第3章 Einen schönen Tag! 姫騎士の穏やかなれど怒涛の日々です
03-001.Anfänge. 始まりの唄。
2156年6月14日 月曜日
2週間の聖霊降臨学校休暇が明けた月曜日である。6月も半ばになり季節としては初夏と言えるが、ここローゼンハイムは日中の最高気温が平均20度前後であり思った以上に涼しく過ごし易い。そしてザルツブルク同様、南にアルプスが
「二人とも、おはようございます。」
「おはよう、ティナ。」
「おはようヨ! 久しぶりヨ!」
ティナは、登校早々に
「久しぶりと言いますが、昨日まで1週間くらい一緒だったじゃないですか。」
「そうだな。久しぶりではないんじゃないか?」
「学園で会うのは久しぶりヨ!」
2週間の休みを挟めば確かに久しぶり、と言ってもギリギリ通りそうだが、
拠点と言う通り、単なるお泊り会ではない。先だって、
そのイベント後も、
ちなみに、ティナは短時間の使用が想定されている奥義を独自の技術で編み出したアイドリングさせる方法で使用時間を延長してイベント終了まで奮闘した。その結果、翌日は酷い筋肉痛で1日ベットの住人となり、それから2、3日は筋肉痛が引かなかった。
「いえ、本当に色濃い休暇でした…。」
「今度は市街戦したいヨ! でもその前に6月祭ヨ!」
「市街戦て。収拾つかなそうですよ、それ。それよりも6月祭が問題です。また
「ああ、あれか。即座に各所へメールしてたからな。」
「
「旬は逃したらダメヨ。すぐオイシク無くなるヨ。」
「季節の食材みたいになってるな。」
お祭りごとが大好きな
そして
6月祭について簡単に説明を挟もう。
マクシミリアン国際騎士育成学園では、6月の第4木曜と金曜の2日間、学園生達の学習成果発表の場と言う体裁で、外部の一般見物客を招くイベントを行う。日本人的感覚で言えば高校、大学などの一般公開型文化祭にイメージが近いだろうか。
このお祭りは、生徒主体で主に卒業生がメインとなって取り仕切る。彼等彼女等は、卒業前だから最後にドーンと何かやってくれ的な習慣がここ最近で生まれている。イベントのメインは
その6月祭の催し物について、学園長は元より、騎士科の講師であり歴代最強の
内容はエキシビジョンマッチとして、ティナと
何故、
ブラウンシュヴァイク=カレンベルク邸で滞在中、
見たことのないレベルで繰り広げられる格闘
ティナと
何ごとかと尋ねたティナが茫然とするなか、
余談ではあるが、ティナの弟ハルは
――閑話休題。
詰まるところ学園が休み明けになるころには、ティナと
「6月祭が憂鬱です。」
「なんだ、そんなに格闘術を公開するのは嫌なのか? それとも
「
「今更ヨ、今更。ティナのアバター、格闘ヴァージョン近日公開なてるヨ? 周知の事実ヨ。」
「うっ。それを言われると返す言葉もありません…。」
「いつも通りにアバター宣伝の足しにすればいいんじゃないか?」
「うーん、それが一番建設的ですか…。」
いつも通りの姫騎士さんなのであった。
――この時までは――
などと、引きになる様な特殊イベントも全く発生せず、本当にいつも通りに日常を過ごしていくのである。
長い休暇明けで生徒達の話題となったのはやはりホーエンザルツブルク要塞攻略イベントだろう。学園生達も腕に覚えのある者達が100名以上参加していた。彼等彼女等の内、
その中でも一際異彩を放ったのが防衛側大将であった姫騎士だろう。
高レベルの王道派騎士スタイルで知られた彼女が、春季学内大会で
そんな記憶がまだ新しい内に今度は、空中を闊歩し、敵陣に只一人斬り込み蹂躙する、などと信じられないことをしでかしたのだ。
それはティナが実際の戦場で戦う技量を持っていることを暗に示しているからだ。
その上で休暇後半に届いた
