02-005.アバターとウサギとオースタンです!
2156年4月1日 木曜日
ティナは、今週に入ってから放課後に電子工学科へ足繁く通っている。学園がリリースしている3D格闘ゲーム「
「いやー、ビックリだよー。如何にもアタッチメント用の部品が多い鎧だなーと思ってたけど、それが本来の姿なんだねー。青天の
アバターデータ担当のウルスラに
「本来、格闘専用の鎧ですから。相手が全身鎧でも確実に勝利できる様、色々と工夫がされてるんですよ?」
「例えば、その脛に付いてる暗器投擲的な?」
「そうです。アタッチメントを変えれば、肘から杭が出たり、前腕部に射出装置を付けたり、組み合わせは無限大です!」
何かの商品を売り込むキャッチコピーの様な台詞を
それもその筈、姫騎士
アバター元であるティナも、電子工学科の諸々も、思わずガッツポーズが出ても不思議ではない程、機嫌が良い。
それはさて置き、ここ暫くはヘリヤ戦で使った技のモーションデータを再取得(試合映像から取得したモーションデータを補完するため)と、この鎧本来の格闘技モーションデータを取得するために時間を費やしている。今日からは、フル装備が前提になる技を実演中だ。
格闘技による攻撃は、
FinsternisElysium MassakerKünste フィンスターニスエリシゥム
「ふむむ、
「殴打系の型としては後、5つほどです。一気に終わらせましょう。」
そう言って、ホログラムで出来た対戦者を相手に技を次々と繰り出すティナ。モーションデータを取得する場合、より実戦的な挙動を得るためAIを実装した選手を相手取る。AIと言えども過去の選手などの実戦データが蓄積されており、公式大会に出ても上位へ食い込めるレベルに設定できる。3D格闘ゲームの対戦者をコンピュータに指定すると、アバター本人さながらの戦いを再現する非常に優秀なアルゴリズムを持つAIなのである。
一通り、型を披露して本日は修了。関節技や投げ技などの相手に直接触れるようなものは、
ダミー人形。過去の学園生達から与えられた愛称は、総受け君。その名は脈々と受け継がれている。
彼は、緩衝材の装甲を纏い、モーターで動くナイスGUYである。必要な挙動が簡略化されたマクロの組み換えで、すぐさま望む動きをしてくれる。多種多様なセンサー搭載で様々なデータをリアルタイムで取得する。そして、なかなかにタフで壊れにくいこともポイントである。
過去、アバターデータを作成する際、格闘技を多く持つ選手がおり、どうせならゲームでその技を使おう、などと誰かが言い出したことから、その技を受ける相手として誕生した。
「見た目だけでも即退場的な鎧だよねー、それ。格闘以外にもまだ技があるんでしょー? ゲームキャラクター的には、どう区別するかが難問かー。ぬぬぬ。」
「即退場って…。ウルスラ、それはあんまりじゃないですか。そんなこと言われたら鎧だって草葉の陰で泣きます!」
無機物は泣かない。なお且つ、草葉の陰は死後の世界である。
即退場な見た目を持つ鎧。
エイル戦で少し紹介した、踵に付いている中心に丸い穴の開いた半円状の頑丈な突起。ここには手の平サイズの頑丈な斧の刃が装着されており、蹴りを放つ際に攻撃力を底上げする。
また、
更に、追加で装備されている
そして面白いことに、これでもかと物騒なアタッチメントを取り付けているが、鎧はあくまでも腕と脚のみである。胴体は5cm幅で切り分けられた冊状の革で作られたノースリーブワンピースだけなのは変わりがない。股下丁度の丈からは、ピンクのティーバックが覗いている。と、言うより、格闘技メインなので終始パンモロ状態であるのだが、クロッチがない総レース仕立てのティーバックは肌が透けている部分が多く色々と危なっかしい。
ティナの
以前、試合の解説者は、突起が物騒であるが全身オレンジ色で可愛らしい
ここ数日、この鎧で飛んだり跳ねたりと多彩な空中殺法を見せ、ウルスラを大いに驚かせた。
技の中には、飛来する飛び道具に対応する
飛んで来る矢を手刀や拳で逸らしたり、
「もう、おねーさんグッタリ的なー。脱力感がひどいよ。」
「あら? それほど大変でした? モーションデータはかなりの量を撮りましたものね。」
「いや、おねーさんの弓が全く歯が立たなかった的な? 逸らす、打ち落とすのはいいけど、掴むのはヤメテ。マジ
「だって、ちょうど良い位置に飛んで来たんですもの。そうしたら掴みますよね? 普通。」
