#08-08: ことづて

 コア連結室から艦橋ブリッジまで、私は声を上げて泣きながら歩いた。コア連結室の外でジョンソンさんが待っててくれなかったら、途中で動けなくなっていたに違いなかった。無力感とか絶望感とか、そんな陳腐な言葉では表すことができないほど、胸に空いた穴が冷たくて、痛い。


 艦橋ブリッジでは、ダウェル艦長ほか、全要員みんなが敬礼とともに出迎えてくれた。私はそれに応えることもできない。ただ、どうにかこうにかして督戦席に辿り着いて、腰を下ろしてまた泣いた。窓の向こうでは白銀の戦艦が沈もうとしていた。セイレーンEMイーエム-AZエイズィ、ヤーグベルテの最後の戦艦。


 私は涙を拭く。拭いても意味がないほど次から次へと涙はこぼれる。白い手袋は涙で飽和していた。私の顔は多分見れたものじゃなくなっていて、声も出ないし、息も吐けない。そんなありさまだったけど、とにかく少しでも視界を確保しようと涙を拭き続けた。


 あの戦艦の中にヴェーラはいる。でも、ヴェーラはもう――。


 その時、私の視界に真紅の戦闘機が、エキドナが入ってきた。それは悲しげにセイレーンEMイーエム-AZエイズィの上を何度も周った。


「さきほど、エウロスのエリオット中佐から連絡がありましてな」


 ダウェル艦長が私に背を向けながら言った。


「うちのバカが一機でそっちに行った。間に合ったらよろしく頼む、とね」

「間に合わなかった……間に合わせられなかった」


 私は呻く。ダウェル艦長は頷いた。


「それが、という一人の人間の答えだったのでしょう」


 戦艦がゆっくりと、海に没していく。


『マリオン、アルマ』


 エキドナから空の女帝エアリアル・エンプレス、カティ・メラルティン大佐が音声のみで通信してくる。


『……見えてたよ、全部』

「見えてた……?」

『感じたって言う方が正しいのかもしれない』


 どういうことなのか、よくわからない。けど。


「ヴェーラは、最期に……」

『それも聞いてた。なにが、ほんとにごめん。いままでありがとう、だ。あいつめ……』


 その声には本当に僅かだけど、震えがあった。激情を抑えてる――すぐにわかった。


『がんばったな、みんな……』


 メラルティン大佐はそう言うと通信を切った。


「大佐……」


 聞こえる。メラルティン大佐の慟哭が。エキドナは飛び去ってしまったけど、その声は私の心にダイレクトに突き刺さっている。


 私の喉はもはや音を紡げない。嗚咽と落涙。今の私にできるのは、それだけだった。

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