01-011.長柄武器同士?いいえ、剣で決めます ~京姫その2~

 Chevalerieシュヴァルリ、特にDuel決闘と言う競技は、1試合3分で3試合中2本先取が勝利条件ではあるが、3試合の時間をフルで使い切ることは殆どない。剣の動きは速く、次々と技が繰り出される。剣が触れ合えば一瞬で優劣が決まり、あっという間に1本までポイントが蓄積するからだ。

 先の花花ファファとマグダレナの試合は、戦い辛いと定評がある騎士シュヴァリエ同士であったため、時間一杯を消費していた例外である。


 京姫みやことテレージアもまた、実力が拮抗したであるという理由で、1試合の時間一杯消費したのだった。


 そして始まる第2試合。


『お待たせしました、第2試合の開始です。第1試合では、キューネ選手が大型両手剣でまさかの速攻! しかし、宇留野うるの選手が返り討ちし、1ポイントの優勢!』

『それ以降は、まるで槍同士が戦う様相を呈し、どちらも一歩も引かず! 剣と槍、意地と意地とのぶつかり合い、勝利の女神がほほ笑むのはどちらか!』

『そして、独特のコスチュームで特に海外での人気が高い二人。宇留野うるの選手のキュートさ、キューネ選手のセクシーさの戦いでもあり海外のファンは大喜びでしょう! 私もウレシイ一人です!』


 その海外は主に極東あたりの人気だと思われる。特に「履いてない」ところとか。


 京姫みやことテレージアの間合いはほぼ同じ。解説者の話す通り、テレージアは相手の間合いに合わせ、大型両手剣で槍の運用をするという器用な真似をしてのけた。


『双方、開始線へ』


 審判の合図で、お互いに向かい合う。それぞれ刀身が消えている武器デバイスを脇に抱える様にしている。


「ほーっほっほっほっ! 1試合目はまんまと取られましたが、次もそうとは限りませんことよ!」

「ふふふ、あなたのZweihänderツヴァイヘンダーを扱う技量には驚かされましたが、次も私がいただきます。」

「あら? お褒めにあずかり光栄ですわ。貴方の槍捌きも相当なものですわよ? それでもわたくしが頂きますわ!」

「ところで、貴方のその硬い口調、何とかなりませんの?」

「根っからの性分ですので、ご勘弁を。それより、気になってたのですがその高笑いは普段されていないのでは?」

「キャラ作りですわ。」(早口)

「…言っても良いのですか?」

「構いませんわ!」


 観客やTV放送、動画配信向けのサービス会話は、どの試合でも大抵行われているが、京姫みやこは対戦者の情報を研究する時、サービス会話のパートはいつもスキップしている。なので、テレージアの高笑いは今日初めて聞いて面食らったのだった。

 テレージアのファンも、彼女は正直者故、珍妙な会話になったり時にはコントになったりするので、今日は何を言うのかと楽しみにしているのである。

 そろそろ、良い時間になったところで、審判から合図がかかる。


『双方、抜剣』


 二人の武器デバイスから、刀身と穂が生成される。


『双方、構え』


 京姫みやこは左半身の左自護体になり、腰の辺りに水平に槍を構える地ノ構えを取る。自護体とは、身体全体に満遍なく力を加える自然体の形で、両足を広く開き、膝を軽く曲げて腰を落としているため、四股を踏む関取の様に見える。パンツ丸出しの乙女がして良い姿なのか甚だ疑問だが、2156年では特に何も言われないため問題ないのだろう。

 一方、テレージアは、左半身となるLangenort突きの構えだが、右腕は伸ばし切らず少し肘を曲げる様にしている。


『用意、――始め!』


 審判の合図とともに、京姫みやこが飛び込む。1試合目冒頭の攻守が逆となる様相だ。

 左右の足で滑る様に一息に踏み込み、テレージアの左膝に突きを入れる。すかさずテレージアは、左脚を引き、右脚を前に踏み込みながら剣を下段に向け、槍の軌道を右側へ流す。槍の柄がキシリと音を立てる。

 そして京姫みやこは、左右の足で滑る様に一息に遠ざかり、今度は右膝に突きを入れる。

 テレージアは、左脚を前に一歩詰め、右脚を外側へステップし、槍の穂先を股の下へ潜らせた。この位置からでは

 一歩進んだことで、槍を引き切るより早く剣先を届かせることが出来る。テレージアは右脚を踏み込みながら下段右に下した剣を振り上げ、後退する京姫みやこの左脚を切り上げる。

