第82話 エリザ再び

タマモの尻尾を確認したが、すでに妖気の欠片もなく、徐々にボロボロになって消えていった。


「くそっ、何が他の魔王を倒せだ、何が最弱の魔王だ!」


エンカは腹立ち紛れにすでに消えたタマモの尻尾があった場所をゲシゲシと足で蹴る。当然、何の効果も無い。


「困ったわね。このまま魔王の所へ行っても助けるどころか魔王を殺されるだけかしら? 仮に他の魔王の所へ行くにしても、倒してしまったら本末転倒だろうし……」


我達の目的は、一応地階と魔界を繋いでしまう魔方陣の封印だ。我の予想では、仮に繋がったとしても自然が増えるだけで、ミレが予想するような事にはならないと思う。しかし、ミカエルが塔を建ててまで防いでいるところを見ると、やはり繋げないほうが良いのだろうか?


「お困りの様ね」


どこからともなく声が聞こえる。この声は、エリザか? しかし、声はすれど姿は見当たらない。皆きょろきょろと姿を探している。


「ここよ」


ひときわ大きく出された声の方をよく見ると、そこには小さな、本当に小さなエリザが居た。


「なぜ、そんな小さく?」


誰ともなしに当然みんなが思っている質問が出る。


「本体はまだダンジョンだもの。段々飽きてきたから、何か出来ないかなーと思ってやってみたら、小さな分身を作ることに成功したのよ」


見ようによっては妖精にも見える。エリザはピョンピョンとアクアの体を登ると、肩の部分に座る。


「ここがいいわ、よく見えるもの」


アクアは迷惑そうにしているが、我達は迷惑ではないのでそこが定位置でも困らない。


「それで、何か案でもあんのか?」


ノロイがエリザに問う。このタイミングで出てきたという事は、何かあるのだろう。


「要は、魔方陣への魔力供給が必要なんでしょ? 捕まえましょう、強い魔物を!」


エリザはキラキラとした目で楽しそうに話す。早い話が、タマモを封印していたのと同じことを、もっと大規模で行っているのが魔王たちの魔方陣だ。それを、魔物で代用しようというのか。


「あてはあるのか?」


「四神って知ってる?」


「知ってるも何も、おとぎ話でしょ? 東西南北を司る神獣だっけ?」


「そうよ。青龍、白虎、朱雀、玄武。まあ、他にも黄龍とか黒龍とか使えそうなのはいろいろ居るけど。そもそも、龍の方が下手をしなくても魔王より強いんだけどね」


それを言っては魔王が可哀そうだろう。あくまで、人間の中で魔力が高い者たちなのだから。人間に龍が倒せるくらいなら、そもそも魔王なんて役職をわざわざ作ったりはしないだろう。


「冗談じゃないわ、龍なんかと相対したら完璧に、絶対に、否応なく殺されるわよ!」


ライカがいやいやと首を振る。ミレも、あのエンカですらうんうんとライカに同意している。


「だから、四神でいいじゃない。言ってはなんだけど、幻獣じゃなくて、ちょっと強いだけの魔物よ? 青龍も、ドラゴンじゃなくて蛇の一種みたいだし」


「そう、なの?」


「知らないわ!」


ミレの問いにアクアが答える。知らないんだったら返事をしないで欲しい。


「まあ、私が守るからたとえ龍にあったとしても大丈夫よ、きっと」


「そこは断言しないのかよ……」


「あたしは、このちっこいのに賛成だ! 親父を助けるにはそれしかねえ!」


「ちっこいのじゃなくて、エリザです。これでも神様なのよ?」


「うんうん、エリザ、よろしく頼む!」


エンカはエリザが神だと信じてはいないようだが、提案には賛成らしい。我も面白い魔物とは戦ってみたいから反対はせぬ。他の皆も、仕方ないわねという感じで、四神を捕まえに行く事になった

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