第64話 ベルを貰う

「さて、どうしたものか」


我はスイカが居た湖面を見ながらそう呟く。逃がしたのはやはりマズかったかもしれぬ。


「やっぱり止めをさしてくる?」


アクアは負けた腹いせをしようとしているのだろうか。


「そういえば、そもそも魚は戻っていないしねぇ」


ミレも困ったように手を頬に当てている。


「じゃあ、交渉してくる!」


アクアはそう言うと、湖に飛び込む。……アクアには学習すると言うことが無いのだろうか?


「ちょっと、人間のままよ!」


ライカが注意するがもう遅い。どうせ途中で息が続かなくて戻ってくるだろう。


「はぁ、我が行ってくる」


我はエア・ボールで顔を覆うとスイカの城へ向かった。途中で息が続かなくて窒息したらしいアクアとすれ違い、我は城へ入っていく。不死身は窒息死するのだろうか?


「何をしに来たのじゃ!」


「そう殺気立つ必要はないぞ。話をしに来ただけだ」


しばらく疑わし気に見ていたが、我が何もしないで待っていると、少しは信用したのか奥へ通してくれた。


「粗茶ですがどうぞ」


魚の顔をした侍女がコップを置いて行くが、水の中でどうやって飲めばいいというのだろうか。


「それで、話というのはなんじゃ?」


「魚を街へ融通して欲しい」


「なんじゃ、そんな事か」


スイカは侍女に目配せすると、侍女は奥へ引っ込み、ベルを持ってくる。


「それをおぬしにやろう。ならせば、魚が寄ってくる。好きなだけ捕まえるがよかろう」


「いいのか? 一応部下なんじゃないのか?」


「獲りすぎなければよい。増えすぎても困るでな」


我はベルを受け取ると、立ち去ろうとした。


「待つのじゃ、本当にそれだけなのか?」


我はこくりと頷く。


「そうか……」


スイカは安心したような顔をする。戦闘になった場合、この城すべてをエア・ボールで包むだけだ。我は何もせず城を出て皆の所へ戻る。


「ベルを鳴らせば魚が来るそうだ」


我はそれをミレに渡す。ミレは試しに振ってみるが、音が鳴らなかった。


「騙されたんじゃないの?」


ミレがそういうと、ライカが興味を持ったのか、ベルを手に取る。


「これは、マジックアイテムね。おそらく、水中で使うのよ」


ライカはそう言うと、ベルを湖に入れてから振る。すると、山ほどの魚が寄ってきた。


「魚が食べ放題ね!」


復活したらしいアクアが、さっそく湖に手を入れてシュパッとクマのように魚を獲る。そろそろいいだろうと、ライカがもう一度ベルを振ると、今度は魚は離れていった。


証拠として捕まえた魚をもって街へ戻り、ベルを村人へ渡す。


「私がもらっても困ります! こういうのは、領主様にお願いします!」


「めんどくさい」


ノロイはそう言うと、ベルを無理やり村人に渡して逃げた。

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