騎士科の者達は口々に噂する。あの姫騎士は一体何者であるのか、と。
「ナニモノねぇ。パンツ見せてお金貰う人ヨ!」
「風評被害です! それでは風俗街の従業員に聞こえます!」
「言葉的には問題だが間違ってないところが
ティナは下着メーカーのスポンサードを受けている。この間新調した鎧に合わせて騎士服も仕立て直し、さり気にパンチラして効果的に製品の宣伝が出来る様に改良している。以前にも記載したが、下着メーカーの製品宣伝は普段からパンチラすることではない。
そして、「風評被害」と言う言葉。このお話だと度々出てくる単語である。しかし単に彼女達の間で流行っているだけで、特に重要な意味合いなど何もないのだ。
昼時。今日は気温も高く、午前中で既に22度まで上がっている。午前中から晴れ間も見え始めていたので、最高気温も25度近くまで上がるだろうと予想される。つまり、初夏の陽気そのものだ。
こんな日には室内よりも外の方が宜しかろうと、中庭の芝生で昼を頂くことにした三人娘。食堂から本日はサンドイッチ系のランチを選択しテイクアウトする。さすがにテラスと違い、芝生の上にヨーロッパ系の料理を並べるのは余りにも無作法である。
「こんなことなら夏服を出すんだったな。」
ポロリと零した
「ワタシ、涼しい服ヨ~。涼しいヨ~。」
ゴロゴロと芝生の上を行ったり来たり転がる
「むしろ、そのゴロゴロ運動で暑くなるんじゃないでしょうか。」
ピタリと動きが止まる
「うん。アツイ。ゴロゴロ侮れないヨ。」
「
「疲れたヨ。直してヨー。」
「まったく。しかたないですね。」
両手を伸ばした形で俯せの
動かない
その姿は
大地に抱かれ、陽光により温まった空気を感じ、世界と一体となることを望む修行者の様に。
などと前衛的な詩に使われていそうな言葉で言い表さなくとも、ダレて動かない
その丸太から寝息が聞こえて来る。この陽気に、腹がくちくなって眠りに誘われた様だ。
「寝ちゃいましたね。」
「うん。眠ってしまったな。」
「そこは代々、お昼寝スポットだからな。」
「あら、ヘリヤ。あなたも日向ぼっこですか?」
「いい陽気だからね。のんびり出来そうなところを探してたんだよ。」
そう言いながらヘリヤは木陰を選んで座り込む。ここの女生徒はスカートを短くすることが流行っているので、胡坐を組んだヘリヤもチラチラと下着が見えている。
そんな女生徒の姿は、この学園では慣れっこなので特に気にすることもなく
「代々の昼寝スポットですか? ここが?」
「そうそう、丁度良い涼しさになるんだよな、特に夏場は。覚えとくといいよ。あたしも良く世話になったさ。」
「へー。そうなんですか。」
ここでティナはどうでも良い話なのだが気になっていたことをヘリヤに尋ねてみた。
「ヘリヤ、鎧下の騎士服、新調しました?」
「ん? 良く判ったな。」
「判るも何も、丈が短くなって下着が丸見えだったのが、この間のイベントではちゃんと隠れてましたもの。」
「ああ、そう言えばそうだ。同じデザインだから気付きませんでしたよ、ヘリヤ。」
「ホラ、あたしは卒業後に旅する企画があるだろ? さすがに丈が足りないスカートで相手先に行くのはどうかって、かあさんに窘められてな。それもそうかと。」
「んがー」
会話に参加する様に、
「
「!?」
「!!」
一瞬でヘリヤが神速の突きを放つ際の気配に変わった。ヘリヤは殺気は出ないのだが、明確に攻撃の意志が読み取れる珍しい気配を放てる。
そして、
「なんだ、ヘリヤカ。闇討ちかと思たヨ。」
「悪い悪い。前に達人は寝ていても気配で気付くって聞いてな。ホントかどうか試してみたんだ。」
「まったく。人が悪いヨ。それにヘリヤの気配ならワタシなくても大抵は気付くヨ。」
「え? そうなのか?」
「そうヨ。寝てる横でジェット機飛ばす様なもんヨ。」
