第28話 史上最強の魔王。再び魔物を退治する
オークロードの振り回す棍棒は速い。
だがリュミエルをとらえるには至らない。
「はああああ!」
棍棒をかわし、俺の与えた剣でオークロードを足を斬る。
オークロードが倒れると、すかさず首を切り落した。
バリケードの向こう側から住民たちの歓声があがる。
そして、リュミエルは俺の方を見て嬉しそうに笑った。
「やりました! お師さま」
「強くなったな。たいしたことは教えてないのに」
「いえ。お師さまの教えのおかげです」
俺が初めて出会ったときから、リュミエルはオークロード互角に戦っていた。
俺は、数日、魔力の使い方を軽く教えただけだ。
たった、それだけなのにリュミエルは異様に強くなっている。
『これが勇者。恐ろしいね、陛下』
『頼もしい限りだ』
俺の意見には賛成できないのか、ヨルムは不満げにぶしゅーっと鼻息を吐いた。
「姫様! ありがとうございます!」
ジェシカたち、人族の住民が大喜びで、駆け寄ってくる。
そんな人住民たちに向かって俺は叫ぶ。
「待て! まだ終わってない」
「え? ハイラムさん、もうその魔物は死んでるんじゃないの?」
ジェシカは不安そうな表情を浮かべて足を止めた。
「こいつは死んでるが、まだ魔物の気配を感じる。リュミエルはどうだ?」
「は、はい! お師さま。変な気配を感じます!」
流石にリュミエルは勇者だけあって、気配に敏感だ。
「というわけだ。魔物を退治するまでもう少しかかる。待っていてくれ」
「ハイラムさん、姫様、気をつけてね!」
「安心しろ。俺はこの程度の敵にはやられたりはしない」
そうジェシカに言うのと、ほぼ同時に、オークロードの身体に魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣から、大きな家ぐらいのドラゴンが現われる。
成長したドラゴン、いわゆる
知能も高く、魔力も高い。街を一つ滅ぼすことぐらい造作もない。
「ひ、ひいいいい」
エルフの騎士や、領主の部下たちが一斉に逃げ出した。
人族の住民たちは家が、この辺りにあるので逃げられない。
逃げたところで行くところがないという思いもあるのかも知れなかった。
『成竜のドラゴンゾンビ!』
ヨルムが驚いた様子で声を上げた。
ドラゴンゾンビは、アンデッドにされたドラゴンだ。
死んでいるのに、魂を死体に無理矢理縛り付けられているかわいそうな生き物である。
「死霊術師は、昨日姫様が倒したんだがなぁ」
『昨日の奴とはレベルが違うよ! だって腐ってもドラゴンだよ!』
確かに昨日のゴーストやスケルトンとは、格が違う。
『念のために聞くが、ヨルムの知り合いじゃないよな?』
『違うよ!』
それならば、退治するのに遠慮はいらない。
「ド、ドラゴン」
リュミエルも驚いている。
リュミエルはヨルムを可愛がっている。ドラゴンがきっと好きなのだろう。
だから念のために俺は言う。
「ドラゴンでもドラゴンゾンビだ。会話は無理だ。滅さないとかわいそうな奴だ。わかるな?」
「わ、わかります」
「防御は任せろ。攻撃は任せる」
「はい!」
返事と同時に、リュミエルはドラゴンゾンビに斬り込んだ。
「GUOOOOOAAAAAA!」
ドラゴンゾンビは咆哮する。竜種の得意技である竜の咆吼だ。
音には魔力が含まれており、まともに受ければ普通の者は恐慌状態に陥る。
バリケードの向こうにも被害が出ているだろう。
とはいえ、ヨルムの竜の咆哮とは比べものにならないぐらい弱い咆哮だ。
距離があるので、住民たちの被害は少ないだろう。
だが、ドラゴンゾンビのすぐ近くから
「はえぇえあぇええぁぇえあああ」
変な声が聞こえた。領主の声だ。
領主は竜の咆吼を間近で聞いたことで恐慌状態に陥っている。
「隠れて悪巧みしているからだ」
領主は、俺がオークロードに投げつけて、棍棒でたたき落とされた。
それから、息を潜めて治癒魔法を使いながら、俺たちに攻撃する隙を窺っていたのだ。
俺は当然気付いていたが、大した害はないと無視していた。
「はあああああああ!」
一方、リュミエルは咆哮に全く動じていない。
まっすぐに突っ込み、ドラゴンゾンビに剣を振るう。
爪を弾き、牙をかわし、鱗を切り裂く。
「GOAAAAAA!」
再度咆哮すると同時に炎のドラゴンブレスをぶちまけた。
ヨルムの行動と似ている。竜の基本戦術なのかも知れない。
リュミエルはドラゴンブレスを剣で斬り裂く。
家に燃え移りかねなかったので、俺が魔法で防いだ。
『……これだから勇者は、嫌なんだよなぁ』
竜種であるヨルムが嘆くのもわかるというものである。
全く咆哮に動じない。ブレスもたやすく剣で切り裂く。
そして、頑強な鱗も勇者の前には紙のようだ。
『竜の天敵と言われるだけのことはあるな。俺がすることがほとんど無い』
「たぁぁぁぁぁあああああ!」
リュミエルは苦戦することもなく、あっというまにドラゴンゾンビの首を刎ねる。
首が落ちた直後、
『感謝する』
とドラゴンゾンビからの念話が聞こえた。
「安らかに眠るがよい」
「……」
そしてドラゴンゾンビの魂は天へと返った。
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