第55話 宿泊学習編32

「こらぁぁぁぁ!! 前橋圭司ぃぃぃ!!」


「あ……やっべ……」


 そう言って俺の方に向かってきたのは、最上だった。

 どうやらいつまで立ってもおかけて来ない俺を探していたようだ。

 こんな時に最上の相手なんてしてられないぞ……。


「なんで追いかけて来ないんだ! ずっと君が追ってくるのを待ってたんだぞ!!」


「い、いやぁ〜お前が早すぎてだな……お、追いつけなくてだな」


「追いつくどころか遠ざかってるじゃないか! 君は僕との勝負をなんだと……」


 ん?

 待てよ、こいつは俺たちのクラスが捕まえるべき三組の人間だ。

 そしてこいつらが本来捕まえなければ行けないのが一組の奴らだ。

 ということは……。


「なぁ最上、一つ頼みがあるんだが」


「約束も守らない君の頼みなんて聞けないよ!」


「うっ……」


 まぁ、最もな意見だな。

 仕方ない、ここは井宮に頼んでもらうか……。


「井宮ちょっと」


「な、何よ……」


「お前があいつに頼んでくれよ」


「はぁ? 一体何をお願いするのよ」


「とりあえず俺の話を聞くように言ってくれ」


「良いけど……あんまり私もあいつと関わりたたくないんだけど……」


 井宮にそう言うと、井宮は少し嫌そうな顔をしながらも、最上の前に出て頼んでくれた。


「あ、あのさ……少しで良いから話を聞いてくれない?」


「もちろん!」


 ちょろ。

 良かったぁ〜俺が思ってた通りのちょろい男で。

 さて、それじゃあ本題に入るか。


「なぁ最上、俺たちと取引をしないか?」


「取引?」


 恐らくだが、最上はこんな性格だが三組の中で信頼されている生徒であろう。

 そうでなければ昨日のレクリエーションで大将になんて選ばれるはずがない。

 

「あぁ、お前にとっても悪い話じゃない、どうだ?」


「とりあえず話を聞こう」


「あぁ、実はだな……」


 俺は現在の自分のクラスの状況を最上に話す。


「なるほど……つまり君たちにクラスは君たち二人を以外は全員牢屋の中ってわけか」


「まぁそうだ」


「それで、僕に何をしろっていうんだい?」


「簡単な話だ、俺たち二人が囮になるから、お前たち三組は大勢で一組の陣地を襲って欲しい」


「なんだって?」


 そうすれば、三つ巴の大乱戦になり、どさくさに紛れてクラスの奴らを何人か救出出来るかもしれない。

 救出出来る確率は消して高くないが、二人でやるよりは遥かに確率は上だ。


「それをやるメリットが僕ら三組には無いんだけど?」


「メリットならあるだろ? 囮になるのは俺たちだ。お前らは簡単に奇襲を掛けられる」


「確かにそうだね、でも言ってしまえば、僕たちはこのまま君たちを放っておいても何ら問題は無い、むしろ追われる事が無い分、何もしない方がプラスになる」


 確かにそうだ。

 この作戦での三組のメリットは一組の生徒(泥棒)を大量に捕獲出来るチャンスだと言うこと。

 しかし、三組を追ってくる俺たち二組の生徒(一般人)が大量に開放されてしまうかもしれないというデメリットも存在するのだ。


「お前たちは固まっている一組の生徒に奇襲を掛けられるんだぞ」


「別にこの状況がわかっているなら、君たちの力を借りなくても僕ら三組だけで十分さ」


 くそっ……こいつただの馬鹿じゃないようだ。

 的確にこの取引の粗を暴いてきやがる。

 俺ったちが囮になるっていうのもよくよく考えれば必要なんてないことだ。

 俺達が囮になってもならなくても、三組の奴らが全員で一組の奴らを囲めば囮なんて必要ないってことだ。

 どうする……今さっき思いついた作戦だからかなり粗が目立つ取引だ、確かにメリットの無い取引に人間は応じない。


「ねぇ、そんな事言わないで協力してくれない?」


「え? いや……い、いくら井宮さんの頼みでも……」


「お願い! 私達二人じゃどうしようもないの! 後でお礼はするから!」


「お、お礼!? マジですか……」


「うん、まぁ出来る範囲でだけど」


「わかりました! この最上吉秋におまかせ下さい!!」


「ありがとう!」


「………」


 こいつ……やっぱり馬鹿だ。

 俺は肩を落としため息を吐く。

 あんだけ色々考えた俺の苦労って……。

 俺と井宮は最上と奇襲作戦の作戦を練った。


「こんな感じでどうだ?」


「流石は僕を倒した男だ、良い作戦だと思う」


「うんまぁ……偶然だけどな」


「言っておくが、約束は守ってもらうよ。奇襲の時、僕たち三組の生徒には一切手出しをしないでくれ」


「あぁ、それは約束する」


「わかった、それじゃあ僕は三組の皆に作戦を伝えてくる」


「わかった」


「そ、それと井宮さん……」


「ん?」


「あ、あの……作戦が成功したら、僕の事を名前で読んでくれませんか!!」


「え? いいけど……そんなことで良いの?」


「はい! よしっ! この作戦! 必ず成功させてみせる!!」


 そう言って最上は自分の陣地に戻っていった。

 

「ねぇ、お礼するって言ったけど、流石にあれだけじゃ悪いわよね?」


「いや、本人が良いって言ってんだから良いんじゃね?」


 やっぱり馬鹿ばっかりだな、うちの学校の男子は。

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