第78話 肉ダンジョン
胸に抱いたプチに先導されてズイオウ山の中腹にワイバーンで飛んでいくと、そこには山崩れの痕があった。
そこへワイバーンを降ろすとプチは俺の手から飛び降りて走り出した。
「わわわんわんわん(ここ掘れわんわん)」
プチがその崩れた中心を右前足で示す。
今度こそここを掘れということらしい。
俺は土魔法で、崩れた土砂を退けてみる。
一瞬の作業だった。
するとそこには、ぽっかりと口を開いた洞窟が現れた。
俺はプチを再度胸に抱くと共に洞窟の入り口に降り立った。
洞窟の中は暗く、何も見えなかった。
【ライト】の魔法を洞窟内に放り込んで様子を伺うと、入り口から降りていく階段が目に付いた。
その中から魔物が徘徊する鳴き声や足摺の音が聞こえて来る。
「おいおい、ダンジョンの入り口じゃないか!」
そう、プチが【ここ掘れわんわん】したのは、ダンジョンの入り口だったのだ。
ダンジョンはこの世界でもラノベと同様な魔物の巣窟であり、同時に資源の宝庫だった。
資源とは魔物素材であったり、ドロップや宝箱から出る魔導具や金銀財宝、身体が鉱物となっている所謂魔物鉱山からの鉱物資源、ダンジョン産の食材であったりする。
プチの【ここ掘れわんわん】の能力を鑑みるに、今回の食糧・肉不足の経緯から食材が取れるダンジョンである可能性が高い。
試しに踏み込んでみると、オークとエンカウントした。
先行したプチがサクッと倒す。
これで確定した。俺が肉が足りないとこぼしたから、プチのユニークスキルが食肉の獲れるダンジョンを見つけたということだと思う。
ダンジョンの魔物はいくら獲っても時間が経てばポップして復活する。
食肉の供給源としては、これ以上ない財産となるだろう。
しかし、こんなにも欲しいものが、ご都合主義で身近にあるものなのだろうか?
プチが神様にどのような望みを伝えたのかはわからないが、もしかすると【ここ掘れわんわん】で、俺が欲しがっているものを召喚しているのかもしれない。
俺は最初魔の森に放り出されて【生き延びる力】が欲しかった。その時【ここ掘れわんわん】で見つけだしたのは【生き延びる力】を得るためのダンジョンだった。
次に【労働力】が欲しいと思った時は、【ここ掘れわんわん】で【労働力】となるゴーレムを見つけて来た。
その次は奴隷購入の後押しで【ここ掘れわんわん】が出た。それにより掛け替えのない伴侶を手に入れた。
ん? この方面はまた違う力みたいだな。
いずれにしても、俺が困った時に助けてくれるのが、プチの【ここ掘れわんわん】だった。
プチに感謝するしかないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
こうして我がズイオウ租借地は食肉ダンジョンという資源の宝庫を得た。
地下一階はオーク、地下二階が黒オーク、地下三階がミノタウロス、地下四階に黒ミノタウロスが出た。
オークは
「ウェイデン伯爵、ズイオウ山でダンジョンをみつけた。
そこで肉素材の獲れる魔物が狩れる。
オークまたはミノタウロスが狩れるような人材を食肉調達班として編成し狩りに行ってもらいたい」
領内警備を任せていたウェイデン伯爵に食肉調達班を編成してもらう。
領兵のレベル上げを兼ねてダンジョン内で狩りをしてもらうのだ。
「オーク討伐のレベルなら何人か目星がつきますが、ミノタウロス討伐となると……」
ウェイデン伯爵は渋い顔をした。
それはおそらく領兵のレベルのことも、肉の運搬保存のことも気になったのだろう。
「そこは、うちのターニャ、ミーナ、ティアあたりに相談してくれ。
彼女達ならミノタウロスでも狩れるのでまずレベル上げに協力してもらうんだ。
狩りによる肉の調達が主任務だが、領兵のレベル上げの訓練でもあるから、無理せず狩って来て欲しい」
「了解しました。うちの兵を鍛える良い機会でもあるのですな」
「それと、これを」
俺はウェイデン伯爵にこっそり魔法鞄の能力のある背嚢――魔法背嚢――を渡す。
高価な魔道具なので、あまり表ざたにしたくないのでこっそりだ。
「?」
「大きな声では言えないが、魔法鞄だ。
時間停止と重量軽減、容量増大の機能があるから、討伐した魔物をそのまま持ち帰ってこちらに戻ってから解体出来る」
「そんなものが、こんなに沢山!」
ウェイデン伯爵が驚くのも無理はない。
家一軒分以上の価値がある魔法背嚢が10個あるのだから。
これも俺の手にかかれば簡単に作成出来てしまうのだが、そこは秘密だ。
「管理は厳重に頼む」
「一命に変えましても」
ウェイデン伯爵が真剣な面持ちで頷く。
「いや、伯爵の命の方が大事だから。
万が一、これの価値を目当てに、持っている兵が襲われる事の無いようにって話だからな?」
「そこまで国民のことをご心配になられる……」
俺が冗談めかして言うと、ウェイデン伯爵は感銘を受けたようで感動で涙を流していた。
「ああ、そうだ。ダンジョンまでの足が必要だな。
ワイバーンに乗れる者はいるか?
ダンジョンまではワイバーンで行けば早いぞ」
「10名ほどか乗れたと思います」
「そうか、ニル! ワイバーン厩舎は手は足りているか?」
「ん。今のところは大丈夫」
そんなの当然だという顔でニルが答える。
「もう10頭増やしたいんだが?」
「ん。無理」
これも当然だという顔でニルが答える。
「わかった。ワイバーンの世話を出来る人材はいるか?」
俺はウェイデン伯爵とニルに向けて問う。
「キルト族は動物や魔物の世話に長けている。特に騎獣はお手の物」
ニルが食い気味に答える。
キルト族のプライドでそこは譲れないという面持ちだ。
「なら人選はニルに任せる。厩舎は……。そこらへんに建てておく」
「主君、そのワイバーンはどう手配するので?
ここいらでは簡単に手に入らないと思いますが?」
ウェイデン伯爵が首を傾げて問う。
「ああ、こうするんだよ」
俺は土魔法でサクッと厩舎を建てると、ウェイデン伯爵の目の前でワイバーンを10頭召喚した。
呆気にとられる伯爵。
それを不思議そうに眺める厩舎内のワイバーンという光景に、俺はなんだか可笑しくなってしまった。
「食肉調達班の編成を頼むぞ」
「お任せください」
インベントリからワイバーンの鞍を出しながら言う俺に、ウェイデン伯爵はこれ以上驚くのは無駄だという顔をしていた。
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