枇杷



嫌だなんてとんでもないし、逃げるなんて以ての外よ。


貴方に殺されるなら本望だと思ってたわ。たった今貴方に組み敷かれるまでは、少なくとも。


何よ。私だって、ただ気が強いだけの女じゃないわ。誰かに狂うほど愛されたいと思う事もある。誰かを狂うほど愛したいと思う事もあるの。


ねぇ。どうせ、今の貴方は護衛なんて付けてないんでしょう。ええ、私もよ。貴方が来るからって捌けさせたわ。


ふたりっきりよ。あと少しだけは。何れ、御父様が私を探しに来るわ。貴方の御母様もそうでしょう。それまでだけ。


ふたりっきり。初めてかもしれないわね、貴方と私だけなんて。いつだって私には御父様が居て、貴方には御母様が居たから。


……殺されてもいいと思ってた。貴方だけの私になれるなら。私だけの貴方に、貴方だけの私を愛してもらえるなら。それでいいと思ってたわ。


同じだったのね。私も貴方も。たった今分かったのよ。貴方がこうして、私を捕まえてくれた。


ふたりだけで遊びましょう。あの頃よりも熱く。あの頃よりも深く。ずっと待っていたわ。貴方が私を捕まえてくれるのを。


奪って。何もかも。







私が姫様と王子様を見つけた時には、お二人は息を引き取っておられた。揃えて一糸も纏わぬお姿だった。


赤の他人でありながら、奇しくも姉弟となってしまったお二人は、出逢った時からずっと仲が良く、特に姫様は王子様に、弟としてでは無い特別な想いを抱かれていた。


王子様も次第に姫様に惹かれていったようで、時折私にも悩みを打ち明けてくださっていた。


禁忌であると分かっていながら、それを抑えられなかった。仕方ないと口に出して言えば、私の首はたちどころに飛んでしまうだろう。だが、そう思わずにはいられない。


お二人は、幸せだっただろうか?最期の瞬間、愛した人と交わったその景色を、目に焼き付けておられたろうか?


願わくは、お二人が遠い未来、幸せに暮らせる事を、私は非力ながら祈ろうと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る