「それ、普通じゃない的! 乙女の嗜みを超えてる的!」
頭を抱える森のエルフさん。ウルスラは日常的に付け耳を装着しているが、残念ながら耳がピコピコ動くギミックはない。
「ジャンプ膝蹴りで相手の頭貫通とか、空中から回転して踵の斧で頭勝ち割るとか、おねーさん的には相手役がホログラムでよかったなーって一安心だよ。」
「まだ関節技、寝技が残ってますけどね。」
「だよねー。連休明けがコワイ。総受け君の冥福を祈る的。いや、7代目も用意しとくべきかなー。」
ちなみに、総受け君は現在6代目。5代目は昨年、
「お手数かけますけど、お願いしますね? ウルスラ。」
「うん、やるからにはバッチリ的に仕上げるよー。取り敢えずリリースは結構後になるよ、これ。」
「やっぱり?」
「うん、詰め込めるものが多過ぎ的&世界大会でも追加案件出すんでしょ?」
ウルスラには世界選手権大会で、新たな技を披露することを予測されている。まぁ、ヘリヤ相手にあそこまで戦ったのだから、まだ見せていない技を出すだろうと皆思うであろう。打ち止めの雰囲気は微塵も出さなかったのだから。
「姫騎士
「私も姫騎士
「そのあたりは、ゲームデザイナーチームも混ぜて方針策定的な? どの道、連休明け以降だねー。」
「ドイツの全国大会予選が始まるまでには方針を決めておきたいですね。」
アバター関連の主要メンバーが出立する前には決めることは決めておきたいのだ。ドイツ全国大会関連でアバターデータ更新案件が増えるだろうと思われるので。
一通り、作業が完了し、機材や装備を片付けて一休み。ウルスラの淹れてくれた紅茶と、お茶請けに燻製が出た。メイプルのスモークチップを使ったのだろうか、ほんのり甘い香りがする燻製だ。そう、肉の燻製だ。
「うん? この燻製、鶏かと思いましたがウサギですか? 後味に薄っすらケモノ
「うん。野ウサギだからケモノ的だよねー。狩場でウッサウサしてたから狩ってきたよー。」
「ええと、お茶請けに出すものではないかと。」
「そっかなー? 肉が柔らかくできる的だから燻製にするの気に入ってるんだよねー。」
「いえ、紅茶には壊滅的に合わないと思います!」
「毛皮もあるよー。敷物的な? 見るー?」
返事も聞かずに、ウルスラはイスの上にあるクッション替わりの敷物や、別室で機材カバーになっていた短毛種や長毛種の毛皮をたんまりと持ってきた。
ウッサウサとお頭付きで程好い手触り。彼女は革の
ドイツでは、ウサギは愛でるし食べる。オーブンで丸焼きにしたものやステーキにシチュー、香草焼きなど様々だ。スーパーの精肉コーナーに普通に置いてある。
ティナも、ウサギ料理は普通に食す方である。しかし、ウサギの燻製は初めて食べた。しかもお茶請けに出てきたのである。シチュエーションも加味され微妙な気分に。更に、その肉の外身が共演となり、得も言われぬ混沌が這い寄ってきた。
「ほらほら、ウッサウサ的な~。」
ウルスラは、毛皮の頭に手を入れてウサ耳を右へ左へフーリフリと揺らす。指人形として、その素材はどうかと。
その姿を見て、しょうがないなぁ、と思いつつティナは、毛皮の表面が傷一つないことに気付く。
「あら? そのウサギ、弓で狩ってきた獲物ですよね? 矢傷の跡が見受けられないんですが?」
「この子はねー、お尻の「理解しました、それ以上は
ある意味、奇跡の一撃だったのだろう。ホールインワン的な。なるほど矢傷が見当たらない筈である。まぁ、それがどうした?と言った話ではあるが。
「
「やめてください、子供たちのトラウマになります!」
「ええー、カワイイ的なのにー。」
ドイツでは、
基本、幼児向けのイベントだ。そして、子供たちが発見する幾つものカラフルな卵がウサギの抜け殻に包まれている絵面は狂気と言っても良いだろう。きっと取り返しがつかない。
「トホホー。インパクトは最高的なのにー。ウサギチョコで我慢するかー。」
「そうしてください。学園発ナイトメアは御免
大人になるとイベントの趣が変わるのは日本でも同じだろう。
「私の
「そんな時にはー、この毛皮ー! これで卵を包み込む的なー!」
「だから、いりませんって。素直に元の敷物として活用してくださいな。」
やれやれ、と息を吐く姫騎士さん。
たまにぶっ飛んだ思考をする森のエルフが、リアルウサギの成れの果てを子供向けイベントに持ち込みやしないかと、ちょっと不安になるのだった。
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