「ああ、それは私も判るな。ヘリヤの気配は一瞬、猛烈に膨らみますから。」
「そうですね。アレで殺気が全く含まれていないところが逆に恐ろしいところですが。」
「なるほど、あたしで試すのは失敗だったかー。しかし、
「それくらい出来ないと額に肉って書かれるヨ…。」
「どうせなら
「
「ですね。ウチもエレさんがスカウトしてましたし。あっさり断られましたが。」
「ふーん、色々と面白いことになってるんだなぁ。あ! 面白いと言えば、6月祭!」
「はい? 6月祭?」
「なにかあったのですか? ヘリヤ。」
「何かどころじゃないだろ、
「大会違いますて。模擬戦ですよ、もーぎーせーんー!」
「大会してもワタシとティナ以外まともに戦えないヨ。」
「でも初の試みだろ? いやー、卒業前に格闘の技が見れるなんて愉しみでしょうがないよ。」
ヘリヤは純粋に興味津々である。ティナと
「それに、今回のメインイベントだって聞いてるしな! 特等席で見れる様に捻じ込んできたところだよ。」
「へ? メインイベント? ええ! いつの間にそんなことに!」
「イヤッフー! 私の技、タクサン見て貰えるヨーッ!!」
喜びピョンピョン跳ねている
ここの学園生はイベントなどのお祭りごとは非常にアクティブなのだ。既に休暇の期間中から動いていたものと思われる。でなければ休暇明け初日の午後に、6月祭のプログラムとしてメインイベントに据えられていることなどはありえないのだ。
「フ…」
「ふ?」
「フラグ乙です…。」
「…あ、ああ。フラグ乙…。」
本当に自分が言ったことがフラグになってしまったティナと、その話題を最初に振った
こうして、ティナと
グッタリ気味のティナは、ベットの上で俯せに突っ伏している。イベントを調整しようと下手に動けば泥沼化しそうなので、大人しくトレーニングをしておくか、などと考えているところだ。格闘術自体、
部屋着のティナは、腰までのTシャツにティーバック姿がデフォルトだ。今は俯せになっているので臀部が丸出しなのだが、それがピクリ、と動いた。
「んむ? 仕事用とプライベート用にメールが1通ずつですか。あ、CMのパイロットが出来たんですね。ああ、確認用のデータも一緒に来てますか。」
ティナは外向け用、学園用、仕事用、プライベート用のメールアドレスを使い分けている。簡易VRデバイスで常時メール受信をする設定では、AR表示に絶えずファンからのメール到着メッセージが出続けるため、メールサーバ上のメールクライアントを使う様にしている。そして日に何度か到着メールを確認する方法を取っているのである。
仕事用のメールを見ると先月、三人娘はスポンサーである「Calenberg-Akustik .AG」が発表する新しいブランドのイメージキャラクターとしてCM撮影を行った。そのパイロット版が出来たとの連絡だ。実際は準完成版なのだが、そのフィルムを出演した本人達に確認をして貰うためのデータが届いたのだ。出演した彼女達が実際にCMを見て、要望などがあれば反映する。可能な範囲であればだが。
「明日の放課後にでも二人を呼び出しますか。それじゃ、CMの話がありますから明日の夕食後に私の部屋へ集合っと。ほい、送信。」
ささっと
「えーと、もう一通はっと。」
ティナの目が驚きに見開く。
「え!? 姉さま? え、ええ!? 見つけた? え、本当ですか! 内容、内容、メール早く開け!」
驚きと狼狽、そして抑えきれない期待でメールの内容を何度も目を通す。
「
「ふふ、ふふふふふふ…」
「フハーッハッハッハッハーッ」
珍しくティナは怪しい笑い声を臆面もなく響かせ、夜が更けていくのだった。
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