曇り硝子の奥は銀世界だった。


居るはずのない眞白の蝶が辺りを優雅に飛んでいる。いつの間にやら知らない場所にと思ったが、扉を開けたこの光景を見るにどうやら私は死んだらしい。


視界の端から端まで、全てを美しい雪色が包んでいるが、しかし反して寒さは感じない。寧ろ暖かい。服は着ているようだが、それだけでこんなに暖かいはずはない。


私が目覚めたこの場所は、小屋というにも名ばかりなプライバシーの欠片もない空間だった。壁も扉も硝子張りだ。防寒などあるはずは無い。


状況とは裏腹に温もっている体は、やはりここが現の世界ではないと考えるに十分な異常だった。


しかし誰もいない。自分以外に生命と言えば、そこらを楽しそうに踊っているあの白い蝶ぐらいだ。それに死後といったら、川が流れる花畑が主流じゃないか?偏見といえば偏見だが、イメージとは随分違うなと思った。


どうしようかな。そう独り言ちる。死んでいるならお腹は空かないだろうし、恐らくあの白い蝶のようにふわっと飛ぶことも可能なのだが。


そう思った矢先、遠くで何かが光ったような気がした。ゲームではあるまいが、役に立つものがあるかもしれない。行ってみよう、私は地に付いているか定かではない足を動かした。


光った場所に着いたはいいが。何も無い。先程の光は何だったのだろう。見間違いだっただろうか?かなり強く光ったのに。まぁ、そういうこともあるだろうか。


長居しても仕方ない。先の小屋に戻ろう。小さくため息を吐いて振り返


え?


















飛び起きた。


悪い夢を見ていた気がする。しかし、夢にしては妙に鮮明な恐怖が、今も体を覆っている。何だったんだろうか。


まぁいい。今日も仕事だ。顔を洗おうと私は洗面所に向かった。



鏡には

いつも通り

黒が映っていた。

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