文章
「ありがとうございました」
空を見上げると、これでもかというほどにすがすがしい青空である。手渡されたヒマワリが、妄想のワンカットに映し出されて夏そのものを彩った。
折り畳み日傘をさして、イヤホンをつけて、私は歩き出す。もうひと踏ん張り。そうすれば、友達との息抜きスイーツタイムがまっている。通り過ぎる通行人と犬と背景は、ほぼ意識には残らないけど、それでも確実に私のそばを通り過ぎている。私は動いている。
「せん、落としましたよ」
「あ、私のです。ありがとうございます、すいません」
あたふたしながらハンカチをハンドバッグに入れた。謝っている間にも、イヤホンは軽快な歌声とバックミュージックを奏でる。もしかしたら、私の顔は無表情かもしれないし、場合によっては怒っているようにも見えるのかも。けど、心はこれ以上にないくらいうきうきしていた。あの子と会うのは三年ぶりだった。
ふと、思えば不思議だった。人間はなんで二足歩行なんだろう。なんでほかの動物は四足歩行が多いのだろう。なんで歩くときは手を振るんだろう。
ワイシャツ姿のリーマンたちが、何やら話をしながら通り過ぎた。言葉。言葉を獲得したからって、人はいつまでもしゃべり続けているわけじゃない。でもしゃべらないで一生を終えなんてできないんだろうな。
歩道をしばらくあるきながら、言葉について考えていた。言葉があるから嘘もつける。嘘がつけるから物語も生まれる。
信号に捕まって、ようやくじわりと吹き出す汗を拭ける。メイクが崩れないようさっと拭く。とりあえず水筒も開ける。歩行者信号が必ずハットをかぶった男の人なのは、日本だけなんだろうか。
音量は大きいのに、あまり耳には残らない飛行音を、旅客機が鳴らしていた。飛行機雲を作って、どこかしらに飛び行く。それにつられて歩き出す私と、信号の色に主導されるみんな。はたから見れば同じだった。
盛大な日陰に入ると、日傘をさしているのが急に恥ずかしくなった。けど、どうせすぐまた日向がある。暑い。
太陽なんてなくなっちゃえばいいのにとか、とても独りよがりな願い事をしてみたけど、そうなると植物は枯れ、動物は死に、私たちも死んでしまう。そういえば、この世界の自然とか、生き物すべては太陽から生まれたんだっけ。そうなると太陽は大事だ。けどやっぱり今日は暑すぎた。よりによって今日、会う約束をした自分を呪いたい。友達と会うのはいいけど、別れたらまた同じ道を、同じ時間かけて帰らなくちゃならない。そこら辺のコンビニで、一回涼を取ろうかなどと考えていると、この不愉快で無用な夏の風物詩へのいら立ちが無性に増幅した。
そしてようやくカフェに到着。メイクをもう一度確認する。髪型は? 服装は? OK。扉が開いた。
狂気の文体練習 凪常サツキ @sa-na-e
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