ行ってしまっている。
幸い入り口はスロープなので坂を登れば地上へと繋がっている。
なんとか魔物を倒しながらスロープを登るも、何度も何度も魔物が魔法陣から召喚されて出て来る。
調査兵団の面々は一人また一人と倒れて行った。
「くっ。なんでこんなことに……」
イオリが最後に見た光景は巨大なベヒモスがスロープを登り切り、背中の大砲を空母に撃つところだった。
クランドが見たらこう言っただろう「カ〇ックス?」
そこにあったのは魔物と機械を融合した兵器という冗談のうような光景だった。
そうこの遺跡は対勇者対陸上戦艦戦を戦った魔王軍の遺跡だった。
陸上戦艦が各地に落ち朽ちていた理由、、ガイア帝国が陸上戦艦などという対人戦ではオーバースペックな兵器を持っていた理由がこれと戦うためだったのだ。
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