第30話 史上最強の魔王。王都に行くことにする。

 俺は騎士団の詰め所の前でリュミエルと別れた。

 リュミエルにはまだ職務があるのだ。


 そして、俺はお菓子を買う。家を出る前にヨルムと約束したからだ。

 リュミエルの屋敷に帰って、ヨルムとお菓子を一緒に食べたのだった。



 次の日の朝、俺が起きるとヨルムが言う。

「陛下、疲れていたの? 随分ぐっすり眠っていたけど」

「かも知れない。魔力はだいぶ馴染んできてはいるんだが……」

 リュミエルとヨルムと一緒にやっている朝の訓練は俺の魔力を馴染ませるのにも役立っている。

 とはいえ、まだまだかかりそうだ。


「そっか。陛下強いけど、生まれたばっかりだもんね」

「とりあえず、様子を見ながら、ゆっくり馴染ませていこう」


 俺とヨルムが朝ご飯を食べに食堂に行くと、リュミエルは既に食堂にいた。


「お師さま、昨日はありがとうございました」

「気にしないでいいよ。そしてリュミエルは、もっと頼ってくれていい」


 何かあれば一人で出撃するのは哀れだ。それに危険でもある。


「ですが……」

「食事と寝床を提供してもらっているし。それに風呂もな」

「でもそれは、最初に助けてもらったお礼でもありますし。魔法について教えて貰っていますし」

「まあ、とにかく何か魔物の類いが現われたら俺に言ってくれ」


 そのとき、ヨルムが空気を読まずに声を上げた。


「きゅるるるー『お腹減った! 陛下もそうだよね!』」


 ヨルムが古代竜だとリュミエルには知られている。

 それでも、リュミエルの前では、なるべく人の言葉を話したくはないらしい。


『ヨルムがお腹がすいたそうだ』

「わかりました! すぐに準備しますね」


 一緒に朝食を食べている最中、リュミエルが言う。


「お師さま、お願いがあるのですが……」

「なんだ? 何でも言ってくれ」

「国王陛下が、お師さまを王都に召喚いたしました」

「わかった。王都だな。行こう」

「……事情を聞かなくていいのですか?」


 そう言ったリュミエルはどこか不安げだ。


「もっと俺を頼れと言ったはずだ。遠慮しなくていいよ」

「それでも、理由を聞いてから判断しても……」

「それに王都ならば、フィルフィの情報も仕入れやすくなるだろうしな」


 魔神の情報もこの街よりも仕入れやすそうだ。


「お師さま。ひとまず事情を聞いてください」

「わかった」


 リュミエルが言うには、王宮はドラゴンゾンビから街を守った俺を評価しているらしい。

 だから王が自ら報償を与えたいのだと言う。


「ドラゴンゾンビを倒したのはリュミエルだろう?」

「いえ! お師さまがいなければ、討伐は出来なかったと思います! 仮に出来たとしても被害は大きな物になったかと」


 俺がドラゴンゾンビ戦で、やったのは炎ブレスを防いだことぐらいだ。

 確かに、あの炎ブレスが防げなかったら、多くの家が燃えただろう。


「それはともかく……。早すぎないか? ドラゴンゾンビ討伐は昨日だぞ?」

「連絡用魔道具がありますから。それに、以前からオークロード討伐なども報告していますから……」


 自分が倒したと報告すればいいものを、リュミエルは真面目らしい。

 昨日、リュミエルは宰相と話すのに使っていた、魔道具で報告していたに違いない。


「そうだとしても、報奨を決めるには色々手続きがいるんじゃないのか?」

 普通どんなに早くても数日はかかるだろう。


「王が是非会いたいと仰せとのことで……」

「……そうか」


 これだけ早いと言うことは、なにか事情があるのだ。

 それに人族である俺を、わざわざ王宮に呼び出して報奨を与えるとは思えない。

 制度的には平等でも、あからさまに人族は侮蔑されている。


「俺を王都に呼び出したのは、宰相なのか?」

「……あくまでも王の命令、勅命です。ですが……宰相閣下が強く希望されているのは確かです」

「なるほどな」


 宰相の命令を、勅命として出しているのだろう。

 リュミエルはドラゴンゾンビを討伐したことで、「竜殺し」の栄誉を得た。


 無能王女、王族の恥さらし。そんな悪評を覆すのに、充分な功績だ。

 王位継承の争いで、リュミエルは一歩リードしたに違いない。


 そんなリュミエルにお師さまと呼ばれ、指導している強大な人族。

 俺のことを宰相が亡き者にしたいと考えるのは自然なことだろう。


「王都には行こう。俺も行きたいと思っていたからな。ただし条件がある」

「条件ですか?」

「リュミエルが同行しないのなら、俺は王都には行かない」


 俺を王都に呼び出して、その隙にリュミエルを害されたら困る。


「わかりました。交渉してみますが、その程度であれば許可されると思います」

「それなら王都に行こう」

『王都かー。楽しみだなー。お菓子もおいしそう』


 ヨルムはご機嫌に尻尾を振っている。

 宰相が悪巧みして待ち構えているのだろう。

 だが、敵の悪巧みには乗った上で踏み潰す方が、俺の好みだ。


「報奨は別にいらないが、王都は少し楽しみだな」

「ありがとうございます。すごく助かります」


 そのときヨルムが念話で話しかけてくる。


『でも、陛下。いいの?』

『なにがだ?』

『絶対悪い奴らがうじゃうじゃいるよ?』

『そりゃいるだろうな』


 ヨルムの懸念は充分わかる。

 罠を張って待ち構えているに違いないのだ。


『陛下がいいならいいけど……。あっ、宰相倒すついでにオルトヴィル王国を征服するの?』

『それは魔神を倒した後だ』

『そっか。魔神は人の死を糧にするんだもんね』

『そうだ。順番が大切なんだ』


 王国を征服するとなると、戦になる。必ず血は流れる。

 それは魔神を強くするだけだ。


『今はリュミエルの状況を知りたいんだ。もしかしたら力になれるかも知れないからな』


 オークロードやドラゴンゾンビの罠、突然オークロードが街に出現したこと。

 それらは宰相の一派のが用意していた可能性は高いと俺は考えている。


 宰相が、孫である第一王子を王にしたがっていると街の住民の噂に上るぐらいだ。

 あからさまに動いているのだろう。


 第一王子を登極させるにはリュミエルを亡き者にするのが手っ取り早い。


『恐らく宰相はリュミエルを亡き者にしたがっている。それはヨルムもわかるだろう?』

『うん。わかる。あ、そっか! 陛下が王宮に行ったら、宰相が仕掛けて来るってことだね!』

『どちらにしろ何らかの動きは見せるだろうさ。その動きを見てみたい』

『そっかー。僕も楽しみになって来た』


 そう言ってヨルムは尻尾をぶるぶると振った。

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