第100話 エリザダンジョン4

10階のボスは屈強そうなモンスター……ではなく、どう見ても普通の子犬だった。見た目だけは。


「わぁ、可愛い! お手!」


アクアは子犬に手を出す。子犬はその手を……食いちぎって ペッ と吐き出した。


「きゃああぁぁ!」


予想していなかった行動にミレは叫ぶ。アクアも突然の行動に呆然としているが、本人の意思とは関係なく手は再生する。


「こいつ、敵か!」


エンカも構えるが、今更何を言っているのだ? 最初からここのボスって言っておっただろうに。感じる魔力はそこそこあったし。


「俺様になめたまねをしたのは貴様でちょうど1000人目だ。999人までは我慢していたが、もう我慢ならねぇ!」

「声も、かわいい……」


中に子供が入っているのか? というような可愛い声で愚痴る。1000人目がアクアで良かったな、普通の人間だったら重傷だっただろう。まあ、魔法で治るが。


「しゃべれるのなら、ここを通しなさい。そしたら、命だけは助けてやるわ」


アクアが偉そうに子犬に言う。しかし、子犬は返答の代わりにアクアの喉笛を噛み切りに行った。


「ちょっと! 危ないじゃない!」


さすがにアクアと言えどもそう簡単に食らわないか。不死身だから基本的に無防備なくせに、反射神経はまずまずだからな。


「うるせぇ! 俺様はこう見えてもボスだぞ? 戦闘経験もたっぷりある!」

「……同じ個体を使っているのか?」

「当然じゃない。わざわざ新規に作ると、いちいちダンジョンの説明をするのがめんどうなのよ」


エリザに尋ねると、そんな返事が来た。なるほど、エリザとしては人が来ないと暇だから、わざわざエサで冒険者を釣っていたのだな。ただ、その我慢も999人が限度だったみたいだが。


「勘違いするな? 俺様にお手やチンチンと言った奴が999人居ただけだ。それ以外は普通に戦っている!」


まともな冒険者は見た目で判断しなかったようだな。いや、999人は違ったか。


「だが、もう我慢なんかしない! 第一段階、解放!」

「ちょっと! 何勝手に解放してるのよ!」


エリザが慌てて制止するが、それで止まる子犬じゃ無いようだ。みるみるうちに首の筋肉がもりあがり、2つ目の頭になった。


「これが俺様の第一段階だ!」


……見た目は変わったが魔力量は変わっておらぬな。口が2つになったぶんだけ噛みつきが2倍になるのか? しかし、首の長さ的に同時に2カ所噛みつけるとも思えぬが……。そう思っていた我が甘かったのか、子犬は右の口から炎を、左の口から水の塊を吐き出した。


「おっと、魔法が使えるのか?」

「首が一つの時は無理よ。だから、いままで解放させてなかったのに……そんなにお手やチンチンをさせられたがの嫌だったのかしら?」


エリザは首をかしげているが、それは本人にしか分からぬだろう。水の塊を受けて吹き飛ぶアクアを見つつ、様子を見ることにした。


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