第3話 いさましいさぎ
「【STARS】と【FINE ONE】!」
白鷺である【WORLD】の右翼が茶色とベージュ色に変色し、児童書と防災頭巾が現れる。【STARS】は以前にも見せていたがベージュ色の防災頭巾【FINE ONE】はナイアにとって初めての遭遇。
「これ、被って」
「えっうん」
マイから手渡された防災頭巾は小中学生用のものだがナイアでも余裕をもって被れるサイズだった。頭がすっぽりと収まり可愛らしくもある。しかし表情は真剣で再び武闘派の女と睨み合う。
「その【FINE ONE】はナイアの身体を少しだけど守ってくれる。私も【STARS】で援護するよ!」
児童書のページを開いたマイは今回こそ役に立ってみせると意気込んでいた。昨日は何の成果も上げられなかっただけでなく、イーサンにマフラーを壊され忌まわしい記憶も思い出してしまっている。
(私の生きる意味……というか、死にたくないって思える理由を見つけなきゃいけない気がする)
周りの知り合いが殺されてしまい、パニックになるだけでなく“逃げたい”と感じた記憶。それだけでなくマイはこれまでも
苦く、嫌悪感が溢れるそれらに打ち勝てるほどの生きがいを探し当てられれば、幾分か楽になれるのではないか。
そう思ったマイはナイアに協力する。何故なら、思い出した記憶では沢山の友が犠牲になっていたから。
(今まで私が、ラヴちゃんやパパ以外に親しくできていなかったのは……もう大切な人を失いたくないって気持ちが奥底に眠ってたからなのかも。新しく親友を作らなければ、そもそも別れる事もないから。だけど……信じてみたい。ナイアだけじゃなくて、みんなとも協力して、あの記憶を塗りつぶせるくらいの楽しい思い出を作る! そのために!)
マイが手にした【STARS】の力によって、ナイアが装備する2つの車輪に茶色い岩石がまとわりつく。
「ここを切り抜けて、キーネとイーサンのところに急ごう! キーネには私も聞きたい事があるから!」
「頼もしいよ………!」
ジャムが使用した際はナイアだけでなくロックも傷つけた茶色の力だったが、今になって頼りになる存在と化した。車輪の回転も始まると共にナイアの心拍数も上がっていく。長い息を吐くと足を動かし武闘派の女に向かう。
「かかってきなよ……今度はワタシも無傷じゃ済まなそうだけど」
「大怪我はさせない、つもりです!」
岩石を纏った2つの車輪が投げられ女へと襲いかかった。左右からの攻撃に彼女は両手で受け止め先程のように巻き戻そうとしたものの、回転する岩石達が皮膚を切り裂き食い込む。予想以上の痛みと出血。巻き戻しても回転はするので再び痛みを味わうことになる。耐えられないと判断した女は後方に飛び退き手を振り血を払った。
「これ結構な怪我じゃない?」
「私もさっきの、ちょっと痛かったんですから」
「ならしょうがないか」
そうは言っているものの瞳は笑っていなかった。激怒とまではいかなくとも相当に苛立たせた事は確か。車輪を戻って来させたナイアだったが武闘派の女が2度目を許すはずもなく、次はナイアが迎え撃つ形になる。
「こっちから攻めてあげよう!」
女は無傷の足をはためかせナイアへ走る。接近戦ではナイアの方が不利な状況になっていく事は誰の目にとっても明らかだが、マイを巻き込ませないためにナイアも前に出る。
「殴り合いしよっかぁ!」
「信じてるから、この【FINE ONE】を」
接近した両者は共に拳を突き出し殴り殴られのまるで泥臭い喧嘩のような戦いが始まった。【FINE ONE】の能力は“被った者に対する物理的な衝撃を15回まで軽減する”というもの。とはいえ武闘派の女による拳だけでなく足技も含まれた打撃の回数は重ねられすぐに15回は超えてしまった。
「痛いなあっ……!」
武闘派の女の方が深い傷を負っている。腕や足の肉が凹み、抉られる部分もあり痛みは最高値に近かった。そしてナイアの方も【FINE ONE】の能力が切れた直後、肋骨に入れられた拳によって骨が折れ音も響く。
「ぐぅぅっっ!!!」
先程は無様に吹き飛んだ強烈な一撃だったがナイアはその場から動かなかった。何故ならマイと、【WORLD】が背中から支えていたからだ。マイがナイアの右半身を、【WORLD】が左半身を抑える事で。本気のパンチでも距離が離れなかった事に驚いた武闘派の女は一瞬だけ驚き、その隙は見逃されなかった。
「トドメっ!」
ナイアの声を聞いたマイは【STARS】の能力を解いた。このまま車輪で攻撃してしまえば死ぬまではいかなくとも大怪我は確実だったからだ。岩石がなくなり、無回転の車輪が腹部にめり込む。
「あが……ぁっ」
出血を伴わない打撃によって勝負は決まった。ナイアの本気の攻撃を受けた武闘派の女は三歩だけ後ずさりしてから倒れ、荒い呼吸を晒す。ナイアも遅れてやってきた鋭い痛みで足が崩れるも、マイと【WORLD】が肩を持った。右の翼しか持ち合わせていない【WORLD】は持つと言うよりは添えているだけであったがナイアにとっては頼もしい事この上ない。
「なんとか、勝てた……かな。ありがとマイちゃん」
「ううん。礼を言うのはこっちの方だし、まだ終わってない。ラヴちゃん達も……きっと負けはしないって思ってるけどね」
お互いかなりの怪我を負いながらの決着。しばらくその場からは動けていなかった。
*
駐車場で警察官の男と戦っていたロックだったが、彼は傷だらけで黒い地に伏せていた。レイジの軽トラだけでなく複数の自動車がロックを囲むように位置し、武器でもあった【ROCKING’OUT】はその包囲の外にある。警察官の男は軽トラの荷台に座り勝ち誇った様子でロックを見つめた。
「この場で君に勝ち目はない。君のバイクも、この包囲網を突破しなければ動かせない」
男が言った通りだった。“乗り物を操る”能力はロックにとって天敵過ぎるものであり駐車場というフィールドも向かい風。けれどもロックはゆっくりと立ち上がり、警察官の男と睨み合った。
「……まだ立つ?」
「言ったじゃないですか“見過ごせない”って。俺はまだ、やれますから」
ロックはロォドと別れたあの時を思い出していた。ロォドは自らの
「どうしてロォドさんがワシ達に相談せず、君に協力して捜査していたか……分かった気がするよ」
それでも警察官の男は容赦をしない。
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