第78話 塔の作成者

我も一人で階段を下りると、思った通り魔界だった。ノロイ達とこの世界を巡るよりも魔界で過ごした時間の方がものすごく長い。


人外同士の激しい戦いにより、地面は砕かれ、雲は吹き飛び、海は汚染されていた。しかし、風景は見覚えがあるものの、この魔界は緑あふれる自然でいっぱいだ。


「ここは、我が知っている魔界そのものではないな?」


「その通りだ。久しぶりだな? ディエゴ」


我を名前で呼ぶものはそうはいない。我と戦って生き残っている者が少ないからだ。振り向くと、天使の中でも戦闘力が高いと言われているミカエルだった。ミカエルとは昔、よく決闘をしたものだ。まあ、仕掛けたのは全部我の方からだが。基本的には争いを好まずに自然を愛する男だったので、この風景も納得だ。


「そうか、お前の作った塔だったのか」


我はやっと納得した。基本的に傷をつけない罠に大量の魔力を消費するはずの結界をどう維持しているのかと思っていたが、こやつが居るなら話は別だ。


「お前がなかなか一人にならないから、だんだんと強引になってしまったが、やっと会えたな。姿は何とも可愛らしくなっているが、その魔力の波長でお前だと分かる」


「我は今、この人形の中に封印されているからな。ところで、なぜ我を一人にしたかったのだ?」


「5体いる魔王のうちの一人が倒された。このままでは地界と魔界が繋がってしまうぞ?」


「なんだと? どういう事だ?」


「お前が自らを封印した後、平和な魔界を作っていた我らだったが、地上では逆に魔法を使っていろいろな実験を行ってきたようだ。魔界からどんどん魔物や天使、魔人等を召喚し、魔力を奪っていった。その魔力を使って巨大な魔方陣を起動させたのだ」


「魔方陣だと? それが5体の魔王と関係があるのか?」


「ああ。魔方陣は地界と魔界を繋ぐもので、起動に時間がかかったようだ。そこで、魔力の高い人間が魔王として結界を張り、起動させないようにしたのだ。それが今、何者かに破られようとしている」


「ふむ。我達が魔王を倒す前でよかったな」


「お前、そんなことしようとしていたのかよ……」


ミカエルはため息をつくと、切り株に腰を下ろした。我も木を一本切り倒して椅子にすると腰掛ける。ミカエルはそれを見て嫌な顔をしたが無視だ。


「で、この塔はなんだ?」


「この塔は、人間から魔力を集め、魔王の代わりに結界を張るための装置だ。この塔の中で使った魔力は塔に吸収される」


「なるほど。2を得るために1を使うような地道な作業だな……」


「苦肉の策だ。今は基本的には魔界と地界を行き来できないからな」


「お前はどうやってこっちに来たのだ?」


「たまたまサタンのやつが召喚されたらしくてな? そいつが召喚されたパイプをちょこっと拝借させてもらった」


「結果オーライというやつか。で、魔王を倒したやつは誰だ?」


「タマモとかいう妖狐だ。強さ自体は大したこと無いんだが、逃げ足が速くてな……」


「ああ、クラマ城に封印されていたやつか。今の我では倒せるかどうかわからぬぞ?」


「なら、お前の今の封印を解いてやろう」


ミカエルは我の頭の上に手を置き、封印に関する場所の魔力を探る。


「あっ、悪い。これはダメだわ。魂が人形に組み込まれてしまっていて無理に解くとお前、死ぬわ」


「なんだと! くっ、やはりノロイ本人に解いてもらうしかないのか」


「下手したら本人にも解けないかもしれないがな? お前のエネルギーがでかすぎて器が歪んだ結果っぽいぞ」


「……我はもう元には戻れぬのか」


我は絶望し、三角座りをして地面に「の」の字を書く。ミカエルはそれをみてため息をつく。


「ゆっくりと解いて行けばそのうち解けるかもしれないが、一気に解くと……ボンッだな」


「はぁ、ゆっくりと解けばいいのか、わかったぞ」


我はノロイに我の封印解除の提案をすることにした。間に合うかどうかは分からぬが。


「それで、塔から出してもらえるのか?」


「まあ、もう少し魔力が欲しいからゆっくりしていけ」


ミカエルはそう言うと、徐々に薄くなって消えた。

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