 そのまま切り上げを止めず、自分の身体から離れて行った槍の柄をち上げた。


 ――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が響く。


 そして、槍が宙を舞う。一瞬、槍に目をやってしまった。


 ――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が響いた。



 京姫みやこが放ったのは、相手の受けに合わせて左右の膝を突く、夜之槍と言う技の亜種である。左右に受けさせ、相手が右膝の攻撃を受け止める、もしくは受け流す挙動に合わせ、穂先を振り上げ腕を打つ予定であった。

 しかし、テレージアはここでも予想の上を行った。槍を跨いだのだ。槍の軌道からは、左右の脚を薙ぐことも出来ず、切り上げるにも下腹部は攻撃対象外であるため、故意による攻撃は出来ない。そうすると、槍を引いて仕切り直すしかない。自護体は力を出し易く、且つ防御も可能な構えではあるが、攻撃と防御の起点となる槍が使えなければ意味がない。

 テレージアの剣は、槍の左外側のまま下段を維持しており、左脚と左腕が攻撃範囲内に捉えられている。


 京姫みやこは、槍を引くと同時に左脚を引かざるを得なかった。

 が、そこへ剣先が追従し、左脚が切り上げられた感触が伝わる。切り上げの勢いは止まらず、そのまま引かれた槍の柄をち上げられた。

 その瞬間、槍を捨てた。柄から手を放し、されるがままとした。

 そして、右脚を前に出しながら、右半身を左へ捻り正面にかぶせ、左脚を折りたたんで右片膝の形へ移行する。左脚は使わないためダメージペナルティは無視できる。

 左手は脇差に当て、鯉口を内側に捻りながら切り、右手を脇差の柄に添えて上半身を右に捻る。それだけで刀は抜ける。


 後は、そのまま一文字にテレージアの右脚を薙いだ。そうと言う居合技の変形だ。そして、右脚に力を入れ後方へ跳ねる様に距離を開き、大型両手剣の攻撃範囲から逃れる。反撃や他所からの攻撃などの考慮が必須となる戦場での残心である。

 刀身が短い脇差ではあるが、一文字からの切り上げや上段への移行は、刀身を振りかるスペースに余裕がなく一度距離を置いたのだ。



 テレージアは、動けない。右脚のダメージペナルティにより大型両手剣を扱うだけの身体能力が発揮できない。

 仮に、今攻撃に出てもポイントは奪えるだろう。だが、一瞬で目の前から消えサブ武器デバイスウェポンへ切り替え、攻撃して来る相手だ。必ず反撃してくるだろう。満足な身体運用が出来ない状態では防御が間に合わない。今、動けば最悪2ポイントを取られる可能性がある。それは宜しくない。

