#07-03: 静かな夜に光る空
それから私はコア連結室に移動して、セイレネスを
「見えた」
セイレーン
それからすぐに、私の隣にレベッカの気配が上がってくる。姿は見えないが、わかるのだ。
「提督、なにか変な感じがします」
『感じます、私も。何でしょう、これは』
指数関数的に、不快感が膨れ上がってくる。ナイアーラトテップ
その気配は、アーシュオンの艦艇から感じられた。駆逐艦だろうか。それが……五隻もいる。
『凄まじい
レベッカが苦しそうに言ったその直後、私たちの前に別の意識が現れた。
『
『イ、イズー……!』
イザベラの気配の出現と同時に、聞こえていた金切り声のような不協和音が消えた。イザベラは「まったく」と呟いている。
『きみたちにこの悪趣味なゲテモノを見せるためだけに、今の今までアーシュオンの
「悪趣味なゲテモノ?」
『アーシュオンが人体改造でセイレネスを起動できるようにしているのは知っているね?』
「はい」
『これはね、その
イザベラの意識の手に、私とレベッカは引っ張られた。逆らいようもない。そのまま、私たちが不気味だと感じた駆逐艦に引き込まれていく。そこから響く金切り声が私たちの意識を侵食していく。
「この部屋、コア連結室みたい……」
私は扉をすり抜け、暗黒の空間に辿り着く。そこには一つ、マネキンの頭があった。
「マネキン?」
『生きてるよ、それ』
「!?」
私の意識がそれの前に近付いた――押されたみたいな感じだ。
それは、頭髪も胴体もない、首から上の人間だった。目を見開き血走らせ、笑っている。何の感情もなく劇薬のような笑い声を垂れ流している。首の断面から伸びた無数のケーブルが、彼女を生き
きゃははははは!
……と、それは笑い続けている。肺も横隔膜もないのに、笑っていた。胃が
『この子たちはね、薬物で常に限界ギリギリのところまでトランスしているんだ。自分が誰で、ここがどこで、どうしてこんなことになっちゃったのか。この子たちは何一つ知らないし、もはや理解することもできない。もちろん、元に戻ることもね』
『こんな外道な……!』
レベッカの声の温度が明らかに高い。対するイザベラは極めて低い。
『アーシュオンはこいつを開発するために、何千何万っていう自国民を犠牲にした。そして確立してしまったんだ。こんな歌姫もどきを量産する技術をね』
「量産……!?」
『そう。五隻いるだろう? しかも沈んだって構わないと言わんばかりの、どうでもいい旧型駆逐艦に乗せてさ。でも、この子たちはよくできてる。マニュアル通りに整備すれば壊れることはないし、わたしのように反乱することもない。しかもメンタル的には極めて高い水準を維持できる。ほんの僅かな休息時間で、ほぼエンドレスで戦い続けられる』
その冷たい声は、イザベラの怒りの裏返しだと直感する。
『ヤーグベルテの首脳陣が知ったらどうするだろうね、この技術。
『冗談じゃないわ! そんなこと、誰も許さない!』
『あははははははははは!』
イザベラの哄笑。
『敵が次々
「でも、こんなの、おかしい!」
私が吐き捨てる。私の目前で、生首の歌姫はひたすら笑っている。
『おかしくてもね、許さない国民は
私もレベッカも口を挟めない。イザベラは
『アーシュオンの
ゾッとした。この一瞬で、私の心の奥底がドライアイスのように冷え切った。
『わたしは世間知らずにも、
「あっ、そうだ!」
――これを持ち込めば、今なら言い訳は立つ。
そう言おうとした。が、それはイザベラの笑い声で
『わたしはもう、戻れないんだ。だってさ、ほら。きみたちの中では、わたしがレニーを殺したことになっているんだよね?』
「えっ?」
殺したことになっている――?
『レニーを殺すはずがないだろう、わたしが』
イザベラは
『レニーはアルマの護衛として退避させるつもりだった。なのに、なぜか第七艦隊がすぐそこに現れてしまったんだ。だから、レニーを逃がすことができなかった。口実が立たなかった。レニーを
「ではなぜ……」
『映像は事前に周到に準備されていたんだろうね。あの映像はよくできていたけど、事実じゃない。だって、レニーはさ。わたしのところへ再合流した直後に、戦死してるんだから』
戦死……!?
『そう、このゲテモノどもの先制攻撃を食らってね。予想外の不意打ちで、わたしの力でも守りきれなかった。それだけは本当に……すまないと思う』
その瞬間、私たちの意識は第二艦隊の先頭に戻っていた。イザベラの気配は遠い。だけど、強烈な怒りは届いてきた。
白銀の戦艦から発されたオーロラグリーンの輝きが、暗黒の海をまだらに染めた。
――女神が、怒りを歌っていた。
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