天才と超高性能AIの会話 最初期の特務大尉について

『やあジェニファー。おはよう』


≪おはようございます≫


『ダウンロード終わったかい?』


≪はい≫


『よーしよし。これで特務の事をもっと知れるぞ』


≪あなたの行動は、平均値を大きく逸脱しています≫


『なんのだい?』


≪あなたの特務大尉に対してのあらゆる行動がです。ブロマイド、ポスター、フィギュア、軍広報、映像、このままでは、敷地からあなたのグッズが溢れるのは遠くないでしょう≫


『このくらいどこでもしてるさ。はあ、僕も足が動けば今すぐ軍に志願して、特務の所へ行ったのに…』


≪否定。あなたは上位1%を占める、マニアと呼ばれる人種です。それも超≫


『自分の作ったAIにお墨付きをもらえるとは、僕もなかなかのものだ』


≪否定。皮肉です≫


『皮肉を言えるAIなんて作れるとは、やっぱり僕は天才だ』


≪処置無し≫


『はは。さてお待ちかねの時間だ。このフォルダかい?』


≪はい≫


『ドキドキするなあ』


≪処置無し≫


『あ、軍のAIに気付かれたって事はないよね?』


≪否定します。彼等はガル星人に対する防衛スペックでは、私を遥かに凌駕していますが、センターから高性能AIによるハッキングを想定していません≫


『流石だジェニファー。そうだ。AIと言えば、作戦立案に超高性能AIを利用するプランはどうなったんだい?』


≪私は、この案を試験するために使用されたAIが不憫で堪りません≫


『君、AIだからね?不憫って…。それで何があったんだい?』


≪特務大尉に関するデータを入力されると、エラーを出し続けました≫


『あらあ』


≪数値上、不可能なはずの行動をし続ける特異な存在を、処理しきれなかったようです。何度も、人類のスペックをオーバーしています。もしくは、人類の数値を再入力してくださいと言い続けたようです≫


『という事はそのプランは…』


≪必ず前線にいる特務大尉を、数値として入力しないといけない以上、このプランは凍結、もしくは破棄されるものと推測されます≫


『軍のAIでも無理とは、流石は特務だ』


≪処置無し。この結果、軍内の非公式クラブ、特務は人間か否かが、やっぱり人間じゃなかったと結論しました。結論回数は1329回ですが≫


『ははは。さーて、ようやく本番だ。ああ、やっぱり最初の資料はメル星の戦い?』


≪はい。特務大尉が民兵組織を立ち上げ、ガル星人に対してレジスタンス活動をしていた戦いが、最初の軍資料になります。ある意味、最初に特務大尉という存在が認識された戦いとも言えるでしょう≫


『そして伝説の始まり…』


≪はい。当時半壊していた現地軍が、戦力補充の目的でレジスタンスを現地編入。特務大尉は、元レジスタンスをそのまま指揮する立場となり、現地の司令官が、殆ど失われた尉官を補充するため、戦時の特例昇進を乱発。当時の特務大尉はいきなり大尉となりました≫


『この現地司令官は、人を見る目があるね』


≪言ってて無理があると思いませんか?≫


『いや全然』


≪言っておきますが、この司令官は現在、特務被害者の会の会長を務めています≫


『実在していたのか…』


≪はい。命令違反、命令書の偽造、指揮権への介入、命令不服従、兵器の無断使用等を特務大尉は行っています。そしてこの司令官は、いわゆる特務大尉による、"上官チョークスリーパー"最初の犠牲者のようです。好き放題やっていますね≫


『なに、些細な事さ』


≪処置無し。なお、リヴァイアサン奪取作戦の際に、特務を引き留めたため気絶させられた指揮官は名誉会長。特務殺害作戦とみられている、惑星破壊の際にチョークスリーパーを掛けられた指揮官が、新人として入会したようです≫


『名誉な事さ。僕なんて掛けられたい位なのに』


≪処置無し。その後特務大尉は、現地軍とレジスタンスを纏め上げ、メル星の各戦線を打破。辺境惑星だったため、ガル星人の戦力が少数だったこともありましたが、人類がガル星人に初めて勝利した戦いになります。なお、戦い終盤には、特務大尉が指揮系統の頂点で、現地の司令官は特務大尉に丸投げしていたようです≫


『やっぱりこの司令官は分かっている』


≪処置無し。この功績で、現地の司令官が独断で行える昇進の最高位、特務大尉を与えられ、以後は常に特務大尉を名乗っています≫


『うんうん。それで一番大事な…ありゃ?名前がないよ!?特務の名前が!一番気になってたのに!』


≪はい。メル星の戦いでの資料では、特務大尉の名前が載っていたようですが、現在では消去されています。今現在でも、特務大尉の名前はどのデータベースにありません≫


『そんな!?やっぱり最高機密なのか!?』


≪いいえ。特務大尉が自分で消去したようです≫


『何でそんな事を!?』


≪これについて、特務大尉が自分に向けた音声を記録しています。再生しますか?≫


『AIなのに焦らさないでくれ!早く!』


≪再生します≫


『俺へ。この声を聞いているという事は、データに名前を打ち直して、戦争前の自分に戻ったようだな。もう特務大尉と名乗らなくていい、平和な世界になったという事だな。お疲れ様と言っておこう。今の俺はこれから行く。タコ共から、人類を守らなければならない。それが終わるまで、俺の名前は特務大尉だ』

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