 だから京姫みやこが落ちてくる槍を掴み、体勢を整えるのを見ているしかなかった。



 試合開始から2分が経過する。

 あれからテレージアが1ポイント、京姫みやこが2ポイントの先行は変わらない。

 お互いが隙を出さず戦況は再び膠着、正に一進一退と言ったところ。

 テレージアは流れを引き寄せるため、少し強引に仕切り直しを試みる。


京姫みやこさん、わたくしの次の攻撃は、胸への刺突でしてよ。貴方、受けきる度胸はございまして?」

「…おもしろい、受けてたとう。ならば私も胸への刺突を行おう。どちらの突きが優れるかここで決めさせて貰う!」


 お互いニヤリと嗤う。

 テレージアは左半身を開き、右肩口に剣を引き付ける防御崩しの型、Schlüsselの構えを取った。

 そして、京姫みやこは、左半身となり、左手を前、右手を後ろで肩の高さに水平にする型、上段ノ構えをとる。

 お互いが左半身である。同じ射程となるため、相手に届かせるには右腕も目一杯伸ばす必要がある。さすれば身体を右に捻りながら突きを入れることになる。

 間合いは約3m程。突きであれば一足で届く距離である。


 空気が張り詰める。

 彼女たちは呼吸を読み合う。そして、呼吸が合った時。


 二人は同時に飛び出した。


 相互で最速の突きを出す。

 テレージアは左脚の、後ろに引いている右脚を前に振り出す。同時に柄頭に軽く添えたを強く握りしめ突きの挙動を開始する。

 京姫みやこは、左手の中で槍を滑らさず、右脚を踏み出し、両手で突きを開始する。両手を使うのは、テレージアの剣を途中で巻き、剣先を逸らすためだ。

 剣先と穂先がすれ違うように重なる。槍の太刀打たちうち部分で右から左に巻き、身体の左外側に攻撃の導線を外す。外す筈であった。

 テレージアの剣に巻きを仕掛けて弾かれた。彼女の突きは微動だにしない。このままでは確実に攻撃は当たる。ならば、相討ち覚悟でこちらの突きも当てる。

 京姫みやこは左手を離し、右腕全てを使って槍の飛距離を伸ばす。こちらが先に当てるためだ。そして、弾かれぶれた槍を手首を回して軌道修正する。

 だが、テレージアの剣も不自然に伸びてくる。槍と同じように利き手を柄頭に持ってリーチを伸ばしていたのだ。


 ヴィーーと、1本取得を知らせる通知音が響いた。


 京姫みやことテレージアは相討ちとなった。しかもとても珍しい心臓部位クリティカルへの同時判定だ。

 この競技のシステムでは、心臓部位クリティカル攻撃の判定時間と言うものが設けてある。クリティカル1本の判定から0.2秒間は猶予があり、相討ちのケースを判定できるようになっている。


東側オステン 宇留野うるの選手 1本と2ポイント』

西側ヴェステン キューネ選手 1本と1ポイント』


 ポイントはリードされているが、テレージアはご機嫌だ。剣を槍として振るう秘儀を使うことに値する、初めての相手と巡り会えた。

 最初から剣の柄を右手で持って、剣の長さ全てで突き出す作戦であった。そう、重い大型両手剣を柄頭のみ右手で握り運用する。通常は出来ない。今まで使い続け、自身の身体の一部と化した大型両手剣であり、それをこなすために身体を創ってきた。それは槍の挙動で剣を振ることを可能にしている。4kgを超える剣の重みを右手一つで制御する。相手を打ち破る力は、左つま先から発生させた反動を右手を通らせ剣に届かせる。テレージアは、つま先、正確には親指の付け根を踏み込み、発生した力を全体に行き渡らせる技をいつでも出来る様鍛錬している。これにより、瞬間的に力を増幅させる。彼女の技は、脚の運用により支えられているのだ。だから脚を封じられれば慎重になる。

 京姫みやこの槍から放たれた巻き技は、通常ならば剣がいなされていたレベルだった。しかし、それを凌駕するに足る力を剣に乗せているため、真正面から巻き技を貫く。そして、ここで左手を持ち手から外し、右手1本にて最長距離で相手に届かせる。

 だが、さすがに京姫みやこも最長距離で到達させるため、右手1本の長い突きへ変更してきた。手首を内に捻って、攻撃の導線をしっかり合わせて来た。これは避けられない。が、京姫みやこもこちらの攻撃を避けるのは不可能。

 お互いが、片手で目一杯伸ばした先は、心臓部位クリティカル。ほぼ同時に貫いた。



『第2試合終了』


 審判からの合図が出る。1本が取得されたため、第2試合は修了し、第3試合へ移行する。


「さぁ、楽しくなってまいりましたわ!」


 テレージアは、思わず言葉がこぼれた。


『皆さん、ご覧になりましたか? 怒涛の第2試合! 第1試合と攻守が変わり、宇留野うるの選手の速攻から始まり、迎え撃つキューネ選手が先行で1ポイント! そして、なんと宇留野うるの選手は武器を捨て、サブ武器デバイスウェポンで反撃。正に一瞬の攻防でした!』

『そして、そして! 槍と剣の突き対決では! まさかまさかの心臓部位クリティカルでの相討ち! 今も調べていますが、学園内大会では初めてのケースの模様! 私も初めて見ました!』

