チャロアイト
知らないよそんなこと。物の好みすら分かんない僕に恋愛感情なんて聞かないでよ。僕は付き合ってたつもりなんてない。そもそも君に告白された事も僕から告白した事もないよね?付き合ってるわけないじゃん。大切にって、大切な人じゃないんだから当たり前でしょ。
だから知らないって言ってるじゃん、同じ事何回も言わせないでよ。別に君の事は嫌いじゃないけど、特別好きとかいうわけでもないし。僕は特定の誰かの事を特別視した事は一度も無い。君も例外じゃないんだよ。分かった?
何をどうやり直すのさ。始まってない事をやり直すって、可笑しな話じゃないか。いい?もう一回言うね?僕と君は元から付き合ってないし、そもそも僕は君や他の人間に対して特別な感情を持った事は一度も無い。ずっと君が勝手に勘違いしてただけだよ。連絡先を交換したのは同じ生徒会で業務連絡があるから。君含め他の人間からの連絡に対応するのも業務連絡があるから。他意なんて無い。
は?謝れって、勘違いさせた僕が悪いって言うの?冗談も休み休み言ってよ。僕は誰に対しても同じ態度を取るし取ってたし、君にそういった感情を仄めかすような発言をした事は無い。それに、君いつぞやか嫉妬するとかなんとか言ったよね?誰に対しても私と変わらないだとか言って。あれも意味分かんないね。なんで君はそんなに自己評価が高いの?君を特別だと僕が思ってるって、なんで思うの?多少顔に絵の具塗ったぐらいで調子に乗っちゃ駄目だよ。僕は君を可愛いと思った事も綺麗だと思った事も無い。そういうことなら、担任の河野センセの方が断然綺麗だよね。化粧っ気は全く無いけど、パーツが整ってて、肌も綺麗でさ。誰に対しても分け隔て無い、気遣いも出来る。あの人はモテるだろうなぁ。
飛躍しすぎなんだよさっきから。モテるだろうなって言っただけで、好きだなんて僕一言も言ってないよね。なんでそうなるの?ほんとわけわかんない。もういい?そろそろ授業始まるよ。僕戻るから。
なんで僕が君の為に待たなきゃいけないの?そもそも友達でも何でもない赤の他人の君の為に僕がなんでわざわざ待たなきゃいけないの?そんな理由ないよね?
黙ったって事は肯定って事だよね。じゃあ僕もう行くから。一応君だって生徒会なんだから授業遅れないようにね。生徒会全体のイメージダウンに繋がるんだからさ。
・
地面を強く蹴って走り去る音も聞き慣れた。もう声すら忘れた放課後、生徒会会長室。僕は来賓用のソファで髪を弄っていた。
また面倒なやつが出てきた。僕にそんなつもりは毛頭ないのに、勝手に僕と付き合ってる事になってる馬鹿な女。最近はやたらと多い。
第一女子校じゃないんだから、わざわざ同性と恋愛沙汰なんて面倒な事しなくたってそこらに獣は溢れてるってのに。何があいつらをそんなにかき立てるんだろう。
というか、副会長の僕より会長の方が圧倒的にハイスペックなんだし、ハニートラップならそっちにかけて欲しいものだ、かけた所で意味は無いけれど。
「___……、会長。またそれですか」
僕が居るから。何十回と読んでまだ読み返す小説の頁を捲る会長に、僕はほんの少し呆れを含めて話しかけた。
「そろそろ新しいの読んだらどうです?僕がおすすめしたやつ、他にもたくさんありますでしょ」
「ん〜?うん。あるけどね」
会長はほんわりと嬉しそうな笑顔を浮かべて、栞の代わりと指を重ねたその本の表紙を優しく撫でる。何となくくすぐったくて身を攀じると、会長はくすりと笑った。
「君が初めて俺に勧めてくれた小説なんだし、大事に読みたいじゃん。飽きないし、ずっと手元に置いてても邪魔じゃないし。他のやつも買って家には置いてあるからいつでも読めるし」
そう言って会長は、髪をさらりと後ろへ流した。会長が僕にだけ晒してくれる素の一人称は、彼の声がより深く耳に刺してきて、何度聴いても心が疼く。
胸元に手を当てほんの少し落ち着かせていれば、会長はまた小さく笑って、本をそっと閉じた。席を立ってこちらに歩いてくる、その目は、……嗚呼、元より逃げるつもりも無いけれど。
「ほんと耳弱いよね、お前」
「会長が開発したんでしょ。人のせいにしないでください」
この変態。褒め言葉だと彼は理解している。くすくすと楽しそうに息を漏らして、会長は僕に覆い被さった。
「どうせ鍵閉めたんだろ。お前も欲しがりだね、人の事言えたタチじゃないけどさ。ほら、おねだりは?」
完全にスイッチが入った。会長は弓なりに歪めた唇をちろりと舐める。まさか生徒会長と副会長が揃って校則を破っているなんて、誰が思うだろうか。バレても問題は無いが。
「……会長の、好きにして。僕をめちゃくちゃにしてください」
逸る気持ちを抑えて呟く。会長は妖しげに笑って僕の口に指を当てた。耳に息が近付いて、
「よく出来ました」
昇る朝日は今日も綺麗だった。
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