第29話 史上最強の魔王。後始末をする。

 リュミエルは、ドラゴンゾンビを倒したことで、少し興奮気味だった。


「お、お師さま! やりました!」

「見事な腕前だった」『ほんとにね。嫌になるよね』


 リュミエルは単純に嬉しそうだ。住民たちが大喜びで駆けてきてリュミエルを取り囲む。

 竜の咆吼で気が遠くなったりした者も、今は回復しているようだった。


「姫様、ありがとうございます!」「命の恩人です」

「ハイラムさんもありがとう!」


 ジェシカに丁寧にお礼を言われる。他の住民たちも俺に向かってお礼を言う。

「俺のことは気にするな。姫様が偉いんだ」


 俺はリュミエルのことを立てておいた。

 そして、民たちに囲まれて感謝されているリュミエルを見ながら、ヨルムと話す。


『オークロードを呼び出して、リュミエルが領主の制止を振り切って倒しに行く。そしたら……』

『ドラゴンゾンビが大暴れってわけだね。陛下。敵も嫌なことを考えるね』


 無能王女が調子に乗った結果、大惨事を引き起こす。

 責任者の領主が止めていたにもかかわらずだ。

 これは、どうやっても言い逃れが出来ない。

 王族だから牢獄に入ることはなかろうが、騎士団長を更迭されて、王都で軟禁生活ぐらいは覚悟すべきだろう。 


『だが、敵の思惑は完全に外れたな。策士策に溺れるとはこのことだな』


 竜を退治して領民を守りきった。

 これは騎士団長としても、王族としても、大きな功績だ。


『策がどうこうというより、勇者が異常なだけだと思う』

 どこかヨルムは不満げだった。


 そして、住民たちがオークキングとドラゴンゾンビのの解体を始める。

 ジェシカたち子供たちも張り切っていた。


「ジェシカ。そうじゃない。こうやるんだ」

「こうだね!」


 街の老人からやり方を教わりながら解体していく。


「竜は硬いので私が斬りますね」

「姫様にそんな雑事を……」

「気にしないでください。後始末も大切なおしごとですから」


 リュミエルも住民たちと一緒になって解体していた。

 リュミエルのことだ。解体した素材などの売却益は住民に分配するのだろう。


 俺としてもジェシカたちがお腹いっぱいご飯を食べられるならそれで良い。


「……それにしても」


 俺はみんなから忘れ去られ、放置されている領主を見た。

 隠れるのが上手すぎたせいで、住民は誰も気付いていないのだ。


「へけぇえぇぇぇぇむぇええ」


 小さなささやくような声で、意味の無い言葉をうめいていた。


「おい。領主」

「……ぇぇぇぇけぇ……めぇぇえええ」

『完全に正気を失っているね。竜の咆吼でここまでの状態になることって珍しいかも』

『……怪しすぎるな』

『そうなの?』


 ヨルムはきょとんとしている。

 古代竜のヨルムは自分の咆哮を食らったら人は普通こうなると思っているのだ。


 だが、ドラゴンゾンビは強力な竜ではあったが、古代竜ではない。

 その咆哮に、ここまでの力は通常はない。


『ドラゴンゾンビは古代竜ではなかった上に領主は魔法が得意だった。魔力が高い、つまり精神魔法への耐性も高いのが普通だ』

『そっか。そう言われたら変かも』


 俺は領主を調べる。


『……巧妙に隠されているが呪いがかけられているな』


 呪いをかけられているせいで、精神魔法への抵抗値が極限まで下がっている。

 そこに咆哮を食らったので、精神が完全に壊れてしまった。

 これは俺の治癒魔法を使っても治すことは難しい。


『領主の呪いなんて、なんのために?』

『そこまではわからないが……』


 だが、普通に考えたら口封じだろうか。


『それに、この呪いは、魔族に伝わる魔法体系によるものだな……』

『そんなことがわかるの?』

『俺は魔法王と呼ばれた男だからな』

『さすが陛下だよ!』

『とはいえ、このままにするわけにはいかないか』


 俺は領主を担いで、運んでいく。

 そしてバリケードあたりから、こちらを窺っていた領主の側近に投げ渡す。


「領主閣下だ。看病してやれ」

「……貴様、劣等種族が」

「その劣等種族の俺より弱いお前らは何なんだろうな?」

「っ!」


 側近はこちらをにらみつけるばかりだ。

 先ほど強さを見せたので、手出しできないのだ。


 そこにリュミエルが駆けてきた。


「お師さま、お待たせいたしました」

「もういいのか?」

「はい。素材関係はギルドが引き取って住民に分配してくれることになりました」

「便利なギルドがあるんだな」

「はい」


 そして、俺はリュミエルと一緒に歩いて帰る。


「お師さま。私は感動しました」

「なにに感動したんだ?」

「私は、民のためにとかいいながら、民が危険にさらされているというのに、話が通じないと気付きながらも、領主の許可を求めていました」

「まあ、それが普通だよな。立場のある奴はそうするもんだ」

「ですが、お師さまは問答無用で領主ごとなぎ倒して民を助けました」

「俺には立場がないからな」

「立場など関係ありません。お師さまがもし騎士団長だったとしてもそうしたでしょう」


 それはそうかも知れない。俺ならばそうしただろう。


「……立場、法律、そんなものより、あのときは民の生命が大切でした」

「そうだな」

「お師さま。私は本当に大切なものを見失っていたのかも知れません」

「リュミエルが、何かに気付けたのなら良かった」


 とはいえ、リュミエルは本質に気付いていない。

 俺はとにかく強いのだ。だから自由に出来る。

 そして、リュミエルはまだ弱い。我を通せないことは仕方の無いことなのだ。


「はい。ありがとうございます。お師さまのおかげです」

「……俺のおかげではないさ。リュミエルが自分で気付いたんだ」

「ありがとうございます」


 そして、リュミエルは深々と頭を下げた。

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