01-011.長柄武器同士?いいえ、剣で決めます ~京姫その2~
先の
そして始まる第2試合。
『お待たせしました、第2試合の開始です。第1試合では、キューネ選手が大型両手剣でまさかの速攻! しかし、
『それ以降は、まるで槍同士が戦う様相を呈し、どちらも一歩も引かず! 剣と槍、意地と意地とのぶつかり合い、勝利の女神がほほ笑むのはどちらか!』
『そして、独特のコスチュームで特に海外での人気が高い二人。
その海外は主に極東あたりの人気だと思われる。特に「履いてない」ところとか。
『双方、開始線へ』
審判の合図で、お互いに向かい合う。それぞれ刀身が消えている武器デバイスを脇に抱える様にしている。
「ほーっほっほっほっ! 1試合目はまんまと取られましたが、次もそうとは限りませんことよ!」
「ふふふ、あなたの
「あら? お褒めに
「ところで、貴方のその硬い口調、何とかなりませんの?」
「根っからの性分ですので、ご勘弁を。それより、気になってたのですがその高笑いは普段されていないのでは?」
「キャラ作りですわ。」(早口)
「…言っても良いのですか?」
「構いませんわ!」
観客やTV放送、動画配信向けのサービス会話は、どの試合でも大抵行われているが、
テレージアのファンも、彼女は正直者故、珍妙な会話になったり時にはコントになったりするので、今日は何を言うのかと楽しみにしているのである。
そろそろ、良い時間になったところで、審判から合図がかかる。
『双方、抜剣』
二人の武器デバイスから、刀身と穂が生成される。
『双方、構え』
一方、テレージアは、左半身となる
『用意、――始め!』
審判の合図とともに、
左右の足で滑る様に一息に踏み込み、テレージアの左膝に突きを入れる。すかさずテレージアは、左脚を引き、右脚を前に踏み込みながら剣を下段に向け、槍の軌道を右側へ流す。槍の柄がキシリと音を立てる。
そして
テレージアは、左脚を前に一歩詰め、右脚を外側へステップし、槍の穂先を股の下へ潜らせた。この位置からでは反撃は出来ない。
一歩進んだことで、槍を引き切るより早く剣先を届かせることが出来る。テレージアは右脚を踏み込みながら下段右に下した剣を振り上げ、後退する
そのまま切り上げを止めず、自分の身体から離れて行った槍の柄を
――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が響く。
そして、槍が宙を舞う。一瞬、槍に目をやってしまった。
――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が再び響いた。
しかし、テレージアはここでも予想の上を行った。槍を跨いだのだ。槍の軌道からは、左右の脚を薙ぐことも出来ず、切り上げるにも下腹部は攻撃対象外であるため、故意による攻撃は出来ない。そうすると、槍を引いて仕切り直すしかない。自護体は力を出し易く、且つ防御も可能な構えではあるが、攻撃と防御の起点となる槍が使えなければ意味がない。
テレージアの剣は、槍の左外側のまま下段を維持しており、左脚と左腕が攻撃範囲内に捉えられている。
が、そこへ剣先が追従し、左脚が切り上げられた感触が伝わる。切り上げの勢いは止まらず、そのまま引かれた槍の柄を
その瞬間、槍を捨てた。柄から手を放し、されるがままとした。
そして、右脚を前に出しながら、右半身を左へ捻り正面にかぶせ、左脚を折りたたんで右片膝の形へ移行する。左脚は使わないためダメージペナルティは無視できる。
左手は脇差に当て、鯉口を内側に捻りながら切り、右手を脇差の柄に添えて上半身を右に捻る。それだけで刀は抜ける。
後は、そのまま一文字にテレージアの右脚を薙いだ。
刀身が短い脇差ではあるが、一文字からの切り上げや上段への移行は、刀身を振りか
テレージアは、動けない。右脚のダメージペナルティにより大型両手剣を扱うだけの身体能力が発揮できない。
仮に、今攻撃に出てもポイントは奪えるだろう。だが、一瞬で目の前から消えサブ
だから
試合開始から2分が経過する。
あれからテレージアが1ポイント、
お互いが隙を出さず戦況は再び膠着、正に一進一退と言ったところ。
テレージアは流れを引き寄せるため、少し強引に仕切り直しを試みる。
「
「…おもしろい、受けてたとう。ならば私も胸への刺突を行おう。どちらの突きが優れるかここで決めさせて貰う!」
お互いニヤリと嗤う。
テレージアは左半身を開き、右肩口に剣を引き付ける防御崩しの型、
そして、
お互いが左半身である。同じ射程となるため、相手に届かせるには右腕も目一杯伸ばす必要がある。さすれば身体を右に捻りながら突きを入れることになる。
間合いは約3m程。突きであれば一足で届く距離である。
空気が張り詰める。
彼女たちは呼吸を読み合う。そして、呼吸が合った時。
二人は同時に飛び出した。
相互で最速の突きを出す。
テレージアは左脚のつま先に力を入れながら、後ろに引いている右脚を前に振り出す。同時に柄頭に軽く添えた右手を強く握りしめ突きの挙動を開始する。
剣先と穂先がすれ違うように重なる。槍の
テレージアの剣に巻きを仕掛けて弾かれた。彼女の突きは微動だにしない。このままでは確実に攻撃は当たる。ならば、相討ち覚悟でこちらの突きも当てる。
だが、テレージアの剣も不自然に伸びてくる。槍と同じように利き手を柄頭に持ってリーチを伸ばしていたのだ。
ヴィーーと、1本取得を知らせる通知音が響いた。
この競技のシステムでは、