『お互い一歩も引かず、高度な技の応酬に目が釘付けです! さぁ、これからどうなるのか! 肌色が目立つ注目の第3試合開始です!』


 解説者は少し興奮気味である。試合中の解説は抑揚はあっても適切に行っているのだが、どうも、試合開始前後のコメントはハメを外してしまう様だ。要精進。

 その様子を残念な目で見ていた審判が合図を発する。


『――双方、開始線へ』


 京姫みやこはテレージアを見据え口を開く。


「先ほどの突きは、見事でした。まさか、捌けない突きがあるとは思いませんでした。」

「貴方こそ。槍のたわみを手首で元に戻すなんて、始めて見ましたわ。」


 先ほどの1本が加算され、京姫みやこにアドバンテージが上がる。

 テレージアにとっても正念場である。


「ほーっほっほっほっ! まだまだこれからですわ!」

「ええ。最後まで楽しみましょう。」


『双方、抜剣』


 二人の武器デバイスから刀身が生成される。


『双方、構え』


 テレージアは、左脚を前に出し、右腕は軽く曲げ自然形で腰辺りに置き、剣先は少し下に向ける。そして左手は軽く拳を握り、左脚の根元に添える様に置く、十字の構えを取る。が、十字の構えとは相手に隙を見せてカウンターを仕掛ける構えである。そして、構えでもある。つまり、テレージアは、京姫みやこに背中を見せているのだ。

 京姫みやこは、左半身で左膝を立て、右膝を地に着け、槍を左膝の上を通すように斜めに相手の心臓部位クリティカルを狙い定めた、槍術の陽ノ構えを取る。


 双方とも、試合では余り見ることのない構えを取っている。テレージアの構えは、通常、両手剣を棒の様に扱う、もしくは片手剣で盾を持たない際に用いるもので、大型両手剣で運用されるのは類を見ない。そして、京姫みやこの構えも、しゃがみ込んだ姿勢が起点となっている。

 この試合に注目している観客達も、選手の構えにどの様な意図があるのか解らず、騒めいている。


『用意、――始め!』


 審判の上げた腕が振り下ろされ、試合が開始された。が、第3試合の冒頭は両者とも動きがない。両者とも、見た目ではカウンターを仕掛ける待ちの技だからである。


 京姫みやこは、半分「待ち」の構えではあるが、隙を見つければ即座に打ち込める。相手の背中も胴扱いであるため、攻撃範囲だ。だが、相手も来ると判っているならば、対応も容易い。待ちの構えとはそういうものである。


 しかし、京姫みやこは打って出ることにする。組み立てとしては、相手へ突きの連撃を放つ技、雷光ノ槍の変形で、1撃目を胴へのフェイントとする。相手が迎撃に入るところで槍を引き、2撃目を剣を掻い潜って足元に突く。

 左立膝から、踏み込みをせずに突きを繰り出す。浅い間合いで相手の反応を引き出すためだ。


 ――テレージアは、ここでも想定を超えて来た。


 京姫みやこが突きを出し始めた瞬間、音がする程素早く右回転しながら1歩踏み込み、下段に構えた剣に遠心力を乗せて槍の横からぶつけて来た。剣の勢いと共に槍が大きく左へ弾かれ、右腕ごと上半身が左に流される。

 テレージアは、脚の根元に置いた左手で、逆手のまま指でサブ武器デバイスショートソードを引き抜き、器用にも指を使って剣を180度回転させショートソードを正く持ち直す。回転の勢いに乗せ、京姫みやこの流された右腕を上から斬りつける。

 シャリン、と金属を打ち合う高い音がする。京姫みやこもまた、身体を流しながら槍から右手を離し、その流れで脇差の柄を握り、刀を引き抜いたのだった。

 勝負は一瞬で決まった。お互いの剣がぶつかった瞬間、巻きから滑らせ、京姫みやこはテレージアの手首を、テレージアは京姫みやこの前腕に剣先を届けた。


 ――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が響く。

 そして。

 ――ブーと、合わせて1本となった時の通知音が響いた。

 

宇留野うるの選手、合わせて1本』


『試合終了。双方開始線へ』

東側オステン 京姫みやこ宇留野うるの選手 2本』

西側ヴェステン テレージア・ディートリンデ・ヒルデ・キューネ選手 1本と2ポイント』


『よって勝者は、京姫みやこ宇留野うるの選手』


 観客から歓声が沸く。解説者も興奮して捲し立てている。双方共、サブ武器デバイスウェポンまで使った技の応酬、スコアがフルカウントに及ぶ試合内容は見ごたえがあり、名勝負の一つであろう。

