第25話 インテリジェンス・アーティファクト

「あ、ありがとう……」


ライカは自分の行動を恥じたのか、少しうつむき気味でお礼を述べる。座り込んで汚れた服をパンッパンッと手で払い、立ち上がる。


「それで、研究所まであとどれくらいだ?」


「もう数キロ先よ。それに、すでに冒険者が通っているのか歩き固められた道が出来ているわ……」


ライカはまた気がはやるのか、うずうずしているが、さっきの二の舞になりたくないのだろう、我達の歩く速度に合わせている。まあ、少し急いでやるか。


我達はタフネス・ヒールで回復しつつ進んだため、普通に行くよりはかなり早く着いたはずだ。目の前には洞窟が見える。


「ここが研究所よ!」


ライカが胸を張ってジャーンと見せてくれるが、どうみてもただの洞窟だ。


「思ったより遠かったな」


ノロイの言う通り、ミレが見せてくれた地図ではすぐ近くに見えたが、実際に来てみると数十キロはあったんじゃないだろうか?


「私の手書きの地図は、領地全体の地図よ! えっへん!」


「それを先に言ってくれれば……」


我は地理に疎いからな。今の時代の領地なんて誰が治めているかすら知らんのだ。


「ちょっと、無視しないでよ!」


いまだにジャーンとポーズをとっていたライカが文句を言った。


「はいはい、えらいえらい」


ミレはとりあえずライカを撫でた。ライカは「違うんだから!」と言いながらも撫でられている。


「とりあえず入ってみるか」


我は念のためソナーを使うと、すぐ近くに何かの反応があった。


「誰かおるようだぞ?」


入ってすぐ右に曲がったとろろに人型の反応がある。ライカが、侵入者ね! と言ってかけて行った。


「きゃぁー!」


「どうしたの! きゃー!」


ライカの悲鳴が聞こえた後、すぐにミレが追いかけたが、ミレも悲鳴をあげた。


「どうしたというのだ?」


反応が特段動いていないので、おそらく緊急性が無いものと判断した我は、普通に歩いて見に行った。


「なんだ、ただの串刺し死体ではないか」


「ただのじゃないわよ! 死体よ!」


「あ? お前が仕掛けた罠だろ?」


ノロイがもっともなことを言う。仕掛けた本人が驚いていたら世話が無い。ソナーでは細かい所まで分からぬから、死体かどうかなぞ分からんしな。


「私じゃないわよ!」


「じゃあ、誰だ?」


「私です。この魂の波長は……ご主人様?」


おや? 他に人型の反応は無かったはずだが……ああ、隠し扉から現れたのか。板一枚でも挟むと、反応しなくなるのがソナーの弱点だな。


「あなたは……誰?」


ライカにも見覚えが無いみたいだ。メイド服を着ているから、てっきりライカの従者かと思ったが違ったようだ。それに、ご主人様と言っているのに本人は知らんのか?


「ご主人様が亡くなられてから意思を持ったインテリジェンス・アーティファクトでございます。俗にいうホムンクルスみたいなものです」


そう言うと、メイドはメイド服を脱ぎだす。


「ちょっと、なんでいきなり脱ぐのよ!」


ライカは叫ぶが、裸になったメイドは、へその少し上に赤い宝石のようなものが埋め込まれている。


「あ、それは私の作った無機物操作君!」


「おい、センス無いぞその名前」


「じゃあ、あなたはムッキーね!」


「命名していただき、ありがとうございます」


「その名前は拒否してもいいと思うぞ!」

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