第110話 戦闘準備2

 俺は対艦戦闘というものをあまり良く判っていないリーンワース王国の面々に、近代戦のなんたるかを教え、戦力の分散がどれだけ危険かを説いた。

その結果、なぜか俺に戦闘準備の指揮権が与えられてしまった。

あくまでも準備の指揮であり、実際に現地で戦う時の指揮権はないのだが、万全の態勢で迎撃するための準備は、全て俺の指揮により王国軍が動くこととなった。

これは俺がリグルドの修理という大事な仕事を任されているため、気分を害して修理してもらえなければ困るという裏事情が齎したもののようだった。

まあ、好きにやれる力を得たのだから、負けないように何とかするしかない。


「まず王都の蒸気砲をルドヴェガース要塞に俺の転移で運びます。

運用するための兵も準備してください」


 俺の指示に第3騎士団長が答える。


「既に派遣軍を編成中だった。

そいつらを運んでくれ」


 さすがにリーンワース王国も黙って見ているわけではなかった。

既に派遣軍を編成し出撃準備を整えているところだった。

リーンワース王国の王都に配備されていた蒸気砲の一部も増援として運び込むつもりだったらしい。

ただし、その派遣軍がルドヴェガース要塞に到着するのは馬車を使っても2週間以上後のことだった。

それが俺の転移を使えば一瞬で兵をルドヴェガース要塞まで送ることが出来る。

まあ俺の魔力が消費されるのだが、魔導の極のおかげで使う側から回復するので、ほぼ無限に魔法が使えてしまうので気にはならない。

彼らを転移で増援物資と共にルドヴェガース要塞にさっさと運ぼう。



 転移先はルドヴェガース要塞転移陣にした。

さすがに大量転移となると多少でも魔力の節約が出来る転移陣の方が良い。

迅速な増援派遣により、どうやら開戦までには間に合ったようだ。

まだルドヴェガース要塞は敵の攻撃を受けていなかったのだ。

増援到着にブラハード将軍が慌ててやって来る。


「ブラハード将軍、増援を運んで来た。状況は?」


「おお、クランド陛下。助かります」


 ブラハード将軍は挨拶もそこそこに状況を説明する。


「北の帝国の陸上戦艦は3艦以上の複数だ。

北の要塞、ボルダルの街は敵の手に陥落。

明後日にはここも戦場になるだろう」


 敵の侵攻速度は見込み通りか。

それにしても敵の陸上戦艦の数が不明なのは嫌だな。


「悩んでいる時間はないな。

よし、リグルドを修理してここで使う。

回収するがかまわないな?

一応リーンワース王からは許可を得ている」


「構いません。リグルドが使えるのならば嬉しい限りです」


「修理が間に合えばだがな」


 ブラハード将軍がリグルドが使えそうだと聞き嬉しそうだ。

陸上戦艦の所持はこの世界ではステータスになるのだろうか?



 俺はリグルドをインベントリに回収し、その足で第13ドックに転移した。

執事のセバスチャンが慌てて桟橋に現れる。


「クランド様、いかがなされましたか?」


「セバスチャン、これリグルドも修理してくれ。

1日半で稼働状態に仕上げて欲しい。

完璧な修理より動くことが重要だ」


 インベントリから出したリグルドをドックに入れ、セバスチャンに修理とメンテナンスを頼む。

ただし時間が無いので1日半で実現できる最低限の戦力化に留めることにした。


 セバスチャンが目の前の空間に魔法で巨大スクリーンを表示する。

そこにはリグルドの図面が表示され故障個所に赤いマーキングがなされていく。

いつのまにかリグルドの正体を看破したらしい。


「はい。最大の損傷は重力制御機関と魔導砲塔ですな。

幸い建造中の戦闘艦から重力制御機関や魔導砲塔が流用出来るので2時間ほどで交換出来るでしょう。

他は、例の穴ですが、これも開閉式にいたしましょう」


「間に合うのか?」


「はい。問題は墜落による艦体の歪みですが、これは修理に時間がかかりますので、このままでも航行に支障はないかと思います。

後ほどきちんと修理いたしましょう。

その他メンテナンス含めて1日半でやってみせますとも」


「あ、こいつリグルドには、この国旗を描いてくれ」


 セバスチャンにリーンワース王国の国旗を渡す。

一応リグルドの所有権は撃墜したリーンワース王国のものだ。

もちろん修理はタダではない。修理費としていくら取ろうか?

