第19話 本当に姉はロクなものじゃない



「ねぇ、今度お姉さんに合わせてよ」


「はぁ? 嫌だよ」


「なんでよ? 別に良いじゃない」


「いや、まぁ俺が面倒くさいってのもあるんだけど……お前の為にも言ってるんだよ」


「え? どうして?」


「いや……まぁ話せば長くなるんだが……」


 うちの姉貴は俺の女性事情にかなり興味があるようで、中学の時代からかなりうざかった。

 ただ体育祭で隣同士になっただけの女の子の事さえもかなり色々聞いてくるのだ。

 うちの姉貴は少しブラコン気質なところがあり、俺に対する態度が世間一般の姉とは違っていた。

 憧れの女性がまさかブラコンだなんて事実を井宮も知りたくはないだろう。

 知って後悔するよりも、知らないままの方が良いことだってある。


「まぁ、とにかく会うな……」


「まぁ、良いけどさ……ところで一つ聞きたいことがあるんだけど良い?」


「なんだ?」


「さっきから私たちの事をこっそりのぞき見してるサングラスの女の人って知り合い?」


「え?」


 俺は井宮に言われて後ろを向く。

 そこにはこっそりと俺と井宮を覗いているつもりの俺の姉が居た。

 

「……」


「……」


「あ、あの……知り合い?」


「いや、知らない人だ、ところで料理は来てないがそろそろ帰らないか? 俺はもう早く帰りたくなってきた」


「知りあいなのよね? 絶対そうよね?」


「知り合いじゃない! 決して俺の姉とかじゃない!!」


「いや、全部言ってるわよ! え? ていうかお姉さんなの!?」


「良いから帰るぞ! あの面倒くさい姉から!!」


 そう言って俺が席を立つと、後ろから誰かに腕を掴まれた、

 まぁ何となく想像は出来るのだが……失敗した、学校も別になり、最近あまりこういうことが無いから油断していた。

 女子と一緒に買い物なんて言わなきゃよかった。


「うふふ、偶然ね圭ちゃん」


「何が偶然だこのストーカー」


「まぁ酷い! お姉ちゃんはたまたまお買い物に来て、たまたまこのお店に入っただけなのよぉ~」


「あっそ……」


「もう、圭ちゃん冷たいんだから~」


「やめろ、頬をつつくな!」


 結局俺は姉貴に見つかり、そのまま一緒の席で食事を食べる事になってしまった。


「ほ、本物の知与さんだ……ヤバイ……超綺麗……」


「うふふ、ありがとう」


「はぁ……なんでこうなる」


 姉貴が加わった事でただでさえ注目されていた俺たちの席が更に注目される。

 井宮と姉貴が一緒の座席って……そりゃあ男共の視線はこの席に集まるよ。

 しかし、なぜ女性の視線まで集まってるんだ?

 あぁ、あれか姉貴はモデルだからファンか。


「ところで圭ちゃん」


「なんだよ」


「お姉ちゃん色々聞きたいことがあるんだけど?」


「なに?」


「この子とはどんな関係なの? 確かに圭ちゃん、お友達はあのえっと……名前なんて言ったかしら? あの男の子だけよね?」


「そうだよ」


「じゃあ、この子は何?」


 何と言われてもなぁ……。

 都合の良い時に一緒にゲームをしたり、都合の良い時にこうして買い物に来たり、都合の良い時に趣味の話で盛り上がったりの関係だから……。


「都合の良い関係いっつ!」


 そう言った瞬間、俺はまたしても井宮に頭を叩かれた。


「あんたはまた誤解を招きそうな言い方して! お姉さん違うんです、私と弟さんはその……なんていうか友人のようなものでして……」


「お前を友達とは認めていない!」


「面倒くさいわね! 良いからあんたは黙ってなさい!!」


 俺と井宮がそんな話をしていると、姉貴は水を飲んだ後俺ったち微笑みながらこう言った。


「とりあえず、二人は付き合っていないのね?」


「そうです」


「絶対にないな」


「そう、それなら良かったわ~」


 そう言いながら姉はバックから何かを取り出す。


「もしお付き合いをしていたら、貴方をこれで気絶させなくちゃいけなかったわ」


 そう言いながら姉貴は俺と井宮の前に護身用のスタンガンを出す。


「え?」


「姉貴、俺は彼女なんて作る気無いから、あんまり井宮を脅すな」


「え? 私脅されてるの?」


「だって! いつまでも圭ちゃんがお姉ちゃんと付き合ってくれないから! お姉ちゃん心配で!」


「実の姉と弟は付き合えねーよ! そのブラコンもいい加減にしろよな!」


「え? ブラコンなの?」


「ブラコンじゃないわ! お姉ちゃんは圭ちゃんと結婚して子供を二人作りたいだけ!」


「それが無理だって言ってんだよ! 頼むから俺に構わないでくれ!」


 こうなるから姉貴と井宮を合わせたくなかったのだ。

 井宮はぽかんとしながら俺と姉貴の様子を見ている。

 きっと状況がまだ呑み込めていないのだろうな。

 そのあと俺たちは食事を済ませファミレスを後にした。


「今日は悪かったな、うちの姉貴が……」


「あ、いや……大丈夫だよ、買い物付き合ってくれてありがと、それと……あ、アンタも色々大変なのね」


「それを言うな」


 帰り際、井宮から俺は初めて同情された。

 

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