第10話 印象操作

スケルトンであるソロモンは思う。


千年の間、スケルトンで特に不便はしていなかった。


むしろ好都合で非常に便利。


食事もしない、眠りもしない、疲れもしないし、のんびりと一日中釣りを続けられる。


千年程前に、魔力暴走を引き起こしてしまったので下手へたに島から動くことが出来ず、制御を完全習得するのに四百年程度かかってしまったが、その後は趣味で魔力の鍛錬たんれんを続けていた。


だが、これから人の世界におもむくのであれば、スケルトンの姿は少々まずかろうと・・・。


スケルトンの姿を人に見られさわがれたところでどうにでもなるであろうが、後で処理するほうが断然面倒なのだ。


「やっぱ、人って見た目は大事だよなぁ・・・」


詮無せんなひとり言を言う。


面倒が分かっていだるけに、悩みどころだ。


スケルトンとなる以前のソロモンは、ハイ・エルフという種族であった。


エルフという種族そのものの特徴とくちょうとして、男も女も耳は長くがっており、美形が大多数を占めていた。


更にその上をいく希少きしょうなハイ・エルフであり目立つこと待ったなしである。


ソロモンは、白銀の髪、あおき瞳であった頃の姿に戻るのはやめておいた。


千年間社会と隔絶かくぜつしてきた生活をしていただけに、死亡者扱いになってるはずだし、目立ちすぎてもいろいろと厄介事やっかいごとが増えそうだと感じたからだ。


以前の姿を覚えている者は少ないであろうが、レヴィと出会った七百年前に名前も変えたことだし、心機一転新しい姿となることにした。


「よし、面倒だから次は地味な感じでいこう」


◆ - ◇ - ◆ - ◇ - ◆


クレアは、ソロモンがスケルトンから人の姿に変身するのを見ていた。


ソロモンの変身は、まばたき程度のほんの一瞬で行われたため、その姿をソロモンだと認識するには多少の時間がかかる。


変化した後の容姿は、全身の筋肉は程よく引き締まっており、つややかな黒き髪、眼光鋭がんこうするどい黒き瞳、整った顔立ちで肌の色は透き通るほど白い人族の青年となった。


はっきり言って目立つ、圧倒的存在感・・・人族の誰もが魅了されるであろう悪魔のごとき美しさ。


ソロモンだと認識するまでクレアは、少し放心ほうしんしていたが、急に顔を真っ赤にし、慌てて手で顔をおおう。


初めて男の全身を直視したクレアの手は顔をおおっているが、指の間からしっかりとのぞいていた・・・。


「せっ、先生・・・ふっ、服・・・服を着てください」


クレアはたまねて声を上げる。


ソロモンはクレアの方へ黒く輝く瞳を向ける。


ようやく、ソロモンがクレアがいたことに気付いたのである。


そこにクレアがいることは認識していたが、気にはしていなかった。


ソロモンは素っ裸である。


千年スケルトンやってると服を着ることをすっかり忘れていたソロモンであった。


「俺の姿はどうだい、クレア」


一瞬で服を着たソロモンが、何事も無かったかのように、おだやかな口調でクレアにたずねた。


ソロモンの来ていた服装は、全体的に黒を基調としているため、落ち着いてはいるが洗練され、戦闘を意識した動きやすそうなものであった。


先ほどの衝撃しょうげきで心がざわめくクレアだが、ソロモンに回答を望まれている。


「 派手な感じではなく落ち着いてますね・・・」


クレアは、ソロモン本人そのものではなく、服だけの印象を端的たんてきに伝えた。


そうして、ソロモンはいい感じに地味になったなとおおいに勘違いをして満足するのであった。

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