第60話 迫る追手

リーンワース王国情報局


 情報局の長である将軍に部下から緊急報告が届いた。


「尻尾を掴んだと?」


「はっ。クランドのギルド預金が移し替えられたことは以前ご報告した通りです。

その先の口座を調査していましたが、複数辿った先で口座が閉められていて追うことがかないませんでした。

しかし、別件で尻尾を掴みました。

クランドの口座から1億G減ったその日に1億G増えた冒険者がいました。

その冒険者が現れたのが、パリテの街です。

冒険者ギルドでカード情報の更新を行い、その時に何処かから1億Gが振り込まれたという履歴を得ていました」


 情報局将軍はその情報を大いに喜んだ。

その冒険者はクランドの関係者であろう。


「その者の素性は?」


「ギルド登録名はクロードというようです。

冒険者としての登録は王都ギルドで、活動実績は平凡。主に田舎での討伐任務でした。

ギルドで現金を降ろし仲間に金を渡していたそうです」


 田舎の討伐任務で1億Gも手に入れるなど有り得ない。

やはりクランドの金で間違いない。


「その活動実績では1億Gを稼げるような冒険者とは思えないな。

となると現金の引き出し役というところか。

まさかと思うが、その者がクランド自身ということはないだろうな?」


 小さな可能性だが、一応将軍は確かめておく。


「複数の目撃者の話では茶髪茶目だったそうなので、別人と思っていいでしょう」


「では、その男を追えばクランドに辿り着く可能性があるのだな?」


 やっと掴んだ尻尾だ。そこから本体に辿り着いてやろう。


「いえ、残念ながら、クロードが現れたのはそれ一度きりだったそうです」


 決まりだな。金を降ろしておいて、その後その金を使いに来ない。

そんなバカなことは普通しない。

おそらくクランドが逃走資金としての現金化をクロードに頼んだのだろう。

1億Gも預けて持ち逃げされないと思えるとは、クロードとクランドの関係は相当近しいものであるはずだ。


「そう思うとますます怪しいな。よし、パリテの周辺に中隊を出して捜索しろ。

ただし、敵対行動を取るな。こちらが協力を請わねばならない相手だとくれぐれも伝えるのだ」


 それにしても陛下の洞察力が見事だった。

本当に金の流れでクランドに迫ることが出来たのだ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 第三小隊第二斥候分隊が情報局からの命令でズイオウ川を捜索していたのは、たまたまだった。


「分隊長、人です」


 そこには男女四人と小さな犬が一匹、川辺で何かを拾っていた。


「小さな茶色い犬に複数の美人を侍らせた男!」


 彼らは斥候のスキルを持っていて、気配を隠蔽していた。

そのまま男たちを観察する。


「なんだあの土魔法は! 尋常な魔力ではないぞ」


 彼らの目の前で男が使った土魔法は並大抵の実力者の使うものではなかった。

男は地面から人の頭大の何かを取り出すと、魔法鞄に入れたのか、その何かが消えた。


「!」


 彼らは思わず息を呑んだ。魔法鞄など滅多にお目にかかれないレアアイテムだからだ。


「わん!」


 男の犬が吠えた。

と同時に男がこちらに向く。


「(ばれた!)」


 分隊の誰かの隠蔽が驚きにより剥がれたのだろう。

後でみっちり訓練してやらなければならない。


 男たちが岩の向こうに行ったと思ったら気配が消えた。

まさか【転移】を使ったのか?

おそるおそる近づいて岩の裏を調べるも、そこには既に誰も居なかった。


「間違いない。対象は【転移】が使える可能性があったはすだ」


 彼らは当たりを引いた。

分隊長は大急ぎで本体に合流すると目撃情報を上に報告するのだった。

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