#06: きみは言葉が足りないんだ。
#06-01: 帰還
犠牲者は、
私たちは駆けつけた第三艦隊と合流して、修理と補給を受けつつ統合首都の港に帰り着く。それまでの間、私はほとんど誰とも喋れなかった。戦闘後に
一週間少々して、ようやく港に降り立った私を待っていたのは、先に到着していたレオンだった。同期の
「レオナ、任せて良いな?」
エディタはレオンの肩に手を置くと、頷いて歩き去った。
「ごめん、みんな」
私は俯く。膝の力が抜けていく。私の背後に佇む黒い
「マリーが謝ることじゃない。だいじょうぶ、みんなわかってる」
「レオン、でも——」
「みんな、どこに向けたらいいかわからないんだよ、この痛みを」
レオンの言葉に、
「さ、みんな。マリーのこの顔を見ても、まだ何か言えるかい?」
肩に置かれたレオンの手が温かくて、私の横隔膜が痙攣を起こしそうになる。顔が上げられない。今すぐ膝をついてしまいたい。そう思うのに、私の身体は動かない。
「戦死者が出たのはつらいさ。だけど、それを、一緒に戦って、一緒に傷ついた誰かのせいにするのはおかしい。違うかい?」
レオンがみんなに向かって語りかけている。私は袖で涙を拭く。でも、みんなを直視する勇気は湧いてこない。
潮騒だけの時間が過ぎる。影がじりじりと動いていく。
「はいはい、そこまで、そこまで」
パンパンと手を叩いて現れたのはイザベラだった。アルマとレニーを後ろに従えている。
「マリーを責めても死んだ四人は帰ってこないよ。初陣で二個艦隊撃破。損害四隻。感情的にはともかく、数値的には大勝利さ」
私とレオンを正面から抱いて、イザベラは「ついてこい」と囁いた。一も二もない。私たちはイザベラの後に続いて、その場を脱出する。
私たちは例の大型車に乗り込んだ。私の隣にはレオンとアルマがいる。向かい側、進行方向に背を向ける形で、イザベラとレニーが座っている。運転しているのはタガートさんで、助手席にはジョンソンさんが座っていた。
「あー、うん。ベッキーを恨まないでやってくれよ、マリー」
「恨むなんて……」
「あの時、ベッキーが助けてくれていれば――そう言っているきみの声が、今もはっきりと聞こえているよ、わたしには」
そう。わかってはいても思ってしまう。イザベラの言葉は真実だった。
「きみの気持ちはすごくわかる。伝わってくる。わたしだって泣きそうだ。だけどね、理解してやってほしい。力あるベッキーが、その力を振るわない決断をした勇気を」
「でも、その結果、誰か死ぬのでは、その」
「死ぬんだよ」
イザベラは静かに言った。
「誰であろうと。簡単に。それが戦争。特別な人なんていない。誰も彼も、運が悪ければ死ぬ。これはごっこ遊びなんかじゃない。それはわたしたちの時代で終わったんだ。きみたちの時代は、もう始まっている」
「仲間がどんどん死ぬ時代が、ですか?」
「そうとも言える。そして、正常な時代だとも言える」
イザベラは流れていく景色と、カメラを構えるマスコミの人たちを
「
イザベラは私を正視する。その瞳の色はわからない。
「わたしもベッキーも、きみたちへの
「それって」
アルマが硬質な声を発する。
「ヴェーラやレベッカと同じ道を歩めということですか?」
「それはきみたちの考えることだ。無責任との
私は気付けばレオンの手を握っていた。レオンはじっと黙って、私の手を握り返してくれている。
「私は怖いんです、イザベラ。私のせいで敵が五千人死んだ。私のせいで味方が百人以上死んだ。一緒に訓練して、名前も顔も知ってる
「そうだね」
イザベラは息を吐く。
車が静かに進んでいく。向かっているのはおそらく参謀部の建物だ。
「それはとても……とても、悲しいことさ」
たっぷりと時間を置いて、イザベラはそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます