第8話 ハブハジメ
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勘違いをされるといけないので、予め断っておくが、市街地で普通に生活をしている分にはハブと遭遇することはまずない。多くは山林や畑に棲息していて、しかもコウジがいっていたように夜行性だ。
日中奴らがどこにいるのかといえば、石の下や生い茂った草木の根本など、日の当たらないジメジメとした場所でじっとしている。ちょうど今俺が覗き込んだ筒罠のように、暗くて狭い場所にな。
「マジかよ……」
おれは思わず絶句する。
マングースを捕獲するはずの罠に、立派な褐色の鎖模様がのぞいている。
さすがに、見て見ぬふりとはいかず、おれはハブ捕り棒を手に、寝た子を起こそうと突っつく。及び腰で腕だけ伸ばしている姿は、傍から見たらなんとも間抜けに見えることだろう。
だが、それも仕方のないことだ。ハブは意外にも俊敏な動きで敵に噛み付くうえに、自分の体長くらいの距離はその体のバネをいかし、軽く跳躍してくるのだ。ハブと対峙するときは、決して近づきすぎないこと、そして 頭を捕まえることが絶対なのだ。
しかし、おれがいくらつついても、ハブはその深い褐色の鎖模様をうねらせるだけで、一向に頭を見せる気配がない。
「
「うわぁっ!」
全神経をハブに持っていかれていたおれは、いつの間にか背後に寄っていた宮崎さんの声に驚いて、その場で飛び跳ねた。
「びっくりさせないでくださいよ!」
「いや、珍妙な踊りでもしとるんかい? ち、思ったんで」
「違いますよ! ハブを見つけたんです。ほら、そこの罠の中!」
ハブ捕り棒で指し示すと、宮崎さんはひょいと覗き込みながら「おお、おるわ」と嬉しそうにいって、おれからハブ捕り棒を掠め取った。そしてそのまま、乱暴にハブの体を引っ張り出した。
ハブはそのからだをくねらせて、物陰に隠れようとする。その瞬間を逃さず、宮崎さんは鮮やかな手つきでハブ捕り棒を操り、あっという間にハブの頭を掴んでしまった。
「おお、こりゃあ大物の金ハブじゃ!」
興奮して叫ぶ宮崎さんが高々と棒を掲げると、その先端から彼の身長ほどの長さのハブが、白っぽい腹を見せてだらりと垂れ下がった。ハブは必死に体をくねらせるが不思議なことに団子結びにはならない。
金ハブというのは、体表が一般的なハブよりも黄みがかっている個体だ。
宮崎さんは慣れた手つきでハブを持ってきていた丈夫な袋に放り込み、それを縛って木箱の中へと突っ込むと、満足そうにうなずいた。
「あげぇ、いいサイズの金ハブが捕れたや。大澤君、あいつは役場じゃなくて、ハジメさんとこに持っていったほうがいいぞ」
「ハジメさんって?」
「市内に向かう道沿いに、ハブの看板の出ている掘っ立て小屋があるだろ? あそこはハブの加工をしとるから、大物の金ハブは役場より高く買い取ってもらえるんじゃ」
「へぇ、そうなんですか?」
おれはハブはすべて保健所に持ち込むものだと思っていたので、そのういう場所があるのだと素直に驚いていた。しかも、強力な毒をもつ危険生物を商売道具にするなんて、物好きとしかいいようがない。
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結局、この日の調査を終えた午後四時過ぎには、箱には三匹のハブが捕獲されていた。もちろん、おれは一匹たりとも捕獲していない。
「大澤君、お疲れ様。これ、持って帰ってよ」
そういって、宮崎さんは一抱えもあるほどのバナナの束をおれに寄越した。島バナナと呼ばれる小ぶりなバナナだが、これだけの量があれば、当分の間、昼飯はバナナで過ごすことになりそうだ。
「ついでに捕まえたハブね。役場でもハジメさんのとこでも、勝手のいいところに持っていって、手伝い料の足しにしてよ」
小ぶりなバックル付きのプラケースにハブの入った麻袋を移し替えて、里山さんはおれにそれを押し付ける。おれは有難いようで迷惑そうに顔を引きつらせると、そのケースとバナナをスクーターの荷台に括りつけた。
頼むから運転中に飛び出してこないでもらいたい。あと、横転事故にだけは気を付けないとな。
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宮崎さんがいうように、研究所から十五分ほど走った道路脇に、ハブをかたどった看板らしきものが見えた。しかし、それは南国の太陽にすっかり色あせて、そういわれなければ、ハブだとも認識できないようなものだった。よく見るとうっすらと『
おれは店先にスクーターを止めると、入り口の階段をのぼり、ガラスの引き戸を開けて店内に足を踏み入れた。
店内の棚にはハブ皮の製品や、グッズ、怪しげな粉末に、ハブ酒。それにガラスケースには生きたハブまで展示している。どういうわけか、ピンク色のかわいらしい文字と、これまた随分とかわいらしくデフォルメされたハブのイラストが描かれたポップで、それぞれのハブにコメントがついている。
ポップにはハブ、金ハブ、トカラハブ、そしてヒメハブと書いてある。ハブたちどれもガラスケースの隅っこで団子みたいにとぐろをまいて、じっと丸まっていた。
おっかなびっくりのぞき込んでいた飼育ケースから離れて店内を見渡すが、店員の姿はない。そこで、暖簾のかかった店の奥のほうにむかって、おれは「すみませーん!」と大声をあげた。
ややあって、奥から「はーい」と返事があり、パタパタと足音を慣らしながら人が近づいてくる気配がした。
「お待たせしましたー!」
朗らかな声をあげて暖簾をくぐってきたその女性に、おれは目を見開いた。
細身な体に健康的な日焼け肌。はっきりとした大きな瞳は、化粧をしていないのに、すこし大人びている。短めに切りそろえられた髪は、やや明るい茶色に脱色している。
そこに立っていたのは、ヒメハブ……いや、依頼人、
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