Dear, Hater



嫌われ者の貴女が好きだった。誰からも嫌われて、相手にもされない貴女が大好きだった。私だけが貴女の味方で、貴女は私が居ないと生きていけない。私が居るから貴女は皆になんとか生きることを認めてもらえる。誰からも相手にしたくないと思われる貴女が大好きだった。


貴女が私の隣から時折離れる事が増えたのはいつだったかしら。帰ってきた貴女は、問い詰める私にいつもなんでもないと言った。私は何度も叱ったわね。お仕置きもした。貴女が一人で出来ることなんてないんだから、当たり前よ。でも、貴女はやめなかった。


離れる時間がだんだん増えていった。お仕置きもその分重くしたわ。悪いことをしたのだから当然よね。でもやっぱり貴女は私の隣から離れようとした。


ねぇ、どうして?貴女が一人で出来ることなんて何も無い。貴女は誰よりも嫌われていて、誰からも嫌われていて、誰にも相手にされない。この私以外は、絶対に。そうでしょう?なのに、どうして貴女は、私から逃げようとするの?


私を試しているつもりなの?だったら、今すぐに訂正して、謝罪しなさい。私はいつだって貴女の事しか考えた事は無いわ。貴女だけよ。貴女だってそうよ。そうよね?


何故返事をしないの?私の言葉には必ず返事しなさいって散っ々言ったわよね?ほら、はいって言いなさい。早く。早く!返事をしなさい!!


どうして聞いてくれないの?ここまでしてるのにどうして貴女は私の言うことを聞いてくれないの?もしかして耳が聞こえなくなった?それなら使えない耳はもう要らないわね。


どうして何も言わないの?痛いでしょう?いつもみたいに悲鳴を聞かせてよ、ごめんなさいって謝って?そしたら許してあげるわ、たくさんキスもしてあげる、抱きしめて撫でてあげるから。


ねぇ、どうして?どうして何も言わないの?


返事をしてよ、ねぇ、





人気者の貴女が嫌いだった。誰からも愛されて、信頼されてる貴女が大嫌いだった。私だけは貴女を嫌って、貴女とその他大勢の敵で、私は皆の嫌われ者。私が居るから、貴女は私の為に手を汚す。貴女は私を可哀想な子だと勘違いしてた。


貴女が私の勝手な行動を許さなくなったのはいつだったかしら。私が帰ってくると必死の形相で、何をしてたかどこに行ってたかなんで言わなかったか全部聞いてきた。なんでもないと言ったら、普段じゃ考えられないような声を出したわね。お仕置もされた。悪いことなんてしてないのに、酷いものよね。痛かったけど、貴女が血に染まる姿は見物だった。


離れる時間を増やせば増やすほど、お仕置も重くなっていった。だんだん痛みにも慣れたわ。貴女がだんだん狂っていくのが可笑しくて堪らなかった。


でも、まさかここまでになるとはね。ちょっとだけ罪悪感があるわ。全部自業自得なんだから、仕方ないのだけど。私はもうそこには居ないし、それはただの人形。私は貴女の後ろにいて、今から貴女を殺そうとしている。逃げようとなんてしないわ、だってそれは動かないもの。私はもう逃げた後よ。


貴女はどうして私にそこまで固執するの?謝るのは貴女の方よね。とっても痛かったし、とっても苦しかったもの。首を絞められた時が一番しんどかったかしら。私は貴女をいつ出し抜いて殺してやるか、それしか考えてなかった。ええ、そういう意味では貴女の事以外考えた事は無いわ。


返事をしないのは声帯が存在しないからよ。綿が言葉を発したらただのホラーでしょ?怖い話ね。貴女は綿の塊を私だと勘違いしてそんなにも慟哭しているのよ。可哀想な女。


聞こえてないのは貴女の方よ。本当に私の声が届かないのね。人間って不思議だわ。お父さんもお母さんも、貴女に必死に命乞いしたのよ、きっとね。幼くて記憶が曖昧なのが心苦しいわ。でも、私の両親は生きることを諦めようとなんてしない人だった。それだけは確か。だからきっと、貴女に楯突いたはずよ。なのに、貴女は聞く耳を持たなかった。お父さんとお母さんはその後すぐに死んだ。宙ぶらりんの両親は、もう私に笑いかけてはくれなかった。


全部仕組んでたことよ。この傷だらけの体も、今となっては素晴らしい勲章だわ。馬鹿みたいに叫んでたのも、気色の悪い舌を受け入れたのも、これで全て報われる。


大丈夫よ。ここは貴女と私しか知らない場所。


誰にも見つからないわ。



さようなら。来世はもう少しマシな性格になれればいいわね。


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