第27話 史上最強の魔王。領主をたたきのめす

「おい! そこの劣等種族! 何近づいてんだ! 止まれ!」


 バリケードに近づく俺に気付いた領主の部下が叫ぶ。

 俺はそれを無視してバリケードに向かって行く。


「いい加減にしろ!」


 領主の部下は剣を抜いて俺に斬り掛かってきた。

 俺が人族だから、殺すことにためらいがないのだろう。


 俺は、部下の剣を持つ右手首を掴む。


「邪魔をするな」

 そして、握力で骨を握りつぶした。橈骨と尺骨が粉々に砕ける。


「いぎいいい!」


 まさか骨を折られると思っていなかったらしく、部下は悲鳴を上げて膝をつく。

 痛みで気を失いかけたのか、小便を垂れ流した。


「汚い奴だ」


 俺が吐き捨てるように言うと、領主が叫んだ。


「あの劣等種族のガキを殺せ!」

「お、お待ちください! 閣下」


 リュミエルは領主を止めようとする。

 だが、リュミエルの言葉に耳を傾ける者はいない。


 俺目がけて魔法や矢が放たれる。

 その全てを左手で一度振るうことで、払いのけた。


「な、なんだと」

「おい。領主とやら」

「劣等種族風情が、領主様になんて口の利き方を!」


 部下が叫ぶが気にしない。


「民を守る気が無いのなら、領主などやめてしまえ」

「はあ? 劣等種族にここまで愚弄されるとは思わなかったぞ」


 領主は顔を真っ赤にして激怒していた。


「愚弄されるにふさわしい行動をしているのはお前だ」

「……万死に値する。劣等種族の分際で、我ら青き血のエルフを愚弄するなど……」

「だったらどうする?」

「こうするんだよ!」


 領主の魔力が膨れ上がった。領主はどうやら、魔導師としても優秀らしい。

 領主の右手の上で、火球がどんどん膨れ上がっていった。頬が熱い。


「ほう? 中々やるみたいだな」

「今更後悔しても遅いぞ」

「せっかくの魔法が使えるなら、自分で戦え、騎士たちと力を合わせればオークロードぐらい倒せるだろう」

「馬鹿か? なぜ高貴な我が人族のために戦わねばならぬ」

「そうかい。見下げ果てたクズだな」

「また愚弄しやがって、しねやああ!」


 俺目がけて巨大な火球が撃ち込まれた。

 その火球は避けるわけにも、はたき落とすわけにも行かない。

 近くにはジェシカがいるのだ。


「仕方ないな」


 俺は火球を右手で受け止める。

 そして、魔法で風を作って圧縮し、握りつぶした。

 ――ブシュウウ……


 俺の握りしめた右手から煙が出る。


「多少熱かったぞ」

「ば、化け物」

「劣等種族から化け物に昇格か。いや降格なのか?」

「この化け物を殺せ!」


 領主が再び号令をかけ、俺に矢と魔法が降り注ぐ。


「なんどやっても同じだ」

 俺は左手を振るって、その全てを一撃で消し飛ばす。


 その直後、領主の放った巨大な火球が飛んできた。

 領主なりに連携攻撃を考えたらしい。


「悪くはないが……単調だ。まさか火球しか使えないのか?」


 俺は同様にして火球を握りつぶした。

 だが、領主の本命はその次だったようだ。

 火球に隠れて俺に接近してくると、魔力の刃を振るった。

 完全に、俺の隙を突こうとしている。いい作戦だ。


「それも悪くない。だが、とにかく遅い」

 俺は魔力の刃をかわして、右手首を掴む。そして強く握って骨を砕いた。


「いいいいいいぃいぃぃぃ」

 領主は痛みに絶叫する。


「お前も戦えるんだろう。ならば高貴なる者の勤めとして、先陣を切れ」


 俺は領主の右手首を掴んだまま、放り投げた。

 バリケードの向こう側。オークロードに向かって領主を投げつける。


「ひいいいいいぃぃぃぃぃ……ぶべぅ」


 領主は飛んでいき、オークロードの棍棒ではたき落とされる。

 地面に無様に転がった。


 全身の骨が折れているのだろう。動けていない。

 だが、領主にとって、幸か不幸か気絶はしていなかった。


 俺は領主の部下たちに向かって言う。


「お前ら、領主を助けに駆けつけないでいいのか?」

「だ、黙れ!」


 いくら主君を助けるためでも、オークロードに向かって行くのは恐いらしい。


「そうか、じゃあ、俺が助けに行ってやろう。感謝しろ」


 俺はバリケードを破壊した。


「あ、ありがとう、ハイラムさん!」

「気にするな」


 バリケードの向こう側に閉じ込められていた人族たちがこちらに来る。

 怪我した者も担がれて、こちらに無事にやってくる。


「他に怪我人はいるか?」

「大丈夫です、ありがとうござます!」

「ならば良かった。後は任せろ」


 俺がバリケードの向こう側に行くと、リュミエルが叫ぶ。


「私もいきます!」


 そして走って俺の横に追いついた。


「リュミエル。この剣をあげよう」


 俺は最初に出会ったとき、貸した剣を再び渡す。

 その剣は、ヨルムンガンドが俺に残してくれた財宝の一つだ。


「ありがとうございます。でもいいのですか?」

「リュミエルの剣はいつも粗末すぎる」

「騎士団長として、しっかりしたものを与えられているはずなのですが……」

「それは騙されているんだろうな」

「……そうでしたか」


 リュミエルは少し寂しそうに言った。


 それから俺とリュミエルは、そのままオークロードとの間合いを詰めていった。


 あと五歩の距離まで、近づいたとき、

「OOOOOOOOOO!!」

 オークロードは咆哮した。


 そして今までただ直立していたのが嘘であるかのように暴れ出す。

 巨大な棍棒を振り回し、リュミエル目がけて襲いかかってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る