『
『
ポイントはリードされているが、テレージアはご機嫌だ。剣を槍として振るう秘儀を使うことに値する、初めての相手と巡り会えた。
最初から剣の柄を右手で持って、剣の長さ全てで突き出す作戦であった。そう、重い大型両手剣を柄頭のみ右手で握り運用する。通常は出来ない。今まで使い続け、自身の身体の一部と化した大型両手剣であり、それを
だが、さすがに
お互いが、片手で目一杯伸ばした先は、
『第2試合終了』
審判からの合図が出る。1本が取得されたため、第2試合は修了し、第3試合へ移行する。
「さぁ、楽しくなってまいりましたわ!」
テレージアは、思わず言葉がこぼれた。
『皆さん、ご覧になりましたか? 怒涛の第2試合! 第1試合と攻守が変わり、
『そして、そして! 槍と剣の突き対決では! まさかまさかの
『お互い一歩も引かず、高度な技の応酬に目が釘付けです! さぁ、これからどうなるのか! 肌色が目立つ注目の第3試合開始です!』
解説者は少し興奮気味である。試合中の解説は抑揚はあっても適切に行っているのだが、どうも、試合開始前後のコメントはハメを外してしまう様だ。要精進。
その様子を残念な目で見ていた審判が合図を発する。
『――双方、開始線へ』
「先ほどの突きは、見事でした。まさか、捌けない突きがあるとは思いませんでした。」
「貴方こそ。槍の
先ほどの1本が加算され、
テレージアにとっても正念場である。
「ほーっほっほっほっ! まだまだこれからですわ!」
「ええ。最後まで楽しみましょう。」
『双方、抜剣』
二人の武器デバイスから刀身が生成される。
『双方、構え』
テレージアは、左脚を前に出し、右腕は軽く曲げ自然形で腰辺りに置き、剣先は少し下に向ける。そして左手は軽く拳を握り、左脚の根元に添える様に置く、十字の構えを取る。が、十字の構えとは相手に隙を見せてカウンターを仕掛ける構えである。そして、相手に背中を見せる構えでもある。つまり、テレージアは、
双方とも、試合では余り見ることのない構えを取っている。テレージアの構えは、通常、両手剣を棒の様に扱う、もしくは片手剣で盾を持たない際に用いるもので、大型両手剣で運用されるのは類を見ない。そして、
この試合に注目している観客達も、選手の構えにどの様な意図があるのか解らず、騒めいている。
『用意、――始め!』
審判の上げた腕が振り下ろされ、試合が開始された。が、第3試合の冒頭は両者とも動きがない。両者とも、見た目ではカウンターを仕掛ける待ちの技だからである。
しかし、
左立膝から、踏み込みをせずに突きを繰り出す。浅い間合いで相手の反応を引き出すためだ。
――テレージアは、ここでも想定を超えて来た。
テレージアは、脚の根元に置いた左手で、逆手のまま指で
シャリン、と金属を打ち合う高い音がする。
勝負は一瞬で決まった。お互いの剣がぶつかった瞬間、巻きから滑らせ、
――ポーンと、攻撃が成功したことを知らせる通知音が響く。
そして。
――ブーと、合わせて1本となった時の通知音が響いた。
『
『試合終了。双方開始線へ』
『
『
『よって勝者は、
観客から歓声が沸く。解説者も興奮して捲し立てている。双方共、サブ
試合後、選手同士で相手を讃える握手を交わし、テレージアから語り掛ける。
「おめでとう、
「ありがとう。私も良く勝てたと思います。最初から最後まで、あなたに翻弄されてしまいました。」
「いかがでしたかしら? わたくしの祖先が戦場を生き抜くために編み出した技は。」
「素晴らしいの一言です。生きた技は大変参考になりました。私も鍛錬が足りないと身に沁みました。」
「わたくしも、対長柄武器の技を使わされたのは、貴方が初めてだったのですわ。おかげで新たな欠点が見つかりまして大きな収穫でしたの。」
「それは光栄なお話です。ふふ、良い戦いでした。」
「楽しかったですわ。まだまだ戦い足りなくてウズウズいたしますわ! 今すぐ戦いたいところではありますけど、また、いずれ!」
「ええ。また!」
観客の拍手が鳴り響く中、再び握手を交わし、
今回、
それを教えてくれたのがテレージアであった。
想定外なぞ存在しない。それは人の技。なれば、全てはあり得るのだ、と。
――槍が大きく弾かれたとき、テレージアの剣ごと押しやられた。そこで、彼女が大型両手剣で攻撃をするつもりはないと判った。
あの構え、左手を脚の根元に置いていたのは、身体を捻った際に左手で
こちらは、上半身ごと流されるまま右手だけで脇差の柄を持ち、上半身を右に捻り抜刀する。そしてテレージアのショートソードを下から切り上げる様に刃を立てて受け止める。
後は剣先を上向きに時計回りにショートソードを巻き、切っ先をテレージアの手首に届かせた。しかし、ショートソードはこちらより長い刀身を生かし、巻いて攻撃の導線を外した腕に、捩じり込む様に剣先を届ける。
そして相討ちとなった。
競技を楽しむ。しかし、その先を望む者がいる。
その先を見んがために、ここマクシミリアン国際騎士育成学園に集まるのだ。
そして、強き者との出会いは、彼女達を着実に高みへ導く。
願わくば、遥か遠くを見つめる彼女たちが道を見失わんことを。
********
最後に少し余談を。
折角なので劇中に登場した彼女達のサブ
テレージアの腰に佩いているのは、
拵えは黒塗りで統一しており、特徴は鞘や柄の拵えを居合の実用性があり堅牢な
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