ものを りそこねたと ふちぬし


<解説>


 わたしの家の近くに、深いふちがあります。


 昔話ではたいてい、淵のぬしは大きながにであることが多いです。


 これはかなり危ない話ですが、わたしは精神状態が極限まで深刻になったとき、その淵にかかる橋の上に立って、眼下の川を見下ろし、ある種の緊張感でもって、不安をやわらげるのです。


 こういう行為はとても危険ですので、絶対に真似などしないでいただきたいですが、極限状態を回避するたび、淵の主である大蟹おおがにが、「また取りそこねたか」と舌打ちでもしているような気がして、落ち着いたあとには「絶対に食われてなるものか」と、必死で言い聞かせるのです。

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