 試合後、選手同士で相手を讃える握手を交わし、テレージアから語り掛ける。


「おめでとう、京姫みやこさん。残念ですが、わたくしの負けですわ。」

「ありがとう。私も良く勝てたと思います。最初から最後まで、あなたに翻弄されてしまいました。」

「いかがでしたかしら? わたくしの祖先が戦場を生き抜くために編み出した技は。」

「素晴らしいの一言です。は大変参考になりました。私も鍛錬が足りないと身に沁みました。」

「わたくしも、対長柄武器の技を使わされたのは、貴方が初めてだったのですわ。おかげで新たな欠点が見つかりまして大きな収穫でしたの。」

「それは光栄なお話です。ふふ、良い戦いでした。」

「楽しかったですわ。まだまだ戦い足りなくてウズウズいたしますわ! 今すぐ戦いたいところではありますけど、また、いずれ!」

「ええ。!」


 観客の拍手が鳴り響く中、再び握手を交わし、京姫みやこの試合は終了した。



 今回、京姫みやこは反省点も多いが、大きな実りがあった。技とは。型とは。目的を成すため、戦いの中で如何なる時でも身体を動かすための下積みだと。言葉では判っていたつもりだが、はっきりと体感させられた。

 それを教えてくれたのがテレージアであった。

 想定外なぞ存在しない。それは人の技。なれば、全てはあり得るのだ、と。



 ――槍が大きく弾かれたとき、テレージアの剣ごと押しやられた。そこで、彼女が大型両手剣で攻撃をするつもりはないと判った。

 あの構え、左手を脚の根元に置いていたのは、身体を捻った際に左手でショートソードサブ武器デバイスを抜刀するためだった。

 こちらは、上半身ごと流されるまま右手だけで脇差の柄を持ち、上半身を右に捻り抜刀する。そしてテレージアのショートソードを下から切り上げる様に刃を立てて受け止める。

 後は剣先を上向きに時計回りにショートソードを巻き、切っ先をテレージアの手首に届かせた。しかし、ショートソードはこちらより長い刀身を生かし、巻いて攻撃の導線を外した腕に、捩じり込む様に剣先を届ける。

 そして相討ちとなった。

 


 競技を楽しむ。しかし、その先を望む者がいる。

 その先を見んがために、ここマクシミリアン国際騎士育成学園に集まるのだ。

 そして、強き者との出会いは、彼女達を着実に高みへ導く。

 願わくば、遥か遠くを見つめる彼女たちが道を見失わんことを。



********

 最後に少し余談を。

 折角なので劇中に登場した彼女達のサブ武器デバイスウェポンを紹介しよう。


 テレージアの腰に佩いているのは、Katzbalgerカッツバルガーと呼ばれるランツクネヒトが愛用した片手両刃剣。全長が80cm程で刀身が70cm弱。剣先は、4cm程の曲線を書く三角形。柄側の6cm程は刃が付いていない。重さは1kg弱。剣幅が5cmある幅広のショートソードに分類される剣で、最大の特徴はS字型に湾曲した鍔である。この形状は、相手の衣類を引っ掛けたり、布を巻いたりする用途であると言われている。柄は豪奢な金細工が施され、柄頭にリングがあるところを見ると、飾りもしくは落脱防止の紐などを巻き付けるものと思われる。ランツクネヒトは主に、長柄武器や Zweihänderツヴァイヘンダーなどの大型武器を使用するため、その武器が使えない乱戦時に活用する剣である。この剣身の柄側6cmが実体となっており、鞘に納める際の剣を固定する部品替わりとなる。


 京姫みやこの帯紐左に挿しているのは、備前国住びぜんこくじゅう長船おさふね七郎衛しちろうえ門尉もんのじょう行包作ゆきかねさくがモデルの脇差である。刀身は46cm(1尺5寸2分弱)、元幅3.26cm、先幅2.66cm、元重もとかね(鍔元の厚さ)0.57cm、柄は13.6cm(4寸5分)、重さは柄を合わせて600g弱。

 拵えは黒塗りで統一しており、特徴は鞘や柄の拵えを居合の実用性があり堅牢な肥後拵ひごこしらえにし、柄は短く、頭(柄頭)とこじり(鞘尻)は丸みを帯びている。下緒さげお(帯に鞘を固定する紐)は緑の組み紐。柄巻きは諸捻巻もろひねりまき。はばき(刀身を鞘に固定する部品。柄側根本に嵌める)は二重ふたえはばきとなっており、刀身に触れる下貝は銀着せ、上に被せる上貝は金着せ造りとなっている。はばきで柄を鞘に固定し、抜刀時、はばきの先から刀身が生成される。



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