あ、戦争が終わったら魔導砲は外してしまおう。

いや、重力加速砲で我慢してもらおう。

こんな強力な兵器を渡したら危なくてしょうがない。


「魔導砲はダミーのままでよい」


「はい。畏まりました」


「頼む」


 言うが早いかゴレームがわらわらとリグルドに取りついた。

これでリグルドも戦闘に間に合うことだろう。


「ああ、そうだ。エルシークも貸してくれ」


「はい。出撃準備をいたします」


「いや、インベントリに収納して持っていく」


 よし、戦力が増えるのは助かるぞ。

俺はエルシークをインベントリに収納すると、そのままズイオウ領へと転移で戻った。


「全幹部召集!」


 俺はズイオウ領の運営に関わる全幹部を集めて事の次第を説明した。


「なんということなの。北の帝国がまたここまで……」


「ここも戦場になるのね……」


「いや、そうならないようにリーンワース王国と共にルドヴェガース要塞で戦うのだ」


 喧々諤々、様々な意見が飛び交う。

こういった時、王制は楽でいい。

俺の意見が絶対なのだからな。


「ルナワルドとザーラシアをルドヴェガース要塞に運ぶ。

その運航要員を選抜し連れて行きたい。

まずルナワルドの艦長はウェイデン伯爵。

戦略指揮に関してはヴェイデン伯爵の右に出る者はいないだろう。

戦局を読んで指示を出してもらいたい。

艦橋要員の部下の選抜は任せる。

続いてザーラシアの艦長はミーナ。

彼女の弓の腕は誰もが認めるところだろう。

その腕で艦砲を扱え。

部下は好きな傭兵を連れていけ」


 俺は有無を言わさず命令した。

二人には陸上戦艦の管理者権限を一部譲渡することになる。

それによって音声での操艦が可能になる。

いまはそれで凌いでもらうしかない。


 ルナワルドとザーラシアをインベントリに収納してルドヴェガース要塞に転移した。

ヴェイデン伯爵と部下の騎士団、ミーナとザール傭兵団を、この2艦の運用をしてもらうべく一緒に転移で連れてきた。

ティアと指揮下の特殊部隊もエルシークの運用要員とした。

エルシークには俺も座乗する。


「状況は?」


「敵の艦影まだ見えません」


 ルドヴェガース要塞の兵が答える。

俺はルドヴェガース要塞の外に出ると陸上戦艦3艦をインベントリから出した。

ルナワルド、ザーラシア、エルシークの勇姿に要塞の兵がため息をつく。

舷側にはキルト=ルナトーク=ザールの国旗が描かれている。


「この艦へは誤射しないでくれよ?」


 俺の冗談に要塞の兵から笑みがこぼれた。

ブラハード将軍だけは顔が引きつっていたが……。

以前部下がやらかしたことは忘れていないようだ。


 敵の侵攻が予想通りなら、ここにリグルドが加わる時間が得られるはず。

陸上戦艦4隻での迎撃となれば、そうそう負けはしないだろう。


「はあ。やっと一息ついたな」


 余裕が出来た俺はあることを忘れていたことに気付く。


「やばい。クラリスをリーンワースの王城に置いて来てしまった!」


 まあ、戦場から遠いところに居てもらうのも安全のためには有りだな。

クラリスにはそう言い訳することにして、俺はルドヴェガース要塞の迎撃準備を整えて行った。

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