第84話 現在の美少女達


 土曜日、俺は駅前に来ていた。

 時刻は朝の10時、いつもなら昨日の夜から徹夜でゲームをして寝ている時間なのだが、今日はしっかり起きて髪型を整え、服を姉に選んでもらい、とある女性を待っていた。


「はぁ……面倒クセェ」


 まったく、なんで俺がこんなことをしなくてはいけないんだ?

 まぁ、確かにサインは貰ったが……。

 まさかアイドルとデートをすることになるなんて思っても見なかった。

 確か変装して来ると言っていたが、どんな変装をしてくるのやら。

 まぁ、芸能人の変装って大抵グラサンにマスクとかだよな?

 なんてことを考えていると、後ろから誰かにつんつんと背中を突かれた。

 ようやく来たのかと思い、俺は後ろを振り返る。


「やっと来たか、さっさと映画に……」


「ごめんごめん、待った?」


 そこには大きなメガネに帽子を被った見知らぬ女性が居た。

 誰だこいつは?

 明らかに宮河さんでは無かったので、俺は一瞬フリーズした後にこういった。


「あぁ、人違いじゃないでしょうか? すいません俺も間違えたみたいで」


「え? いやいや、私だよ? 宮河だよ?」


「え!? ほ、本当に宮河さんなんですか!?」


 俺は思わず敬語になってしまった。

 なんというか、俺の前に居た宮河さんは全くの別人のようだった。

 例えるならば、今まで会っていた宮河さんが元気で明るいみんなの知っている宮河さんであるのならば、今俺の目の前に居るのはクールで知的な女の子と言った感じで、全然真逆の印象だった。


「あぁ、化粧変えたからね。この化粧だと私って気が付かれないから」


 女の化粧ってすげーんだな……スパイ映画とかで見る変装みたい。

 俺がそんなことを考えていると今度は彼女が俺のことをジロジロ見てきた。


「な、なんすか?」


「いやぁ……あの……すごく素材が良いと思ってたたけど……本当に良いね……うん」


「え? 何のことですか?」


「君、やっぱりうちの事務所に来るべきだよ! 絶対に売れるって!!」


 彼女はわずかに頬を赤く染めながらそう言った。

 なんで今そんなことをここで言うんだ?

 やっぱり恋人役って言うのは建前で本当は俺を持ち上げて、事務所に引き込もうとしてるんじゃないのか?

 

「まぁ、そういう話は今は良いので……さっさと映画館に行きますよ」


「あ、待って待って」


「なんですか?」


 映画館に向かってあるき始めた俺を宮河さんは呼び止める。

 

「彼氏役って言ったでしょ? 君は今日一日私の彼氏なんだから、ちゃんと私をエスコートしてよね」


「えぇ……」


「何よその面倒臭そうな顔は!!」


「だって面倒なんですもん」


「サインあげたでしょ?」


「うっ……はぁ……わかりましたよ」


「じゃぁはい」


「え?」


 彼女はそう言って俺に手を差し出してきた。

 なんだ?

 握手か?


「手を繋ぎましょう」


「え……マジっすか……」


「サイン!」


「あぁ、わかりましたよ……もう……」


 俺は仕方なく宮河さんの手を握った。


「なるほど……これが男子と手をつなぐ感覚なんだ……」


 宮河さんはそう言いながら俺を手をニギニギと何回も握ったり離したりしてくる。

 はぁ……今日一日こんな調子なのだろうか?





「あ! 手を握った!!」


 私は今、駅前でとある男女二人組を影からこっそり見ていた。

 周囲から見たら完全にストーカーのやばい女の子だけど、私にはある理由があった。

 それは好きな男の子が今日、役とはいえ有名なアイドルの女の子とデートをするというのだ。

 そんなの気にならない訳がない。

 

「うぅ……良いなぁ……私も圭司君と手を……ってそんなことを言ってる場合じゃないわ! 追いかけないと!!」


 私はサングラスとマスクを付けて二人の後を追った。

 

「ママーあのお姉さん何してる?」


「しーっ! 関わっちゃだめよ。ひろくんも大人になればわかるわ」


 なんだろう……この何かをなくしたような気分……。





「あ!! なんで手なんか握るのよ!!」


 学校の屋上で前橋から話を聞いてから、私はあいつがちゃんと女の子とデートが出来るのか気になっていた。


「そもそもあいつなんであんな気合入ってるのよ……」


 別にヤキモチとかそういうのじゃない。

 ただ純粋に友達が心配で私は様子を見に来ただけだ。

 あいつはゲーム馬鹿だから、女の子の扱いとか困るだろうと思ったから、こうして見に来て上げたのよ。


「やっぱりアイドルの子って可愛いなぁ……ってか、あの子って本当にあの宮河真奈?」


 あいつに近づいていった子は話に聞いていたアイドルとは思えないほど別人のようだった。

 でも、なんか手とか握ってるし、きっとあの子なのよね?

 

「あ、追わないと先に言っちゃうわ!!」


 私は変装ように持ってきたメガネとマスクで顔を隠し、二人の後を付ける。


「ママーここにも変な女の人居るよー」


「しーっ!! 痴情もつれよ! 見ちゃだめ!!」


 なんでだろう、すごい誤解を受けた気がする……。

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